第241話 共闘は能力把握が大事
◇ ◇ ◇
「………化け物ですねぇあなた」
ミルズとの戦いを放棄し、森王の所に向かおうとした男だったが、大塚悠里の展開した“戦場”に足を踏み入れることが出来ず、そこを不撓不屈に見つかり、戦闘になった。
それから少ししてミルズが再び合流し、2対1の戦いを見せていたが、戦局は依然として男に有利な物であった。
だがそれでも押し切れない理由がそこには存在していた。いや、押しきれないだけならまだいい。しかし現状はとうにそんな生易しいものではなくなっている。
男はすでに第一の力である龍眼、第二の力である生体加速、第三の力魔刃形成を使っている。
初めのうちはそれだけで対処は十分に可能だった。重鈍な騎士など歩み寄って撫でてやればそれで事足りるはずだった。
しかしそれが今ではどうだ。
鎧は砕け、盾はひしゃげ、剣さえ半ばで折れているというのに、その女は立ち上がるのだ。
最高級の素材をふんだんに使った鎧であろうと切り捨てることができた魔刃が、その女の肌には歯が立たなくなった。視認さえできていなかった動きに徐々に適応し始めていた。大岩を容易く切り裂く程度の剣だったそれは今では地面を大きく叩き割るほどの威力を発揮し始めていた。
倒せど倒せど立ち上がり、瞳に宿す闘気を募らせていく目の前の女に、男は次第に恐怖さえ覚え始めていた。
「―――眠ってなどいられないさ。倒れてなどいられないさ。私には成さねばならないことがある。民を、仲間を、村を、街を、国を、力に膝を折ってしまう皆を私は守らなくてはならないのだ」
「戯言ですね。それを強者のあなたが言ったところで誰も理解も共感もしませんよ? それを言うべきなのはあなたではない。あなたのような才覚溢れる人間であってはならないのです」
そのあまりの物言いにさすがの男もついに言葉を返してしまった。もう何度彼女を倒したか分からない。ミルズの参戦もあり、そのペースが落ちたことは事実だが、それでも未だに彼女が立ち上がることなど誰が予想できたことか。
「いいや、私は弱いさ。体は強かろうと、私には心が伴っていなかった。だから私は負けてしまったんだよ。彼に………加護も寵愛も持たない非力な男に。ハッとしたさ。その後の戦いを見て気が付かされたさ。腕が吹き飛んで、体の中からぐちゃぐちゃにされようと最後に笑みを浮かべながら勝利を拾っていった彼の戦いを見て、私はそこに“本当の強さ”を見出してしまったんだ」
故に、いつか彼のような力無き者が戦わなくても笑って暮らせるような、そんな世界を―――
不撓不屈というバカな女はそれを本気で目指し、統制協会のスカウトを受け入れた。
「自分の為に戦う君たちに、力なき全ての者の為に戦う私が負けるはずはないのさ」
これで14回目。立ち上がるごとに力を増す彼女がこの戦いだけで既に14回も立ち上がっている。
当然男は不撓不屈の様子が変わり始めてからは本気で殺しに行っている。しかし、それでも決めきれない。間一髪のところで不撓不屈は命をつなぎとめているのだ。
「さぁ、まだ15ラウンド目だ。今回の私はさっきの私より些か手強いぞ」
半ばで折れた剣を掲げながら駆け出す不撓不屈。その動きは既に加速を使っている自身に比肩しうるものになっている。
………だからと言って、数舜先の未来が見えるという圧倒的な有利が覆ることはない。
これほどのアドバンテージはそう易々と覆ることはないのだ。
「魔刃乱舞」
「
男の繰り出す24にも及ぶ斬撃が、地面を抉り取りながら迫る巨大な斬撃とぶつかり合う。
しばしの拮抗を見せた二人の技の衝突だが、未だにあふれ出す力を完全には制御できていない不撓不屈の攻撃より、力の研鑽を怠らなかった男の攻撃に軍配が上がった。
「ぐっ………」
不撓不屈の攻撃を突き抜け、彼女の体を叩きつけた攻撃。しかし本来であれば四肢ごとバラバラにしてしまうような攻撃にも関わらず、彼女の体に裂傷はなく、あるのは金属の塊で叩かれたような傷が残るばかり。
彼女の本来の長所はその圧倒的な成長力ではなく、民を守るために磨き上げたその肉体そのもの。
14回ものリベンジを果たしている彼女の防御力は既に、並大抵の刃物では切り裂くことが困難な程に強化されていた。
「まだ終わりではありませんよ」
しかし圧倒的に経験値に劣る能力を身に着けた弊害と言うのは生まれる。
本来であれば今の攻撃を突っ切りそのまま攻勢に出てもおかしくはない場面。しかし彼女の脳裏には“今の攻撃は強力な物”と言う強化前の思考が残ってしまっていた。
だからこそ身を縮ませ、防御に徹してしまった。
それほどまでの隙を逃すほど、目の前の男は戦いに疎くはない。
「決めます。第四の力【
ついに第四の力を顕現させた男の右手に眩い光と共に雷を模した形状の剣が現れる。
膨大な熱量を孕むそれは間違いなく聖剣と呼ぶにふさわしい存在であり、神崎が手に入れる光と風の聖剣と同じ系譜に位置する存在でもあった。
「【ドンナー・ファウスト】」
打ち出された一撃は最上位の英雄に相応しい一撃。その威力をもってすれば小さな山岳など一撃で吹き飛ばしてしまってもおかしくはない破壊の力を秘めた至上の一撃。
―――しかし。
「ばかなっ!」
龍眼にはこのような結末は映らなかった。そのような未来は見えてはいなかった。しかし、聖剣を突き出した男の見る未来が、一瞬にして“書き換わって”しまったのだ。
「―――未来を湾曲させ、間違った未来を投影しました。反撃はこれからです」
その声と共に、聖剣は空を切り、両側面に現れたミルズと不撓不屈の渾身の一撃が男の体を強かにとらえた。
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