第268話 トイレで新聞読む奴ってまじなんなん?
「えぇー次私の番っていったじゃん!」
「へへーん。早い者勝ちなのよ!」
「うっわぁ狡いなぁ」
「それ言えば俺ら全員そうだから」
「それもそうか!」
げらげらと下品な笑い声が聞こえ、そちらに視線を向ければ、ギルド職員の制服に身を包んだ男女が4名、道端で占いをしている女の前に群がっていた。
「一体あなたは何を見て欲しいのかしら?」
「それじゃあね~……あっ! 恋愛! 次の彼氏についてとか!」
「ふふっ。わかりました。では少し手を貸していただけますか?」
怪しげな女のルージュを塗った唇が艶めかしく呪文を唱え始める。
だけど、まあ俺からすればあの呪文が適当に紡がれてるだけの物だってことくらいはわかる。
え、なんでかって?
そんなの簡単だわ。俺の個性である情報処理で規則性を探ったんだけど何も規則と呼べるものはないし、独特の法則があるのかと思ったけど同じ音で違う発音が6つもあるし、これじゃ言葉として意味をなさないと思う。
「ありがとうございます。ではまず結果から。あなたの次の彼氏様は……破滅ですかね」
ニヤリと、紫色のあでやかな唇が横に伸びた。
「あなたはなんとかその危機を回避することができるようですが、見切りをつけるのなら早めがいいでしょう。長く関われば関わるほど破滅はあなたの近くにやってきます」
「えぇっ!? 何それ!? 意味わかんないんだけど!」
「これを回避するにはコーヒーが嫌いで、サラダをよく食べる男性には気を付けることですね」
何か言い返そうとしていた占われた女をはねのけ、次の女が占いをしている女に手を差し出し、何を占って欲しいか告げ始めた。
『コミュニティには暗黙の了解と呼ばれるものが存在します。それに深く首を突っ込むことはあまりお勧めできたことではありませんよ』
そう言って先程まで輝かせていたはずの目を伏せてしまった女の姿が脳裏を過る。
まあ確かによそ様のことに俺が介入するのはお節介とかじゃなく、純粋に迷惑にしかならないからね。
その場を離れようと思った時―――ガタッと、背後で何かが倒れる様な音がした。
「……?」
振り返るが、特になにか変わったようなことはなかった。しいて言えば、制服に身を包む連中が何か驚いたような顔をしていたことぐらいか。
あの女の手相……相当やっべーのかね。
大通りを離れ、少し進んだ先にある薬屋。そこに入り、カウンターに腰かけ、気だるげに店番をしてる女に声をかけた。
「てんちょさんいる?」
「―――誰よあんた」
客だバカ。せめて体を起こしなさい。
「回復薬の購入を検討している者だ。とりあえずこの店にどれくらいあって、どれくらい作れるか、それとどれくらい買っても大丈夫かを聞きたいんだけど」
「……ちょっと待ってて」
変わらず気だるげに体を起こした女はのっそのっそと奥に続く暖簾のような物を潜っていく。
そして、姿が完全に見えなくなった瞬間―――
『ば、ばあちゃーーーーん!!! き、客! 客が来たんだ! しかも金持ち!!! は、はやくっ! 早く来てぇええ!!!!』
どたどたバタバタと俺の前にいた時には想像もできないような音と声が聞こえてきた。
なんだか言い合いをしているような声が次に聞こえて来て、そこから数分後。
「ばあちゃんが今調合中で手が離せないから話しは奥で聞くってさ」
相当走ったのか、息が乱れてるのを必死に隠し、鼻息を荒げながらも、それを悟られないようにしながら先ほどの女が戻ってきた。
「こっち回っていいから」
「た、助かるわ」
なんだかこの街は個性的な人が多いな。
叡智の書を生体魔具でしまっておいてよかったぜ。こんな光景見られてたら大騒ぎされてただろうしな。
「おじゃましまっす~」
一応声をかけながら彼女の後について行く。
彼女はかなりラフな格好をしていたのか、ホットパンツに上着はパーカーのような物を着ていた。
異世界人のせいで服文化がかなり現代よりになってるのだろう。そして俺から一言いうとすれば、よくやった過去の異世界人。
おじさんはホットパンツ萌えなのだ。
生まれ変わったらホットパンツになりたいと七夕の短冊に書くくらいホットパンツを愛してる。
「ばあちゃん! 連れてきたよ!」
「本当に騒がしい子だねぇ。ささ、お客さん、そこらへん自由に腰かけておくれ。生憎とわたしゃこっちから目が離せないからこんな格好で聞くことになっちゃうんだけどね」
老婆、と呼ぶには背筋はぴんと伸びており、しっかりと大釜の中身を混ぜ合わせている。一瞬も油断ならぬ、と言ったような形相で大釜の中を睨みつけながらだが、その声は優しいものだった。
「ん~これならあと14分は置いておいて大丈夫そうだぞ」
まあちなみに言うが、俺も回復薬や霊薬関係の制作は得意分野なんだ。なんせ加工した後の方が高く売れるし。
大釜を覗き込みながらそう言った俺の声に驚いたばあさんは驚いた様に目を見開き、再び声をかけてきた。
「お客さん随分と詳しいね。ばばあの見立てでもそのくらいは大丈夫なはずなんだけど、生憎歳をとるとどうも心配性になっちまてね……」
そんな事を言いながらばあさんはかき混ぜるための棒から手を離し、腰を二、三度叩いてから台座から降りた。
「自分だけの感覚を信じられるほどばばあも若くなくってね。気を遣わせちまったようなら謝るよ」
「いやいや、むしろよく余所者の俺の言葉を信じたなって驚きの方が強いから」
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