第263話 原始人ほいほい

 俺の一張羅の効果を知り、さらにそれを一部的にだが行使することさえ可能な連中、あるいは個人がランバージャックにはいる。

 ハッキリと言えば今の戦力でどうにかなるか激しく不安だったが、それでも行かない事には始まらない。


「ってかテメエいい加減帰れや」


 街道を歩く俺がそう声をかけたのは、俺の肩のあたりの高さをふわふわと浮遊するトイレットペーパーの出来損ないこと、叡智の書。


 どういう訳か俺が追い返そうとしてもこの場に残り続けてやがる糞迷惑な野郎だ。


『ぎゃあははははあ!!! だぁれがあんな糞暇なところに戻ってやるかってんだよばーかばーか!』


 くそうぜえ声をあげながら俺の周囲を高速で回り始めたチリ紙。そのウザさといったらそれはそれは人知を超えた物がある。

 まあ例えるなら、死ぬ程うんこしたい時にトイレの中で新聞読んで寛いでる奴くらいには苛立たしい。


『―――おーけー相棒。俺達長い付き合いじゃないか。な? これからも仲良くやろうぜ?』


 神剣を突き付けてやれば途端に軽口をたたくアタリこいつもやっぱり大物だと再認識させられる。


『にしても、ちょーとかっこつけすぎじゃね? わざわざ森王を殺したことを言わないとか』


「いいんだよ。その方が何かあれじゃん。カッコイイじゃん」


『ぎゃっはっはっはっは! てめえどの顔でほざいてんだっての!!』


「は? この世界に俺よりいい男が存在してるはずねえだろ? ばっかじゃねえの? トイレットペーパーはやっぱりトイレットぺーパーだな!」


『黒ギャルのケツ拭かせてくれんなら俺様はトイレットペーパーでもいいけどな!』


「そんなご褒美テメエにあげられるかってんだ。お前はスーパーのベテランパートリーダーの吉田さんのケツでも拭いてやがれ」


 全国のベテランパートリーダーの吉田さんに内心で誠心誠意謝りながら歩みを進めていく。 

 今までよりも些か足取りが軽いのは、他の連中を気に掛けなくてもよくなったからかもしれないし、俺の隠された力が解放されたからかもしれない。


『お前の隠された力とか欠片も残ってねえよ! 英雄じゃあるまいし、勇者でもねえテメエがそんな御業を使えると思ってんのか?』


「うっせ。ちょっとそう言う気分だったんだよ」


 そんな話をしながら、街道の側にある大き目な木の下で仮眠をとることにした。

 周囲は既に茜色に染まっており、今から狩りに出かけて晩飯が調達できるかどうかってところだな。


 と言う訳でユーリさん的簡単なサバイバル術講座だ。

 これからサバイバルをする諸君、しない諸君も覚えておいて損はないから是非試してみてくれたまえ。

 

 まず穴を掘ります。どれくらいの深さの穴にするかは各自の判断だが、俺の場合は少し携帯食が心もとないので大きめの穴を個性で作った。

 俺の場合個性で穴掘りができるので問題はないが、バトル漫画に出る様な諸君は拳を一度地面に打ちこんでみるのもいいかもしれない。

 次に穴の中に剣やら槍やらを刃を上にして設置していきます。この時に意気揚々と穴の中に飛び込むと俺みたいに20分くらい自分の掘った穴から脱出するために時間を浪費することになるから気を付けたまえチクショウ。

 

 剣やらを設置し終わったら木の枝で蓋をし、葉っぱをかぶせる。木の枝の上に土置いても意味ないからね。 

 葉っぱの上にうっすらと土を撒いたらその上にこういった時の為に残しておいた魔物肉の食えない部分を置いておきます。

 

 そしてあとは仮眠をとるだけで翌朝にはごはんが沢山たまっていることでしょう。

 血抜き? そんなもん贅沢だってんだよ。


 そんなこんなの簡単な作業を終え、俺は持っている全ての道具を倉庫に送り、木にもたれかかるようにして眠りについた。


 3時間程の仮眠を経て、個性で設定したリマインダーが獲物の状態を見に行く予定を告げてくる。

 ちなみにリマインダーにはキルキスが声を吹き込んでくれた。


『ユーリ。起きたまえ。でないと君の体の至ることろに私が愛の証を刻み込むことにな―――』


「はい起きたッ!!!!」


 史上最強の敵にして究極の秘密兵器ボイスは素晴らしく目覚めが良いな。

 ちなみに今のセリフは童亭で俺がつぶれて寝てた時に、酔ったキルキスが葉巻を押し付けようとしながら言ったセリフだ。


「さてと、罠の確認でも行きますかね」


 周囲は既に深い夜に包まれている。だからこそこの時間に獲物の様子を一旦見ておかないと獲物がかかり過ぎてそれにつられた強力な魔物が現れる危険性をはらんでいる。 

 即座に罠に向かい、姿を現していた落とし穴の中をライトで照らしてみれば……… 


「………え、ナニコレ」


 原始人がいた。いや、原始人の群れがいた。

 煌びやかな鎧を身に纏う 男の原始人と、法衣に身を包む女の原始人、そして最後に―――


「ヒャッハー! 肉だ! 宴だ! 今宵は酒池肉林のパーリナイっ!」

 

 世紀末型原始人がそこにいた。

 

 俺の作った落とし穴の中で勝手に武器を回収し、それで料理まで初めてやがる。どうやら獲物を横取りするのは魔物以外に原始人もいたようだね………しかもここって結構街道から離れてるはずなんだけど、こんなところを原始人がうろついてるなんて思わなかったぜおい。


「―――誰だッ!」


 そんな風に原始人を観察していると、突然煌びやかな鎧を身に纏う男の原始人がこちらを恐ろしい形相で睨みつけてきた。


「まさかお前この肉を奪いに来たのか! 許さないぞ!」


 許さないのはこっちだバカ。テメエ何自分の物みてえに言ってんだ埋めんぞ。


「この罠をつくったの俺なんだが」


「嘘だッ! この罠は空腹に苦しむ僕たちの為に神様が与えてくれた施しなんだ!」


 駄目だコイツ………土葬しよう。




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