第252話 護送依頼
その後会長はそそくさとどこかに出かけてしまい、その場に残ったのは俺、坂下、須鴨さん、デーブ、ガリリンの五人だった。
これからの動きとしては、ウェルシュ王の言いつけを守り、国内の治安維持に徹していこうと思っている。
だけどそれは思惑通りに動いてやると言う訳ではない。
俺達もそれなりに強くなっている。その自覚はあるのだが、それでも刀矢の成長は尋常じゃなかった。
あの攻撃を受ければ、あの光の柱をまともに食らったら今の俺なんか跡形もなく消し飛ぶだろう。
だからこそ、もっと強くならないといけない。
そう思った時、デーブとガリリンがパーティーの脱退を申し出てきた。
「拙者は相棒と二人で旅に出るでござる」
「自分ももっと強くなるでやんす。じゃないと足を引っ張っちゃうでやんす」
二人ともこちらをまっすぐと見つめ、真剣な目でそう言ってきた。
彼らも本来なら戦闘以外の職業についていてもおかしくはなかったはずなのに、それでもこれだけ強さを求めるのはきっと……アイツのお陰なんだろうな。
(デュフフフ……異世界チーレムがやっとできるでござるなっ! だけど)
(シシシシ……これで自分も俺ツエーでモテモテでやんす! しかし)
((そのためにはこの脇役系主人公が邪魔(でござる)(でやんす)!!))
「わかった。俺ももっと強くならないといけない。道は違うだろうけど、俺達の目指すことは一緒なんだろうな。次会う時は……もっと強くなってるから、二人もその時の俺に負けないくらい強くなっててくれよな」
「わかったでやんす(こいつもチーレム目的でやんすか!?)」
「任せるでござる(ぬっ!? まさかこいつも奴隷ハーレムを!?)」
二人の手を強く握り、俺達は別々の道を歩み始めた。
握手をした時の、二人の熱い視線は忘れられない。
決意を固めたようにこちらを射抜くような視線を送って来た二人。
今まで見たこともないくらい真剣なまなざしに、俺も一層頑張らないといけないと思わされた。
(まさかこんなところに強敵が……でも負けないでやんす!)
(我が覇道を邪魔などさせないでござる!)
小さくなっていく二人の背中を見送り、俺は自分の頬に手を打ちつけた。
―――二人から気合を、激励を貰ってしまった。
これは、負けてられねえな。
「坂下、須鴨さん、強くなろう……刀矢にも負けないくらい、強く……」
「そうだね……もうユーリンとか刀矢だけに辛い思いはさせられないっしょ」
「はい。私も精一杯頑張りますっ!」
彼らには彼らにしか見えないものがあるんだろう。
だから今は、さよならだ。だけど、俺達の歩む道は必ず一つに収束している。
離れていたって、俺にはわかるんだ。あの二人の、あれだけ真剣な瞳を見た後なら。
「早速クエストに出かけるぞ!」
「あっ、ちょっと待ってよ! アタシまだ準備できてない!」
「わ、私もまだこの前修理に出した装備を取りに行ってなくって……」
……少し、気がせいてたのかもな。
時間はまだある。だから今はゆっくりと、だけど確実に強くなろう。
その後は須鴨さんの装備を取りに行き、坂下の買い物を済ませ、食事を挟んでからギルドに向かった。
ギルドの中はいつも通り冒険者たちであふれかえっており、扉を潜った瞬間に
溢れんばかりの活気に鼻先を叩かれたような気になった。
あぁ、これから俺達もこうして、ここにいる連中にも負けないように強くならないといけないんだな。
パッと見ても、俺達よりも強い人間は結構多い。なぜ俺達勇者がこの世界に必要なのか、イマイチりかいできないこともあるけど、今はそんな事どうでもいい。
クエストボードの前に向かい、その中から手ごろな依頼をかすめ取って受付に提出した。
「ギルドカードの提示をお願いします」
「はい」
現在俺のギルドランクはCだ。分かれる前の刀矢がBだったことを考えれば、相当な出遅れともいえる。
だけど、出遅れたのなら取り返せばいい。
そんな意気込みでクエストを受けた。
『Bランク護送依頼。
歓楽都市セーラムの領主スコシア様の護衛依頼を請け負っていただきます。
現在王都ランバージャックにいらっしゃるスコシア様の道中の身の安全の確保に尽力していただきたい。
参加される冒険者の方は本日の17時にランバージャック西区にある悠久亭のロビーにお越しください。また、その際には依頼書のご提示をお願いします。』
俺達三人ともCランクの冒険者だからこそ、一つ上のランクの依頼を受けることができる。
Aランクの依頼をCランクが受けることは原則できないが、Bランク三人以上のパーティーに所属することでAランクの依頼を受けることは可能だそうだ。
三人分のギルドカードを確認した受付の方が、受託の判を押し、違約金の説明や、今回のクエストの概要を教えてくれる。
それを聞きながら、内心では討伐依頼にしておけばよかったなどと考えていた。
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