第264話 奇妙な男
俺が内心で土葬を決心したあたりで、何故かモヒカンに上裸、ピンクエプロンの世紀末原始人がこちらに声をかけてきた。
頼むから視界に入らないでくれ。と言うか死ね。もうネタ枠はお腹いっぱいなんだよ。
「こいつは少し思い込みが激しくてな。申し訳ない。それにこれだけ人気の少ないところにピンポイントで、しかも無傷の状態で来るアタリ、この罠は本当にアンタが仕掛けた物なんだろう。だが申し訳ない続きになるがな、ここはお前の家でもなければ領地でもない。サバイバルは取るかとられるかだってことくらいアンタも冒険者ならわかってくれるだろう? それに、何も俺は独り占めをしようとしてこう言っているわけじゃないんだ。料理やそのほかのことは全て俺達に任せてくれて構わない。だからアンタが腹いっぱい食える分は取り分ける。その残った分を俺達に恵んじゃくれねえか?」
あれ、誰この人。さっきまでヒャッハーとか宴だ! とか言ってた人だよね?
多重人格なのかな?
「ああ別にそれならいいけど。あ、でも携帯食用にあえてそれなりの大きさがかかる罠にしたんだからその分の費用は補填させるから」
「へっ、そのくらいお安い御用さ………そうだろお前ら」
俺の言葉を聞いたモヒカン原始人が鼻の下を擦りながら口角をあげた。
「アイリークさんがそう言うのなら………」
「そうですね………アイリークさんが言うのであれば仕方がありません」
アイリークと呼ばれた男は背後の二人を見やると、へっ、と鼻を再び鳴らし、こちらに振り返ってきた。
「兄ちゃんもさっさと降りてきな。それにこの武器は兄ちゃんのもんだろ? さすがにこれまでもらったんじゃ申し訳が立たねえし、これくらいは返させてくれや」
「いや、逆だろ。お前らが出てきなさいよ。おじさんそんな穴の中で飯とかヤダよむさくるしい」
『ぎゃはっはごほっごほっ………あぁ、最っ高だぜぇおい! あの見た目で常識人とか逆に異常にみえるってぇの!!!』
隣で騒いでいるごみクズをぶん殴り、黙らせていると、アイリークが「それもそうだな」なんて言いながら荷物をまとめて穴の中から飛び出してきた。
どうにも悪い奴には見えない。それに害意も全く感じないしな。
だけどあの背後の二人………あいつらからは相当に強い光の気配を感じる。それこそ勇者に近しいレベルのそれを。
「アウォード、トーモア、お前らも荷物まとめて早く来い」
そうやらあの変態モヒカンがリーダーみたいだな。
それに就き従うように二人は荷物をまとめ、穴の中から飛び出してきた。
気配だけで判断すれば後から出てきた男と女の二人は相当に強い。しかし目の前にいる男はどれだけ高く見積もっても“英雄”ではない程の力しかない。
それだというのにこの男の立ち振る舞いに一切の隙が見られない。穴から飛び出し、巨大な荷物を背負ったままの着地にもかかわらず、姿勢が崩れることも重心が寄ることもなかった。
恐らく着地と同時に斬りかかっていたとしても即座に回避か反撃を受けたくらいにはやばいレベルだ。
まだこんな“並外れた常人”がいたことにかすかな喜びと、そして懐疑心を覚えてしまう。
これほどの男であれば冒険者として相当に活躍できる。それこそ大規模なパーティーを指揮し、大型の魔物討伐だって難しくはないはずだ。そんな人間がこんなところで“ひよっこ”の世話をしながら何をしているんだ。
「紹介が遅れたな。俺の名前はアイリーク。しがない冒険者だ。んで後ろの二人はアウォードとトーモア。アウォードはこの世界で唯一“泉”に入ることの許された存在だな。んで、トーモアは聖国の掲げる四聖女の一人だな」
紹介された二人のうち、男の方が俺の前に出て来て握手を求めてきた。
「アウォードです。さっきはすみません。僕もお腹減って気が立ってたみたいで」
気まずそうな笑みを浮かべながら差し出した腕を握ると、途端に嬉しそうな顔に変わり、こちらを見てきた。
「そう言えばあなたの名前は? どうしてこんなところに?」
まくし立てる様にそう言ってきたアウォードの背後で、少しブスッとした表情のトーモアと呼ばれていた女が腕を組んでいた。
「俺はユーリ・オオツカだ。目的としてはランバージャックに向かうことろで、食料調達と仮眠の為にそこらに罠を仕掛けて寝てたんだわ」
こいつらの目的に関しては後ろで早く代われよって顔してる女に聞けばいいか。どうにも話したくてうずうずしてる様子だし。
「私は聖国の四聖女が一人、トーモアと申します。先ほどは彼が無礼な態度を取ってしまい申し訳ございません」
綺麗に腰を折った謝罪に、普通だったら気を良くするんだろうね。
だってメチャメチャキレイだしおっぱいも大きいし。
頭下げるときたゆんっって効果音聞こえそうだったもん。
だけど、無礼なこと言ったのはお前もだからな?
おじさんそう言う細かいところ忘れないタイプだから!
「そちらに浮かんでいるのは………なんなんですか?」
そう言ってトーモアは俺の周囲を下品な笑い声と共に浮遊しているチリ紙に目を向けた。
はたから見ればもう怪しさしかないよねコイツ。
黒革に白い文字で今の人間じゃ読めない巨人の言葉でタイトルと魔法陣が描かれてるし。
闇魔術の経典って言われてもおかしくない見た目してるよ。
「こいつは俺の仲間の叡智の書ってんだ。やかましいしうぜえから基本的に無視してかまわないぞ」
そんなこんなで自己紹介が終わったわけだけど、そんなことより気になるのはアイリークの野郎だよね。
だってわざわざ見ず知らずの俺に“泉に入ることができる存在”とか“四聖女の一人”だとか、そんな無駄な情報を与えておいて、自分は何も素性を明かしていないんだから。
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