予知再び

第262話 当初の目的

「―――とまあそんな感じで森王ぶっ殺したあとは騙されたことに気が付いたチョコチと復讐の仕上げをしたがってたミルズが山神教の残党を根絶やしにしたって感じだな」


 ビターバレーに位置する童女の微笑み亭改め、童亭のカウンターに座る俺は結露の滴り始めたグラスを傾け、中に入っていたウイスキーを喉に流し込んだ。


「結局ドライアドはどうなったのじゃ?」


 俺の横から生えてきたロリババアの頭にとりあえず肘を置きながら一つ咳ばらいをすれば、うざったそうに肘をどかしてきやがったので顔面にエルボ………肘を置きなおして話を再開した。


「ドライアドは結論から言えば………滅んでなかった」


「「「は?」」」


 ババアとカリラ、そしてエヴァンが揃って声をあげた。

 それを見てチョコチは恥ずかしそうに肩をすくめ、気持ち体が小さくなってしまった。


「いやさ、なんかやべえと思ったのか俺の屋敷の地下に移り住んでたんだよね。もともと復活の条件を整えるために地下を使おうと思ってたんだけど、行ってびっくり、ドライアドたちに盛大にお出迎えされてさ………」


「そ、それじゃあチョコちゃんは………」


「そゆこと。このバカ弟子の真面目過ぎる性格を逆手に取られてたってこと。ちょいと考えりゃわかりそうな物なんだがねぇ~。俺もこいつが絶滅したって言うもんだからそうなんだと思っちまったよ」


「ご、ご迷惑おかけしました………」


「そ、それにしてもこれほどの速さであの山神教を壊滅させるなんて流石はチョコちゃんであるな!」


 エヴァンが必死こいて話題を逸らそうとしてやがるな。


「いやそれがっすね………」

「はぁ、思い出すだけでも恐ろしいです………この人だけは敵にしてはいけないと魂に刻まれましたよ………」


 新米二人が俺の方を見た後にやれやれと言った感じでかぶりを振った。

 おいおい、俺になんか文句があるってのか貴様ら。


「やったのはチョコちゃんじゃなかったのだよ?」


「まあある程度ぶっ殺したのはこいつとミルズ……えっと、そこにいるおっさんだな」


「ですけど、大半を死に追いやったのはユーリ様です」


「一体、何を………したのだよ………」


「あ? あぁ、幻魔石で最高司祭の恰好しながら、『これから山神教は幼女ぺろぺろ教に改宗する!』って宣言したんだよ、フルチンで。そしたら戦争起きちゃった。だからマッカランさんが隕石降らして大掃除したって感じ」

 

「ゴミみてえなことしてんじゃねえですよ」


「いやいや、意外といい考えだと思ったんだよ。戦争さえ起こせれば大半の戦力は一網打尽にできるし、マッカランの力にビビった連中がマジで幼女ぺろぺろ教を名乗り始めて“聖戦だ!”とか言いながら残党狩りしてくれたし」


 本当にろくでもない戦争だったね。まあそれでも30万近い人間が数秒で瓦礫の下に沈んだって光景を見せられればね………信念なんざポッキーよ。


「なんで旦那の方は帰ってるってのにまだ戦乙女がこっちに居やがるんですか」


「あぁ、こいつね………ローズに会うのが気まずくて今逃げ回ってるとこ。その内引き渡すけど」


「そんなっ! ま、まだ心の準備ができていません! もう少しだけでもいいのでどうかご慈悲を………」


「え、ヤダよ。お前俺に歯向かったじゃん。それにあの戦いのあと君僕に何て言ったかな? 『敵の言う事を信用してはいけないと教えてくれたのはユーリ様ですよ』だったか? まあつまりそこまで含めてお前の罰だから。禊だと思ってさ、軽い気持ちで行ってみよー!」


 チョコチの野郎は俺とローズに対する親公認発言を取り下げやがったのだ。

 取り下げたというか、そもそもあの時俺とチョコチは敵対関係にあったわけで、それを都合よく使いやがって“敵の言ったことを真に受けたユーリ様が悪いです”なんてほざきやがったので2,3回地獄を見せた。

 具体的に言うと朝起きると同時に顔面に馬糞が落ちてくるトラップを仕掛けた。

 それと隙を見て何回か肥溜めや下水に蹴り落してやった。


 いやぁ悪を成敗するって気持ちがいいね。


「もうこの人には二度と敵対しないと心に決めました………」


「チョコちゃんっ!? い、一体どんな仕打ちを受けたのだよ!?」


「あはは、エヴァンさん、深くは聞かないで下さい………」


 わいわいがやがやとその後も話をしながら酒が進んで行った。久しぶりにゆっくりできる時間ってのは重要だなって再認識させられる。

 

 どうせこれからまた忙しくなるんだからね。

 こいつらに話はしなかったが、今回の一件の裏にいた連中、俺の一張羅を使ってミルズに悪意を埋め込んだやつらの正体も判明して、道中可能な限りそいつらを殲滅してきたんだけど、その話はださないように口止めをしておいた。

 わざわざ話して面倒なことにする必要もないからね。


 夜も深まり、カウンターに並んでいた連中が酔っ払って鼾をかき始めたころ、俺はこっそりと童亭を抜け出した。

 目下最大の敵に思えたカリラに関しては睡眠薬をぶち込んだおじさん特性ジュースを飲ませて撃沈してもらった。

 たまきも厄介な力を保有しているが、俺のファイヤーウォールを未だに破れないので安心して行動に移せたわけだ。


「また一人で行くのだよ?」


「………お前は、まあそうだろうな」


 店を出た辺りで声をかけてきたエヴァン。

 さすがにこいつには俺の性格がばれているので仕方がないだろうと思う。

 チョコチも俺との戦いの後遺症があったからね。申し訳ないけど置いていくつもりだ。


「カリラの事頼むわ」


「“あれ”を超えたのならもう吾輩がどうこうすることはないのだよ」


「それでもだ」


「そんなに心配なら連れて行けばいいのだよ」


「………殺されてえのかお前。酒が回ってましたじゃその発言は許せねえけど」


「―――不器用な男なのだよ。本当に」


「器用なら今頃ハーレム作ってウハウハ生活してるっての。まあ時間もそこまでねえし、さっさと行くわ」


 それ以降エヴァンは何も言わず、ただこっちを見続けていた。

 

 久しぶりの一人旅だな。

 まあ、そこまで長い旅じゃねえけど。



 次の目的地は………ようやく王都ランバージャックに里帰りだ。

 俺の故郷に、ミハイルが作り上げた国に巣食った害虫どもを一掃しに行く。


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