第276話
『ほうほう。この我自体に貴様ら人間の個性が通用しないのは周知の事実だが、我々の起こした現象に個性が通用するのを知るモノは少ない。貴様、なかなかどうして面白いではないか』
今のはまあ、直ぐに個性だってバレちゃうよね。だけどそれでもいいんだ。既に次の
『次はどうしたものか。全方位から砂弾を撃ち込むか、それとも圧倒的な質量をぶつけてみるのも悪くはないが―――』
「その前に自分の状況に気が付いたらどうだい兄さん」
既に俺は次の攻撃の準備をしている。というよりも、そのカードを目の前の糞鮫がくれたんだ。
残しておいた砂弾を張りつけし、一斉にルカンに向けて放った。
さすがにそれなりの力を込めている砂弾なのか、そのまま受け止めるようなことはなく、一度ルカンは大きく吠えることでそれらを全て無効化してしまったが、それでいい。
そもそも、こいつの攻撃でこいつにダメージを与えられるなんて考えてもいなかった。
だからこれは布石。大量の札に陣術をかきこんだ、陣の応用バージョンである
種明かしとしては、中身を繰り抜いて札を詰め込んだだけの簡単すぎる工作だ。だけどこういう単純な物こそ意外と警戒をすり抜けやすい。
「―――爆」
ルカンの咆哮以上の地響きを立てる爆発が起こり、その場は一瞬にして砂埃にまみれて視界が完全につぶれた。
だからといって油断できる程俺は強くないんでね。
「ペースト」
生体魔具によって古代種用の爆弾を大量に降らせつつ、先程の砂弾を乱れうちにする。
すると煙の中からかすかな悲鳴が聞こえてきやがった。
「はッ! 古代種ってのは大したことねえんだな!!!」
俺の挑発にルカンは答えることなかった。姿は依然として豪炎に飲まれているため確認はできないが、これだけの攻撃を受けて無事なはずがねえ。
『―――そう思うのが人間の傲慢だ』
まるで思考でも読んでいたかのような口ぶりで地面から口を広げて出てきたルカン。
ところどころ焦げ付いているが、それでもそこまで大きなダメージを受けているように思えない。
『人間にしてはなかなか面白いモノであったが、所詮人間は人間であったか』
「―――って、そう思うのがお前ら古代種の傲慢なわけだ」
口内にある岩も木も何もかもをぐちゃぐちゃにかみ砕いたルカンはそう満足げに語っていたが、俺はその隣で神剣を既に構えていた。
「まず……一回」
深々と差し込まれた神剣から、もはや呪いともいえる恩恵が流れ込んでいく。
それに苦しそうな声をあげたルカンはその場からすぐに離れる様に地面に潜ったが、そうは問屋が卸さない訳ですよ。
「―――爆」
あいつが口に放り込んだのは間違いなく俺の幻覚だが、ただの幻覚じゃない。
ユーリさんスペシャルグレートゴミシャス汚物かかし君1号だ。
要するに、臭い袋がしこたま詰め込まれた案山子さんだ。これを口の中で起爆すればどうなるか……人なら即死の臭さだぜ。
『あがぁぁぁっぁっぁあぁぁああああ!!!』
さっきは終末の日みたいな絨毯爆撃を食らっても微かに声を漏らした程度だったルカンだが、今度はただ口の中が臭いだけで盛大に、それこそ断末魔にも似た悲鳴を周囲に轟かせた。
そもそも水中や地中に潜る連中ってのは大体のところで鼻と耳が異常なほどにいい。
そしてそれと同じように目が悪い物だ。
海中では様々な要因で視界が遮られるし、そもそも地中は視界なんか欠片もありゃしねえ。
じゃああいつらがどうやってこっちの居場所を知っているかと言われれば、上記の二つになるわけだ。
その内の一つ、嗅覚を一時的にとはいえ完全に使用不可能に追い込んでやった。
これだけでもあの地面の中から飛び出してくる最も厄介に感じる攻撃はある程度防ぐことができる。それにこちらの居場所も悟られにくくなったわけだし。
「よそ見してていいのかよ!」
上空に体をのけぞらせるようにしているルカンに対し、声をかけてやれば、すぐさまそこに巨大な体を如何なく使った尾鰭のビンタが飛んでくる。
ガシャーンと、例えるのなら道路の真ん中に置かれたラジオを車が轢いたような、まあそんな音聞いたことないんだけど、とりあえずそんな音が周囲に響いたわけだ。
「よそ見して―――よそ、そみみみみみみ……」
バグったように同じセリフを吐き出し続ける“それ”に気が付いたのか、ルカンは苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。
「―――二回目」
足元に設置したレコーダーからの声を俺本人だと勘違いしてくれたおかげで安全に二回目の斬撃を叩きこむことに成功した。
再び砂上で身をよじらせ、周囲の物を手当たり次第に破壊しているルカン。その力は序列を持っていないにしても、やはり古代種。
一匹で大陸を震撼させるほどの、この世界最大級の脅威に相応しい暴力だった。
「―――雷」
だけど、俺にしてみりゃそんなもん……遥か雲の上の存在ってだけだ。
カリラやローズ、それにチョコチやエヴァンと同じように、追い付くことも測ることもできないような、遥か雲の上の存在。
俺のような虫けらにとって、強すぎる存在の大小なんてそこまで重要な事じゃないんだ。
重要なのは、その生物が“殺して死ぬかどうか”だけだ。
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