第257話 サムライスってなんかオムライスの親戚感ある

「それを言うのならあんただって同じじゃねえか」


 服についた泥を叩きながら男に視線を合わせる。

 今の一撃、間違いなく手加減がされていた。

 一体どういう事なんだ?


「それもそうか。まあ些か卑怯に感じてしまうかもしれないが、俺の個性を特別に教えてやろうじゃないか」


 そう言った男は再び笑みを浮かべ、俺の目の前に現れた。

 この移動法も気になるところではあるが、今はとにかくこの攻撃の対処をしないとだな。


「―――十刃」


 俺の声を聴いた直後、男は完璧なタイミングに思われた奇襲を強引にやめ、後方に大きく飛んだ。


 まさか初見で見切られると思わなかったけど、それでもやはり個性という物は使い方次第で十分に化ける。


 たった一刀で、十の可能性を刃に乗せるサムライの技の一つ。

 俺の最も得意とする技だし、現状で最高の速さを誇るものでもある。


 まあそれが避けられたわけだけど、それでもやつはこれで迂闊に飛び込んでこられなくなったわけだ。


「いや、驚かされた。まさかそこまでの個性を持っていたなんてな。これでは俺の個性が随分とチープに感じてしまうかも知れない」


 やれやれと言いたげな顔でそう言った男だが、その顔にはまだまだ余裕が垣間見えている。

 

「そう言えばあんたの個性を教えてくれるんじゃなかったか?」


「あぁ、そうだったそうだった。俺の個性だが………潜る、という物だ」


 自身の個性を人に明かすことは原則としてタブーとされている。なぜならその個性の名前を知ることで対策をできるから。確かそう教わった。

 だけど目の前の男はそうじゃない。個性に自信があるのか、それとも知った所で破ることはできない類の物なのか。

 

 かつて世界を恐怖のどん底に突き落とした原初の魔王。まあついこの間会った気が狂ったメンヘラ女の個性などは知った所で対処のしようが全くないレベルの物だった。


 周囲の物を完全に支配し、思うままに操ることができる。

 時間だろうが空間だろうが人だろうが何だろうが思いのまま操作することが可能な個性。そんな物どうしろって感じだけど、今目の前の男が言った“潜る”と言うものはそれと同じように知った所で意味がない部類の個性なのだろうか。


 再び男の姿が視界から掻き消え、今度は俺の側面に現れた。

 唐突な移動にもそろそろ慣れてきたのか、今までのように驚いて反射的に剣を振るうのではなく、しっかりと狙って攻撃をすることができる。


 振るわれた刃に対し、反撃となるその一撃を叩き込み、鍔迫り合いに持ちこむ。


「アンタの個性はわかったが、それを教えてどうなる? アンタになんのメリットがるんだ」


「メリットも何も、ただ俺が不利になるだけさ。デメリットはあってもメリットはない。しかし、だからこそいい。戦闘とは常に紙一重、生きるか死ぬかの“狭間”にいるからこそ楽しいんだ」


 俺に手加減をした理由はそれか。勇者としての成長率は現地の人間男想像を遥かに超える物であると教えられた。

 昔の勇者が何でもそれについて詳しく調べ、本に残してくれたそうだ。

 世間一般で言えば英雄と呼ばれる人種も大概にして化け物だが、勇者のそれは他の追従を全く寄せ付けない物であるそうだ。


「戦闘狂ってやつか。やれやれ、とんだ貧乏くじを引いちまったみたいだな」


 そうはいっても、こいつとの戦いを経て、俺はさらに強くなることができる。何となくだけどそんな気がしている。


「ではそろそろ俺もギアをあげていくとしようか」


 彼我の差はおおよそ4メートル弱。その気になれば一瞬で潰せる距離だ。

 だがしかし、男は緩やかな足取りでこちらに歩み寄り、そのままの動きで剣を振り上げ、急ぐ仕草なく振り下ろし―――


「————ッ!?」


 おかしい…………何故か体が動かなかった。いや、動かなかったというのは少し違う気がする…………何なんだ今の違和感は…………


「ほう、今のに反応したか。これはますます興味深いな」


 続けざまに振るわれた剣もギリギリのところで体を剣の間に刀を滑り込ませることで切断は避けたが、それでも剣の威力に叩かれ、俺の体は軽々と浮き飛ばされてしまった。


「どうした、そんな物か? さっきまでの威勢はどこにいったのだ」


 ―――チッ、面倒だ。 


 あいつの攻撃のネタを探るのは一旦やめにして、今度はこっちから打って出てやる。


「居合一閃………裂刃っ!」


 離された距離を埋めることなく、その場で居合を放った俺に対し、一瞬奇怪な表情を浮かべた男だが、直ぐに何かを感じ取り、大きく身をよじった。


「危ない…今のは本当に危なかった。いやまさかそんな攻撃もできるなんて思いもしなかった」


「………こっちこそ、今のを避けられるなんて思いもしなかったぜ畜生」


 だけど、これならいける。

 今の回避は技を見切ったものではなく、当たらないことを重視して大きく回避した。それはつまり、俺の攻撃を察知することはできても、見切れてはいないという事だ。


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