第246話 俺のターンっ!ってなった途端調子に乗るやつ

 俺の質問に若干驚いたような顔を向けてきた男。 

 どうにも俺の質問は予想外だったみたいだな。


「あぁ、巫女の女ヒロインのことでしたか。大丈夫ですよ。しっかりと生きていますよ………封印の中で」


 最低最悪なことを考え付くじゃねえか。

 森王の代わりにあの封印の中に入れられたってことか。 

 普通の人間があんなちからの濁流の中に入れられてまともな状態で生きていけるはずがねえ。

 生命力の海見てなもんだから死ぬことはないが、それでも何かしら後遺症が残ったり、下手すりゃただ生きてるだけってことにもなりかねない。


「おーけーおーけー。話は大体わかった。んじゃ―――」


 対人戦でしか使えない歩法によって俺の姿を即座に見失った男は最初にミルズに視線を送った。 

 どうやらミルズの個性は割れてるみたいだな。


 ―――だけどまあ。


「殺すわ」


 意識の切りかわりを突いた一閃。視認することも知覚することもできないその一線によって男の腕が吹き飛び、はじけ飛んだ。


 だが、男は腕が吹き飛ばされたってのに余裕の表情で俺の方をゆっくりと振り向いてきやがった。


「―――あぁ、そこにいたんですか」


 チョコチのファイアクロー並みかそれ以上の力を秘めた魔力の剣が俺に迫ってくる。 

 恐らく胴体に当たればたちどころに蒸発させられるような威力を持っている。

 

 ぎりぎりの所で足元を爆破し、その爆風を使って男から距離を取ることに成功したが、今の反撃は正直予想外だった。

 腕をくっつけるのではなく、生やす速さが尋常ではない。

 キルキスやマッカランよりも蘇生の速度が速い。


「おやおやおや。今のも避けますか」


「ミルズ、お前はサポートに回れ。接近なんか考えるな」


 気配がなかったら今ので殺されてた。

 正直これの相手はミルズには重すぎる。


「何です? そちらの出来損ないは来てくれないのですか? まあそれもそうでしょうね。なんせ森王の力を得た人間―――人間でありながら“踏み越えし者”の領域に到達したこの私が相手ではね」


 そう言って男は余裕の表情を見せびらかすようにして笑った。


 おいおい。笑いたいのはこっちだっての。


「おいポンコツ。テメエ随分饒舌になったじゃねえか。最初のミステリアスなのはキャラ付けか?」


 全身の筋肉を弛緩させ、いつでも動けるようにしながら男に声をかける。


「―――相変わらず相手を怒らせるのが上手なお方だ。ですがそう言った発言が―――」


 男は糸のように細かった目をカッと見開いて俺を見てきた。 

 そのすぐ後にその場から姿を消し、俺の背後に現れた。


「死期を早めるのですよ」


 下卑た笑みを浮かべながら、腕を振り上げていることなんか見なくてもわかる。

 そう動くって俺は知ってたからな。 



 ―――だからこそ、これを使わせてもらう。


「【崩壊せし狂乱の弾丸】」


 かつての仲間、響の個性である崩壊。それを冠する弾丸。

 幸いにもこれだけ力に溢れた場所であるがゆえに一張羅のチャージも早い。

 

 俺の発言を聞き、即座に距離を開けた男の足元に弾丸が落ちる。


「無駄ですね。その弾丸は相手に当たらなくては意味がない」


 話からだいたい察してたけど、こいつら俺のことを恐ろしい程調べてやがるな。

 確かに響の弾丸は相手に当たらないと効果を発現できないものだ。


「―――マジかよ………ったくっ!!!」


 即座に近寄よってきた男の一撃を回避し、続く二撃目が予想される場所にモンテロッサの盾を落とす。

 10メートル以上ある大盾だからこそ、どの角度からの攻撃も遮断できる―――そう思ってた。


「残念です」


 男の目には、会長と同じ龍眼が浮かんでいやがった。それで俺の行動を先読みして、盾の側面に回り込んできやがったのか。


 ――――だけどまあ、化かし合いは俺の勝ちだな。


 男の振り抜いた拳は俺に当たることはなく、俺の真横を通り過ぎていった。


 腕を振り抜き、隙だらけの男に俺は再び銃口を向ける。


「けははははあ!!! 無駄ですよ! あなた先程弾丸をもう使ってしまったでしょ! 一張羅の効果で一日に一発しか弾丸は打ち出せないのは既にわかっております!」


「そうだな。さっき撃った弾丸が本当に過付加された物だったら………そうかもしれねえな」

 


「こけおどしですね。それに、私は今森王の力を得ました。世界の理を超える力を得てしまいました。どんな個性であろうと、今の私に傷を負わせることはかないませんよ」


 先ほどの動揺は反射的なものだったのだろう。

 それほどまでに俺のことを徹底的に調べているとなると本当に面倒だ。

 だからこそさっさとぶっ殺しておかないといけないなと思う。


「古代種や王にはたしかに個性の攻撃は効かねぇけどよ、お前さっき自分で言っちまったじゃねぇか。“自分は人間だ”ってな」


 余裕の表情で両腕を広げ笑みを浮かべる男。

 そいつの胴体に銃口を押し付けてやるが、それでも男の表情に変化はない。


「詭弁ですね」


「いいや、違うな。そいつが世界の仕組みなんだよ。強者を出し抜く為に調べ上げた世界のルールなんだよ」


 脳裏を過るのは、いつも1人で暇そうにしている女。

 闇を押し固めたような存在であり、俺の力なしでは生きる事さえ出来ない存在になったかつての史上最強。


 魔“王”でありながら、人であることを望んでしまったその女の、少しだけ寂しげな横顔を思い浮かべながら俺は引き金を引いた。


「【掌握する支配の魔弾】」

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