第266話 ぼっちだけどぼっちじゃない

 いやだってなんか三人だけの空気感とかあるしめんどくさいし、それになんか底が見えない奴いるしめんどくさいし、訳ありっぽい感じだしてたしめんどくさいし、なんか邪魔だし、めんどくさいし、やかましいし、邪魔だしめんどくさいし。


 理由はいくつかあるが、俺にも俺の都合があるんだよ。夜は特に。

 あんな大所帯じゃやることもやれねえんだよバーカバーカ。


 荷物をまとめてた三人を置いて暫く先行したところで、お馬さんが茂みで交尾してるのを脇目に見ながらさらに足を進める。

 

 どこからともなく『ぎゃははっは! 馬でも相手がいるってぇのにテメエマジ無様過ぎぶぎゃー!』とか聞こえてきたのでオリーブオイルをそこら中にぶちまけてやったら静かになった。

 油物もだめらしいな。


「あと1週間くらいか? どっかの街によって馬でも手に入れるか」


 そんな独り言をこぼしていると、どこからもとなくはぐれてしまったのか、ウルフ種の子供が俺の前に躍り出して来た。

 あぁ、最悪だ。ウルフ種は出産期になると群れを成して子供を守る習性がある。つまりこいつがここにいるってことは近くにウルフ種の群れがあるってことだ。


「くぅ~ん……」


「やめろっ! そんな捨て犬みてえな目で俺を見るんじゃねえ!」


 腹が減っているのか、犬のくせに猫なで声を出したウルフ種のガキ。

 俺の方をちらりと見やって再び小さく鳴きやがった。


 ―――コイツあざとい……。


「あぁっ! もうわかったよ! 分かりましたよ!これでも食ってさっさと帰ってくれ!」


 仕方がなく残り少ない携帯食のうち、栄養満点レーションをウルフ種のガキの前に放り投げたら尻尾をぶんぶん振ってそれに飛びつきやがった。

 こいつやっぱ狙ってやってただろ!?


 とか思ってると、俺の栄養満点レーションがお気に召さなかったのか、こちらをジト目で見た後、栄養満点レーションに唾を吐いて茂みの中に入っていきやがった。


 今日の晩飯はウルフの肉かぁ~なんて思いながら剣を取り出そうとすれば、茂みの奥にウルフ種の群れが来ていることに気が付いてしまった。

 

 うわ~い。どうやら今日の晩飯にされるのは俺の方だったみたいだねやったぜ。


「……」


 何とか逃げる方法を模索しながら距離を取ろうとしたら、さっきのガキが先頭の額に傷のある一際ガタイの良いウルフに何か伝えているようだった。

 さっき俺が飯を恵んでやったことでも伝えているのか、ウルフ共の放っていた殺気が一気に縮小していくのが分かる。

 い、いやーいい事はするもんだね……。


「「「「「ペッ!」」」」」

 

 まるで練習でもしたかのようなぴったりな動きで群れの全てのウルフ種がジト目に代わって地面に唾を吐き捨てていきやがった。


「…………もし俺に力があったら明日、この世界からウルフ種は絶滅することになってたところだ」


 もうあいつらの心の声まで聞こえてきそうだぜおい。


 そんな刺激的なアクシデントを経験しながら俺は再び街道を歩いて行った。 

 

 もうヤダ。次の街で多少高くなってもいいからバシャヒクノスキーでも購入しよう。じゃなけりゃやってられねえわ。

 あの糞ガキが次に街道に飛び出して来たら問答無用でひき肉にしてやる……。


 ただでさえムカついてるってのに、あのクソやかましいチリ紙が今ので元気を取り戻しやがったせいで余計にイライラしてきた。

 こいつマジで燃やしてやろうかな。


『にしてもよぉ、どちらにしたって近くによって道具の補填は必要だろ?』


「まぁそうだよなぁ……めんどくせ……」


 正直言えば一つでも残った道具は俺のコピーでどうにかなる。だけど魔法的な力を持つ道具はその限りじゃないんだよね。

 アーティファクトや強力な武具を複製できない理由がそこにある。

 そもそも魔力がカス並みの俺じゃ魔力の宿ったアイテムは複製できない。

 逆にカルブロ鉱石みたいに魔力を後天的にため込む物質はいくらでもコピーできるんだけどね。

 魔法金属や魔鉱石関係はからっきしだし、回復薬なんざ論外だわ。


 そこら辺をまずは買い集めないといけないのが面倒だ。


「とりあえず、当面の食料と必需品かぁ……足りるのかコレ」


 そんな事をぼやきながら俺はランバージャックの近くの街に足を進めていった。

 木製の外壁ながら外側を金属で加工した物であり、この辺りにしては珍しく外壁の背が低い。

 その理由として、周辺に分布する魔物の特性が関係している。

 

 グラッグフロッグタートルと呼ばれる亀とカエルを足した様な魔物であり、アイツの吐き出す唾には強力な毒性が含まれている。

 さらに言えばそれが気化することで周囲にも影響するそうで、定期的に討伐依頼が出されるほどだ。

 さらに言えば最悪なことに、その気化した毒のせいで、毒性を得る進化を遂げた魔物が周囲には多い。

 故に壁を低くし、いざという時に毒がすぐに逃げるようにしているそうだ。

 外壁の上には俺が山賊を燻製にした時に使った旋風機の劣化版みたいなのが相当数設置されている。

 あれで風を起こし毒を街の外に出していくのだろう。よく見れば背の高い家庭の屋根には同様の物が一定間隔で設置されている。





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