第269話 カフェのトイレからカメラの音聞こえるんだけど……

「昔っからばあちゃんは人の“嘘”が分かるみたいなんだ」


 そう言ったのは店番をしていたホットパンツだった。

 

 それにしても、嘘が分かるね……これってもしかして異能か特異体質じゃない?

 なんでそんなレアキャラが薬屋なんかしてんのよ。


「そいつは凄いな。それで俺のことも判断したのか?」


「かかかっ。あんまりばばあをからかうもんじゃないさね。アンタのことはどう頑張っても分からんよ。だけど、これだけ嘘を見てくりゃ、嘘かどうかなんか見なくたって嘘つきかどうかくらいはわかるってもんさね」


 そう快活に笑ったばあさんはゆっくりと椅子に腰かけ、置いてあったお茶を口に運んだ。

 大釜の近くに休憩の目的で作られたであろうテーブルは最低限の大きさしかなく、俺とばあさんが座るだけならまあ大丈夫なんだが、店番のホットパンツちゃんが何故か俺の隣辺りに腰かけているせいか、妙に距離が近い。

 何がやばいって、視線を少し下に落とせば、際どいホットパンツが視界に入って、それだけでもうおじさんはテントの二、三張りは立てられる。


「仕事の話しだが、今この店にある回復薬を“可能な限り”売ってほしい。金は払うし、無理に根こそぎ買おうとも思ってない。無理のない範囲の“全て”を売ってほしい。ついでにこの街にいる間に完成させられる物も、無理のない範囲で全て買い取らせてくれないか?」


 俺の話を聞いたばあさんはゆっくりとした動作で、立ち上がり、換気用の窓の前まで行くとこちらに背を向け、窓を開いた。


「ひゃっほぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!! ジャァァァァアスティスッ!!!! Fooooooooooooooooooooooooooooooッ!!!!!」


 ……おいばばあ……お前長寿の種族が化けてるとかないだろうな。

 それからしばらくばあさんの狂喜乱舞を見せられ、ようやく落ち着いた頃にばあさんが取り繕ったような顔をしながら俺の前に戻ってきた。


「色々と考えたがね、こんなおいぼれで良けりゃ力になるさね」


 いや知ってた。窓から顔出して大声上げ始めた辺りで知ってた。

 それを何今更、悩んだけど仕方がなく協力する見たいなオーラ出してんだよ。


「まずどれくらい用意できるのかって話なんだが、今現状のキャパシティと、常連の客の分を差し引いて、通常業務に支障が出ない数を買い取ろうと思う」


「良心的な買い方をするのう。普通は買い占めがセオリーさね。まあ、こちらとしてもありがたい事ではあるんじゃが」


 そう言うと、ばあさんはどこからかそろばんを取り出し、それを叩いた。

 数秒ほどで勘定が終わったのか、それを再びどこかにしまい、こちらに視線を向けた。


「現状でお前さんに渡せるのが71本、一日当たりの生産量から店の備蓄、ギルドに卸す分、常連用、店頭用を抜いて、ザっとこれくらいじゃの」


 1日当たり120本か。そこまで長くいるつもりはないが、それでもこれだけの数を作れるのは脅威だな。

 


「じゃあ俺の売る回復薬にはこれを入れてくれないか? 勿論値段は少し割増しで買い取らせてもらう」


 俺の取り出した粉末を見たばあさんが腰を抜かし、そのまま後ろにひっくり返ってしまった。

 まあ、分かる人にはわかる。これはそれだけの価値があるし、ただの薬屋であろうと一度は見たことがある。

 駆け出しがまず最初に聞かされるエリクサーの生成に必要な素材だしな。


 まあ、普通にエリクサーを作るのにも“龍の爪の粉末”は必要なんだけど、今俺が出しているのはそんなちゃちな物じゃない。

 バカでかい図体のお陰で使い切れる見通しがまるで立たない“要塞龍”の爪の粉末だ。

 ぶっちゃけ保有魔力がやばすぎて普通の回復薬をエリクサーレベルまで昇華できる。


「これを5キロおいてく。余ったら自由に使っていいから」


 5キロで、大体要塞龍の小指のささくれの1/10くらいだからね。ぶっちゃけ持ってても面倒なだけだし。

 自分で一々回復薬作るよりこっちの方がよっぽど楽でいい。


 お金とは手段だ。如何に簡単に結果をもたらすことができるか、それは金によって決まる。

 魔物を倒したいのなら、体を鍛え、技を身に着け、道具を持ち、情報を集め

、そして挑む。

 しかし、金があればギルドに頼むだけでそれまでの過程全てが不必要になる。


 ほんとお金ってしゅごい! という事だね。


 だから金はいくらあっても困らない。あって困るのはその使い方を知らない、あるいは想像できない連中だけだ。


 過去の最悪との戦いで金の使い方なんざ死ぬ程学ばされたせいで、その心配は俺には適用されないけど。


 ぶっちゃけ俺の体は超常の存在の攻撃を“回避するだけ”で相当なダメージを受けることになる。その攻撃に伴う衝撃なんてものまで回避できるほど俺の能力は万能じゃない。


 だからこそ戦闘中は相当数の回復薬を必要とするわけだ。

 今までは人間やそれに近い大きさのバケモンばかり相手にしてきたせいでそう言ったことができなかったが、今後は龍王のように山よりデカい相手と戦う事も増えてくる可能性がある。

 それに、このまま今の事態をどうにも出来なければ間違いなくそうなってしまうだろうし。


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