第248話 エンドロール見てる時ってめっちゃ目乾かない?

 そこにいたのは、膝を抱え、顔をうずめる綺麗な女だった。

 みすぼらしかった服装は小奇麗な装束に変えられ、捧げものに相応しい化粧を施されていた。

 しかしその化粧が涙で滲み、とてもとても愉快な顔面になった女がゆっくりとした動きでこちらに目を向けた。


「さっさと顔洗えよ。あ、やっぱ嘘。今のお前の顔マジで笑えるからそのままあのガキンチョに見せてやりな。どうせ辛気臭ぇ顔してお前の帰り待ってんだからさ」


 そういって愉快な顔面になった女に手を差し伸べる。

 その女は差し延ばされた時に肩を一瞬びくつかせながらも、俺の目をまっすぐと見つめてきた。


「どうにも俺はお前らのお兄ちゃんになっちまったみたいだからさ。さっさと帰ってちっこい方を安心させてやらねえといけねえんだわ」


 未だに手を伸ばすのを躊躇っているタレットにむけ、さらにもう一言追加した。


「お前の妹は糞ボロになりながら俺のところまできて、お前を助けてくれって頼んだんだぜ? お前のためにあいつの宝物まで差し出してさ。そんな妹の気持ち………無駄にすんじゃねえよ」


「ですが………私が外に出れば再び争いが………」


「起きねえよ。お前の巫女としての役割はもう終わった。森王はもう二度と復活しない」


「そんな無責任なこと言わないでくださいっ! あなたは森王の力を何も知りません………私が森王の手に落ちれば………あれ程の力を持つ化け物がこの世界に完全に解き放たれてしまいます………」


「放たれねえって。だからお前はもう自由だ。好きなことして好きなように生きていい。妹と二人でゆっくり過ごせる。何も気にせず、今まで苦しんだ分全力で楽しんでいいんだ」


「好きに生きられるはずがないじゃないですか………仮に森王から逃げられたとしても、いつ捕まるか分からない生活で、そんな楽しみを味わえるはずがないじゃないですか………それなのに………そんな、希望を持たせるような事を言わないでください! せっかく諦めきれたのに、もう少しで全部踏ん切りが付けられたのに………あなたのせいで………最後に会うのがあなたで、本当は嬉しかったのに、ほっとしたのに………それなのに………最低です………あなたは………本当に………」


「そう思うなら飛び出して見てみな。おまえの恐れた存在も、お前に危害を与える様な連中ももういねえよ。それにな、お前が生きてるこの世界はな、お前の想像以上にいい世界だぜ? なんせ俺みたいな無能な野郎が生きていけるくらいには優しい世界だ。俺は次の用事があるからもう行くけど、この扉もそこまで長く持たねえ。だからさっさと出てくるかどうか決めるんだな。ま、出てくるんなら絶対に後悔はさせねえよ。お前らの兄貴はそれくらいの甲斐性はあるつもりだからよ」


 あまり長くここにいると俺の体じゃ耐えられない。だから出てくるかどうかの最終判断はこいつに任せるしかない。

 こいつのいるところまで行けるほど俺の体は丈夫じゃない。

 だからこいつが自分から出てきてくれるのを待つしかない。


「最後に、コレ置いとくからさ。謝っといてくれや。宝もんぶっ壊しちまって悪かったって」


 それを地面に置き、俺は扉を後にする。既にあの男は姿を消し、こことは違うどこかで永久に死に続けているのだろうことが予想される。

 ついでにあのガキンチョが寝かされている宿の場所を書いた紙と、小さな小瓶を一つ。紙に補足としてもし出てきたのならこれを売って金にしろと書いてこちらを見ているミルズの元に歩んでいく。


「待たせたな」


「いいえ。ようやくこれで………」


「あぁ、これでひと段落って感じだな」


 そこまで来て、急に緊張が途切れたのか全身から力が抜け、ふらついたところをミルズに支えられた。


「送りますよ」


「わりぃな」


 俺と同様にボロボロのミルズに肩を貸されながらこちらを見ているたまきやマクダフ達の所に歩みを進める。

 彼らも戦いの影響でボロボロになってしまっていたが、それでも俺よりもいくらかまともだった。


「先輩、あれでよかったっすか?」


 始めに声をかけてきたのはたまきだった。 

 こちらを伺うようにしながらも、俺の背後に展開された扉をちらりと見やった。


「いいんだよ。どうせ出てくんだろうし」


 あいつの目はまだ死ぬ奴の目じゃなかった。諦めたとか言ってたが、あれはあきらめたやつの瞳じゃなかった。


「おいバカ弟子」


「………はい」


 俺の声に反応したシグナトリーは森王が殺されたのを見て既に戦うこと自体を諦めていやがる。


「回復したらドライアドを復活させる。俺の知ってる情報と、紫結晶、最後にお前の協力があればそれは可能だ」


 だけどこれにはどうしてもドライアドが亜人ではなく魔物であるという確信を持つ必要があった。

 森王との話の中でそれが確認できたのでこの方法は有効であると胸を張って言える様になった。

 さすがに不確定な情報をチョコチに教えて希望を与えちまうのは気が引けたし。

 

 まあ最終手段で復活させることも可能だが、それだとかなりの時間と労力がかかるから正直やりたくなかった。


「こんなに………簡単に解決してしまうのなら最初からあなた様に頼っていれば………」


「ぜんっぜん簡単じゃないからね!? めっちゃ面倒だからね!? その辺解ってるかな!? お前はマジで説教確定だからその辺は覚悟しとけよ!?」








 

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