第244話 連戦

 まるで隕石を背負い込む様な姿勢で受け止めた森王。しかし、その体の鎧はぼろぼろと崩れ落ち、次第に素肌が露わになっていく。

 あの雨の影響で鎧も脆くなっていた。それをわざわざ攻めあぐねているように見せたのはこの絶対の“隙”を十全に突くためだ。


 森王に即座に駆け寄り、鎧が崩れ落ちた場所を切りつけていく。そのたびに森王から悲鳴が響き渡るが、そんなこと知った事じゃない。

 

『貴様ぁぁぁぁあ!!! この森王が倒れれば貴様も死ぬぞ! それでも良いというのか!』


 三回ほど切り付けた辺りで森王がそんな事を言ってきやがった。


「えぇ~なにぃ~? ぼくちゃん子供だからわかんにゃーい」


 過去最大急に相手をイラつかせるフェイスでそう言ってやれば、森王から怒号が飛んでくる。

 

 おいおいそんなに怒ると体に悪いぞ?


「悪い子には罰を与えねばなりませんなぁ! さぁ、おいでませ沼!」


 森王の地面からの一撃で無効化されてしまっていた沼を再び召喚し、隕石の重量と森王自身の重量でどんどん沈んでいく。

 さすがの森王様も沼の中じゃどうしようもないのか、血の気のひいた顔を浮かべてくれた。


『分かったっ! もうこの森王の負けだ! だから早くこれらを解除しろ!』


「は? ちみ誰に口きいてんの? 俺のことは社長と呼べ」


『ふざけとる場合かぁぁぁっぁあああ!! いいか!? この森王が隕石を止められねば貴様も巻き込まれるのだぞ!? そうすれば加護も持たぬ貴様は必ず死ぬ! だからこれはお互いの為の取引だ! 貴様の今までの無礼全てを見逃そう! だからこの魔法を早急に解除す―――』


 そこまで言った森王の発言が突如叫びに変わる………と言うかまあ俺が腹ぶった切ったからなんだけどさ。


「だからさ、お前誰に口きいてんだよ。この状況でどうして追い込まれた奴が追い込んだやつに命令してんだって話。お前ができるのは俺の慈悲に賭けてドライアドの復活が可能かどうかをまず話すことだろ」


 これで残り、6回。


 ついに体内の暴走を収めることが出来なくなり始めた森王のこめかみから加護が破裂し、出血を引き起こす。


「んで? もう一回だけ聞いてあげるよ。ドライアドは復活できるのか、できないのか、どっちだ?」



 言うなればこれは保険。俺の考えが間違っていた時の為の予防策でしかない

 だから俺もそこまで聞きたいわけじゃないし、話さないようならなんの躊躇いもなく殺せる。


「早く言えよ」


『………できないことはない………しかし……生まれる種族が必ずしも以前と同じドライアドかは………保証できない』


「方法は?」


『そもそもドライアドは魔物だ……環境さえそろえば自然に発生させることができる………だ、だがこの森王を殺せばドライアドが誕生する環境もわからぬま―――』


 これで、あと1回。


「やっぱ駄目だわお前」


 それだけ言って俺は森王の元から離れていく。

 既に胸元辺りまで埋まってしまった森王は俺が見逃したでも思ったのか、安堵の表情を浮かべながら、隕石が消えるのを待っている。


 生憎と俺は“嘘”を信じてやるつもりは欠片も無くてね。


 離れた場所にある射出機に神剣をセットし、それを森王に向ける。


「お前………ドライアドの復活できる条件知らないだろ」


 それだけを言って、こちらに恐怖を前面に押し出した表情を向ける森王に向かって神剣を打ち出した。


『待てっ! 我は森王ぞ! この我無くてはドライアドの復活はありえ―――』


 額に深々と刺さった神剣が、森王の体内の加護を完全に暴走させ、その異常な増加率に耐えきれなくなった肉体が、安い破裂音と共に吹き飛んだ。


 俺が神剣を射出したと同時に隕石は消したし、沼も解除してある。

 ドライアドが魔物だという確証は得ることができたし、そもそも俺は“ドライアドが生まれる条件”を知っている。

 だからこそ、アイツは生かしておく必要がなかった。



 魔力の発生源と共に消失した戦場には、驚きに目を見開く不撓不屈と、ミルズがおり、鬼気迫ったような声で俺に“逃げろ”と叫ぶように声をかけてきた。


「第六の力―――我龍転生」


 背後から感じ取った鋭い気配に身をかがめれば、空中に上半身だけで浮かび上がるあの薄気味悪い男がそこにいた。

 そいつは瞬く間に俺の元から離れると、森王の死体に近寄り、そして―――


「第五の力―――悪食」




 ―――森王の死体を捕食した。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る