第245話 男の大半は欲望には逆らえないとアメリカの大学で発表されました。
狂気と悪意を兼ね備えたあの男が、森王の死体を一瞬で捕食し、その力を我がものとした。
この力はミルズと同じものだろうと判断できる。
「面倒なことになりそうだわ」
そんな事をぼやいていると、俺の隣に不撓不屈とミルズ、そして戦いを終え、ぼろぼろの状態のたまきが集まってきた。
たまきは雑魚の相手を任せてたけど、それでも結構被弾したみたいで息も上がっている。
不撓不屈もダメージはかなり残っているようだが、俺と戦った時のあの厄介な個性で自信を相当に強化していることが分かった。
ミルズはそこまで汚れているわけではなさそうだが、消耗していることは何となくわかる。
「お前ら邪魔。“これ”はお前らがどうこうできるようなレベルじゃないからさっさと逃げなさい」
俺がどうこうできるレベルでもないんだけどね。
だけどまあ、死人が減った方がいいじゃん。
俺は狂気の笑みと、こみ上げる高揚感から叫び声にも似た笑いをあげる男に視線を移した。
「………強がるのはおやめください」
しかし、そこに、マクダフに肩を貸されたチョコチがやってきた。
どうやら夫婦喧嘩は終わったみたいだね。おじさん少しほっとした。
「いいとこに来たな。ドライアドの復活方法が確定した………ってか俺の想像通りだったから安心して逃げな。あの領地にまだ屋敷があるなら、そこの研究室にその資料がある。それ見ればお前なら何となくわかると思うからさ」
まあそれはそもそも、古代種を魔物と仮定し、必要な条件を揃えることで古代種を生み出そうとか考えてたバカな研究者をぶっ殺して奪ったもんだけど。
まさかそれが役に立つとはね。
「屋敷がない場合はこれ使って星の記憶に行きな。そこで“キャンベル・タウン”って奴の人生を見てこい。そうすればわかるから」
それだけ言って、チョコチに支配人の合鍵を投げ渡す。
彼女の足元に転がったそれを、チョコチが拾い上げるのを見終わる前に、俺は件の男に視線を戻した。
―――どうにも俺を御指名の様だしね。
「んじゃな」
まだ、森王の残した魔力と加護がこの一帯に充満してる。さっき解除した戦場の分も合わせれば、ギリギリもう一回戦場を展開できるくらいの力があるはずだ。
思考を常に動かし、足を進めようとした時だ。
たまきに肩を掴まれ、そのまま顔を思い切り殴られた。
「ぐえっ―――ゴホッゴホッ………」
殴られた拍子に、堪えてた血反吐が一気に吐き出されてしまい、その場を真っ赤に染め上げてしまった。
俺程度の肉体強度じゃ森王の攻撃が直撃しなくても、その衝撃だけでもダメージになるから仕方がないんだけど。それでもバレたくはなかったな。
「自分は心の声が聞こえるっすから………先輩が無理しようとしてるのも、もう戦えないのもわかってるっす。先輩このまま死ぬ気じゃないですか………なんでいっつもそうやって一人だけ………」
「後輩さんかしら。それは仕方がない事なのよ。この人はいっつもそうなの。だけど言って通じる様な人じゃないから皆本当に苦労したのよ………だからね、その時から皆で決めてることがあるの」
そう言ったチョコチはマクダフに一度アイコンタクトを取ってから一人で俺のところまでやって来て、行使するのもやっとな回復系の魔法を俺に施した。
「ローズはこれから相当美人になりますよ。それこそ私なんかよりもっと。これはあの人と話して決めたんですけど………ユーリ様にローズの面倒を見ていただければと思っています。私たちは少しだけ、その……二人の時間を過ごしたいので」
「ははは………おいおい、そんな事言うとおじさん悪いこと想像しちゃうんだけど?」
「ふふっ………安心してください。これは………“親公認”です」
大塚悠里、全身全霊を持って……—————必ず生き残りますッ!!!!!
「帰って赤飯を焚いておいてくれ。俺は少し用事を片付けてくる」
「ふふっ。かしこまりました」
それだけの会話を終え、チョコチたちはその場から離れていく。
たまきだけが釈然としない表情を浮かべながらも、チョコチに手を引かれ、こちらに泣きそうな顔を向けながら去っていった。
これでもう邪魔はいないな。
「準備はいいかミルズ」
「えぇ。この時の為に私はここまで来たのですから」
唯一その場に残ったミルズ。不撓不屈でさえあの男との力の差を感じ、既に撤退を指揮し始めているというのに、この男はそんな事お構いなしに俺の隣に立っていた。
「死んでも自己責任な」
「承知の上です」
俺とミルズが男に向かって歩みを進めると、男も裂けるような笑みを浮かべながら出迎えてくれた。
「お待ちしておりましたよ千器様」
「お前の話し声がやっと聞けたな」
ヒリつく空気を醸し出しながら、そんな会話を始める。
「あなた様の復活。心より感謝いたします。あなた様の伝説にこの手で終止符を打てると思うと………胸が躍りますねぇ」
「伝説ってさあ………ほんとやめてほしいんだけど。それに俺の物語なら絶対にラブロマンスかラブコメでしょ。恋愛要素を取ることは許さないけど」
目の前の男はもう森王の力を完全に飲み込んでいる。
行使することも間違いなく可能だろう。
人間の体に、古代種並みの力。それだけではなく先ほども見せたいくつかの力。
相当に厄介なことはわかってるが、それでも最後に一つだけ、話しを聞かないと気が済まない事がある。
「お前タレットを―――でかい方の妹どこやった」
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