第283話
◇ ◇ ◇
戦闘前に弾丸、それもマッカランの弾丸を使うというマゾプレイをした後に古代種と戦うなんて暴挙を成し遂げ、その後すぐに俺は意識を失ってしまった。
まあ仕方ない。万全の状態で戦ったわけでもなく、ベストコンディションと言う訳でもなく、それでも古代種と戦ったんだ。ぶっ倒れても仕方がない。
そんな事を虚ろとする意識の中で思いながら目を開ける。
「ぅお?」
「きゃああぁっぁぁぁああ!!!!!」
―――マジでこの世界一回崩壊してくれねえかな。
そう思う光景が視界に広がってた。
ちなみにだが、最初に声を出したのは俺じゃない。デッキブラシの化け物が俺の顔を覗き込みながら何やらぶつぶつ呟いてやがったのだ。
そして次の悲鳴。これが俺だ。反射的に手が出たとしても誰が俺を攻められようか。
「ひ、ひでえじゃねえか……せっかく看病してたってのによ……」
「うるせえ化け物! 元を正せばテメエのせいで俺は切り札を切らされたんだぞ!」
切り札。モンテロッサの馬鹿が全力で投げ飛ばした槍をそのまま俺が“切取った”物だ。
これは全ての古代種に対して有用な文字通り切り札だ。しかし、呼び出すのにマッカランの弾丸の4倍、キルキスの弾丸の3倍ほどの魔力が必要になる。
その代わり、神剣の攻撃の数十倍、一気に古代種の体力を削ることができる。それに、現存する生物であの槍を回避できる身体能力を持っている化け物は存在しないだろう。
故に切り札だったんだが、まあ使っちまったものは仕方がねえ。
モンテロッサとの約束も結果として破ることになっちまったけど、考え方を変えれば約束の範疇ともいえる。
まあ、全ての原因は最初にマッカランの弾丸を使って脳みそにかなりダメージを受けたのがいけないんだけど、それでもあの場でこのモヒカンを死なせるのはどうにも惜しく感じちまったんだ。
「子分の二人はどうしたんだ?」
「あぁ、アフォードとトーモアなら今頃町の周囲の警戒に入ってるだろうな」
「そうか」
「……なあ、あんたってやっぱり……」
「んじゃ、俺はもう行くわ。看病サンキューな。これで貸し借り無しってことで」
それだけ言って、俺は何か言いかけているモヒカンを置いて窓から飛び降りる。
こういうのは多く語らない方がかっけーんだ。おじさん知ってる。
「ふんギャッ!?!?!?」
窓から飛び出して、そのまま宙返りを華麗に決めて着地―――したと思ったら足を思い切り挫いてしまった。
あまりの激痛にその場で蹲り、零れ落ちる涙をぬぐう事もできない。
「……え、えっと……回復薬……いるか?」
「うっせっ! ばーかばーか! 死ね! こっち見んな! 妊娠すんだろ!!!」
窓からこちらを覗いてきた世紀末野郎にナイフを投げつけながら、結局びっこを引いて裏路地に逃げ込んだ。
壁に背中を付け、そのままずるすると崩れ落ちる。
全身から力が抜け、そのまま立ち上がることも億劫になってしまう程の倦怠感に襲われる。
俺の想像以上にダメージを負っていたらしい。
あの巨大な砂の津波に飲まれた時のダメージが未だに引いていない。あと一瞬、あと本当に一瞬遅かったら、今頃俺は生きていないだろう。
それに、緊急回避で使う結界と爆炎陣のコンボも、実は俺自身にダメージがある。そんな事を繰り返しながら戦ったわけだ。本来は俺の戦いやすい空間をつくる為と、周囲に被害を出さないために“戦場”を構築するんだけど、今回はそこまでの余裕がなかった。
まあそれでも、何とか生き残れたのは前回一張羅を手に入れていたからこそなんだが。
一張羅は互換罠で違う場所に飛ばすと勝手に俺のことも連行する悪癖がある。これは相手に知られると非常に厄介な弱点だが、当時は陣術はメジャーではなかった。だからこそ結構多用してたんだが、この時代では陣術を使える奴がいることが分かった。
それもメインで使う位には使い込んでる連中だ。そう言う連中に一張羅の特性がばれると非常に面倒だ。
「……ったく、休ませてもくれねえってか」
ため息を吐き出し、動くことを拒絶する怠け者全開な体に再び喝を入れ、足を進める。
ちらりと見えた後ろ姿。それを追いかけるように俺は足を進めた。
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