第258話 魔法少女って着替えるだけで強くなるの狡くね

 ◇ ◇ ◇


 嫌なことがあった。

 そんな時は良く服を買って自分を着飾ってみた。


 それだけじゃ足りなくて、メイクも頑張って覚えた。


 弱気で人と話すのが苦手な自分を変えたくて、アタシはアタシを偽った。

 明るい女の子がやるようなメイクを。

 元気な女の子が着るような服を。


 そして何時しかアタシは、演じていただけの“理想の女の子”になることができていた。


 不思議な感覚だった。まるで自分が自分じゃないみたいな、どっか地に足が付いていないような感覚。だけどそこには全能感があった。今ならなんだって、誰とだって仲良くなれる。

 そんな気がしてた。


「はぁ、はぁ、はぁ…………くっそ!」


「なァんだよ。あのガキンチョの方は見込みがありそうだったし、テメエにも期待してたんだけどな。こりゃ外れだったか?」


 そう言って肩をすくめる男。

 盗賊のわりにしっかりとした装備に、荒々しくも膨大な研鑽が見え隠れする太刀筋。そんなアンバランスな男が目の前で眉を吊り上げた。

 

 こっちは戦士ソルジャーの大剣だっていうのに、向こうは小さな短剣二本。

 だけどアタシの振るう大剣を片手で流し、もう片方の手で攻撃を仕掛けてくる。

 二刀流という二つの選択肢を同時に実現できるからこその厄介さが確かにそこにはあった。


「はぁ。ボスも何考えてんだか分からねえし、こんな連中の相手したって腹の足しにもなりゃしねえっての」


 恐らくボスって言うのは、あの奥にいる大男のことだと思う。

 オレンジの髪を短く切りそろえた、戦士の中の戦士のような風貌の男。


 目の前の男の人から感じる強大な力。それ以上の物を奥の男からは感じちゃう。

 ぶっちゃけ今のままじゃ絶対に勝てない。

 

 だけど、友綱と、りょーかちゃんと3人でなら、あるいは…………


「はぁ、テメエにはどんだけ失望させられんだか…………俺にも勝てねえくせになにボスのことみてんだよ」


 振るわれる二刀。片方は大剣で防ぐことができたけど、もう片方はアタシの二の腕を浅く切りつけられてしまった。


「いたっ………」


「余裕こいてる暇ねえぞ?」


 すぐに背後のりょーかちゃんから回復が飛んできてアタシの傷を回復させてくれるけど、これじゃジリ貧も良いところだ……。


 大剣を盾のように使い、何とか攻撃をしのぎつつ、アタシはついに覚悟を決めた。


 今まで着ることさえもできなかった一つの“戦闘服ドレス”この場で着られるか分からないけど、勝機があるとすればもうそれしかない。


 アタシの日常がもたらした非日常なドレス。それを頭の中で思い浮かべて―――叫んだ。


「ドレスアップ【狂戦士の腰布響の下着】」


 正直これを渡された時は彼の頭がおかしくなったのかと思った。と言うか相当にやばい趣味してんじゃんってちょっと引いた。


 だけど、その本当の意味は違ってた。この下着は………いや、このドレスはアタシを確実に強くしてくれる物だった!!!



 ヒョウ柄の大胆な下着に、動物の毛皮を腰布代わりに巻いただけの……一見変質者にも見える格好に変わったアタシ。


 どうやら賭けはアタシの勝ちだったみたいだね。

 内側からあふれ出してくる力が今までの比じゃない。今ならなんだってできそうな、そんな全能感が全身を駆け巡っていく。


 手にしていた大剣も、さらに巨大で、さらに凶悪な見た目に変貌を遂げていく。

 まるで何かの顎のように鋭い牙の生えそろった峰を持つ大剣。


 巨大な肉食獣の顎を模しているようなフォルムのそれを肩に担ぎ上げれば、僅かに足が地面にめり込むのを感じた。


 それだけの重さがある武器を、今のアタシは軽々と片腕で持ち上げることができる。


 この力なら―――


「感じる加護がバカみてえにデカくなりやがったな……」


 そう言って若干の冷や汗を浮かべる男に向け、一気に駆け出し、横薙ぎに大剣を振るう。

 相手は英雄だ。さすがにこれで死ぬことはないだろうと思うけど。


「ぶっとべぇぇぇぇぇえーーーッ!!!!」


「————ギっ!?」


 今までのように片方の獲物だけではなく、今度は両手の剣を使ってアタシの一撃を抑え込もうとしてきた男。


 だけど、今のアタシに取ったらそんなん、ないのとなんも変わんない!


 防御の上から豪快に剣を叩き付け、そのまま全力で振り抜く。

 

 一瞬にして腕を組んでこちらを見ている大男の真横を通り抜け、背後の木々を貫いて森の中に吹き飛んだ男。


「ハァ……ハァ…………ハァ…………次は……あんたの番っ!」


 マズい。想像以上にこのドレスは燃費が悪い。

 今の一撃、それもただ剣を振っただけなのに既に全身の力が失われつつある…………あと一回、あと一回でいいから持ってほしい。すぐに友綱もこっちにやって来て、あの大男と戦ってくれる。

 そうしたら、隙を突いて今の一撃をあの男にも…………


 そんな事を考えていれば、森の奥から不機嫌そうな男の声が聞こえてきた。


「いっててて、あぁ最悪だチクショウが。まさかお前みてえな雑魚に個性を使わされるとは思ってもみなかったぜ………だけど、そのおかげで一つ学べたか。慢心は良くねえな。どんなに小さな獲物も全力で。そうでしたよね、ボス。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る