第278話
なぜより多いダメージを与えられる神剣での攻撃をしなかったのか。それは至極簡単なことだ。
如何に神剣と言えど、一撃で古代種を倒す事は出来ないし、攻撃したところは普通の外傷に比べれば長持ちするものの、それでも回復はされる。
古代種は体力が尽きない限り死なないって言うクソみたいに厄介な性質を持っている。だからこそ古代種との戦いは長期戦を覚悟しなくてはならない。
ここで一度多く切りつけるよりも、今後より攻撃を当てやすくなるのであればそれに越したことはないのだ。
突き刺した傷口は人間にしてみれば相当な深手になるであろうが、古代種からすれば大したものではない。あれくらいの“外傷”はすぐに癒される。
だが、それでいい。
『きさまぁぁぁあ!!! 貴様貴様貴様ッ!!! このルカンに幾度となく刃をッ! 人間の分際で、数だけが取り柄の下等な存在の分際で!!!』
「おーこわ。あんまりカッカすると体に良くないぜ? ちゃんと牛乳飲んでる?」
幻魔石の魔力回復を待ちつつ、ルカンの周囲を駆けまわり、時折ナイフの投擲を行う。
運よく刺さってくれたものに関してはもれなく付与した爆炎陣を起動し、微かながらダメージを負ってもらう。
やはり最も効率よく体力を削れるのは神剣だが、しかしそれだけに頼るようではこの化け物に勝つことはできない。
一瞬の油断もできないし、これだけ優位に進められている状態でも一発で逆転される可能性が非常に高い。
だからこそ、アイツがくたばって、死体になるまで絶対に油断はしない。
「―――ッ!?」
そんなことを考えた矢先、足元から嫌な予感がして、俺は上空の結界にパイルを放って大きく飛び上がった。
―――あと少し、コンマ1秒反応が遅れていたら……ルカンの攻撃が妙に単調なことを警戒していなければ、たったいま足元からせり出してきた砂の針に全身を穴だらけにされていたことだろう。
「生憎と男にも、化け物にも俺の初めてをあげる気はねえんでな!」
『人間は空中では移動できない不便な存在だッ!』
「―――しまっ!」
マズい。そう思った瞬間、パイルに体を持ち上げられているだけの俺に向かって鋭く尖った砂の槍が放たれた。
「―――結界! 爆!」
即座に札を放ち、座標を固定していない結界を展開。その後に札の爆炎陣を起動し、その爆風を結界で受けることで何とか今の一撃を回避することに成功したが……
『今度こそ、砂に飲まれろ!!!』
地面に辛くも落下した俺の目の前には先ほどの巨大な津波が迫ってきていた。
受け身も満足に取れなかったため、そもそも起き上がるのに時間がかかる。それに最初の津波で足元が柔らかい砂に変えられているせいで踏ん張りさえもままならない。
あ、詰んだわ。
いくつかある切り札を切ろうか真剣に検討しようとした時、俺の両サイドから声が聞こえた。
「11時の方向! あそこだけ少し薄くなってる! 狙うならあそこだ!」
「わかりました!!!
「かの者の刃は万物を切り伏せる!!!」
的確に攻撃のムラを見抜いたアイリークの指示に従い、アフォードが最大の技を放ち、それにトーモアが言霊のバフを掛けた。
見事としか言いようのない連携だった。
アイリークは自身の役目を瞬時に理解し、アフォードはアイリークのことを完全に信じて即座に指示通りの動きを行い、アイコンタクトさえなかったそれに対し、発動までにアフォードよりも時間がかかるはずのトーモアが完全なタイミングでバフを与えている。
並大抵の絆じゃここまでの連携は出来ないだろう。
そしてそれだけのことをして、光の戦士の全力と、聖女の全力が掛け合わされた攻撃であれば、殲滅力が高いだけの広範囲攻撃、しかもその中でも脆い部分であれば――――破壊可能だ。
「とびこめぇぇぇええ!!!」
辛うじて切り裂くことのできた隙間に俺達は身をねじ込むように飛んだ。
その瞬間、まるで地面が吹っ飛んだのかと思う程の浮遊感が一瞬体を襲い、そののちに周囲から一斉に砂の濁流がこちらに迫ってきた。
「いっけぇぇぇぇえええ!!!」
アイリークの持つ鎌とアフォードの剣の上に乗り、それをアイリークとアフォードの二人がかりで振り抜く。
それによって生み出された推進力は途轍もない速度を生み出し、見えている景色が横に伸びた。それと同時にほぼ勘の世界で神剣を横に突き出す。
「―――四回目ッ!!!」
◇ ◇ ◇
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