第265話 ふれあい動物公園。

「おいおい、自己紹介だけでそんなに盛り上がらないでくれよ。盛り上がるってんなら俺の飯を食ってからにしてくれや」


 そう言ってアイリークが出来上がった料理を持ってくる。

 簡単に肉を切り分けて焼いただけに見えるが、それにしては良い匂いがしやがりますねぇ。


「ハーブで包んで弱火で焼いてったんだ。塩と胡椒、あとは刻んだハーブを混ぜて作った特製調味料を塗り込んでから焼いたからこのままでも相当行けると思うぜ」


 聞いてもいないのにそんな事を言い出したアイリーク。 

 既に皿には小奇麗に切り分けられた肉が並んでいる。


「さて、と、んじゃ乾杯と行きますか!」


 エプロンのポケットからスキットルを取り出したアイリークがそれを掲げると、アウォードとトーモアの二人も水筒を掲げ、こちらに視線を送ってくる。

 どうにもこの感じは苦手だな。

 こいつらにはこいつらのタイミングがきっとあるんだろう。だから俺に早くしろと言いたげな視線を向けてくるトーモアや、ニコニコした顔でこちらを見ながら待っているアウォードを見ると、自分がいつも同じパーティーで依頼をこなしたり、ソロでの採取依頼や迷宮探索などを行っていたことが若干悔やまれる。


「あぁ、送れちゃってごめんね。はいよっと」


 生体魔具で取り出した銀製のカップにコーヒーをいれ、それを連中と同じように掲げて見せる。


「「「カンパーイ!」」」


「あ、はいかんぱーい」


 そんな場違い感を醸し出しながら食事が始まったのだが、さっきから俺の背後でげらげら笑い転げてやがるクソティッシュにコーヒーを飛ばしてやった。

 ぎりぎりの所で回避されたが、かなり焦った様子で謝ってきたのでやっぱり液体はこいつの弱点なんだろう。

 まあ魔法で守ることもできるみたいだけど。


「そんであんたらはどうしてこんなところに?」


 話の本題と言わんばかりにトーモアに向かって質問を投げかけてみれば、体裁を保つような綺麗な所作でグラスを置き、口元を拭ったトーモアが顔をあげる。

 

 ちなみに穴の中にいた時はアイリークが起こした調理用の火で直火焼きした肉を骨ごとかじってたからね。そりゃもう血走った目で骨までガリガリ君よ。


「はい。私たちはかの大英雄フェイマス・グラウス様の意思を継ぎ、この世界に平和をもたらす為の旅をしております」


 フェイマス・グラウスねぇ。たしか300年くらい前に現れた邪龍と相打ちになったって言う大英雄だったか。 

 確かに出身は聖国付近の農村地帯からだったって書いてあったっけ。 

 だとすると聖国付近では大英雄信仰の方が強いって感じかな。

 ランバージャックの方じゃ勇者信仰の方が支持を得ているように、聖国じゃ大英雄ってところだね。


「んま、正確に言えば近隣諸国に顔を売りに来たって感じだな。ちょいと前にランバージャックの勇者サマ一行が聖国で起きた魔物の暴走を鎮めてくれたってんで、教皇猊下が対抗意識燃やしちまってよ」


 酒を煽りながらこちらに向かってそんな事を言ってきたアイリーク。

 その横ではアウォードが涙を流しながら肉をぱくついてやがる。

 顔面が目も当てられねえほどにきったねえことになってるがこれはどういう事なんだ? って聞こうとしたらアウォード本人の口から説明が入った。


「えっぐ……ひっぐ……ひ、久しぶりに……雑草以外のものを……食べられた……神様……ありがとう……ほんとうに、ありがどう……」


 ずびびっと鼻を薄りながら肉を口に運ぶアウォード。それはもう美味しそうに肉をかじっている。

 よく見れば隣に座るトーモアも若干目が潤んでいる。


 こいつらどんな冒険してきたんだよ……


「アンタ程のやつがいて食料問題が起こるとは思えないんだけどな」


「買いかぶりは良くねえぜ。俺みてえな一介の冒険者風情がそう簡単に食料危機をどうにかできるはずねえって」


 その割には頬がこけている二人に比べ、こういった状況になれている冒険者のアイリークは余裕のありそうな表情だった。

 恐らく二人に経験をさせるためにわざとやったなこのモヒカン。


「飯もごちそうになったし、俺はそろそろ行くけど、あんたらこれからどうする?」


 食事を終えた俺が立ちあがると、アイリークが声をかけてきた。


「いい機会だし挨拶がてら俺らもランバージャックに行くとするか。文句あるやつはいるか?」


 やはりこのパーティーのリーダーはアイリークなのだろう。

 彼の決定に二人は異存はないようでそそくさと支度を始めていた。


「にしてもアンタ、丸腰でこんなところまで来るなんて相当な勇気だな。見た感じ戦うタイプには見えねえが」

 

 そう言って俺の体をゆっくりと見上げてきたアイリーク。

 足元から頭までゆっくりと値踏みをされるように見られるのは正直非常に気持ち悪い。

 お姉さんなら大歓迎だけど。


「生憎と“アンタと違って”俺は採取と調査メインの冒険者だからな」


「……へぇ……そいうこと」


 何か含みのある笑みを浮かべたアイリークはそれ以上会話をするつもりがないのか、荷物をまとめ始めた二人の方に向かって歩いて行ったので、俺は―――



 そのまま三人を置いて行った。

 

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