第239話 強くはなくても
『出でよ神樹槍・イグラシル』
森王が取り出した捻じれた木の幹のような槍。それからはアーティファクトを遥かに超える様な力が隠されていることが分かる。
あんな一撃を貰えば俺はひとたまりもないだろう………ってことで次のアイテムを使っていきましょうか。
『穿て』
射出された槍は大気の壁を容易に突き破り、認識の速さを即座に飛び越えて見せた。
常人でしかない俺にこれを防ぐことは不可能だし、回避だって無理だ。
それゆえに、俺は全身を持ってその槍を“受け止めた”。
『―――なんとっ!?』
驚愕に顔を歪める森王。
いやいや、バカじゃないんですからそんな命がけのことしませんって。
ミルズ戦で使った幻魔石。これは対象に一時的に幻術を見せる効果がある。
あの時はカリラを俺に見せる様な幻術を使ったが、今回は………
『しま―――ッ』
俺の幻術の背後に置いたのは硬度の低い粘土の塊だ。
それもバカでかいやつを用意してやった。
衝撃は粘性を持つその塊によって吸収され、塊の深いところに槍が勢いを無くし、静止してしまった。
「はいかいしゅー」
俺はその粘土事アイテムボックスに収納し、イグラシルとかいう槍を無力化して見せた。
俺の戦い方的に遠距離攻撃は正直きつい。
『がああぁぁぁぁっぁあぁっぁああああ!!!!!!』
それと、さすがに俺のことを見失ってる敵を攻撃しない訳がない。
上段から剣を振り下ろし、返す刃で切り上げた。
これで3回。
『猪口才なッ! 人間とはいつもそうだ! 卑怯な手を使い、策を弄し、我らを貶めたッ!!!』
再び地面から鋭利な木々が顔を覗かせ、地面は瞬く間に剣山と化すが、そんな隙だらけの攻撃を回避できない俺ではないのだよ。
「陣術………爆雷豪雨」
展開しておいた陣術の一つが効果を発揮する。
途端にこの戦場の上空だけに雷雲が現れ、そこから雷を纏う雨が降り注ぐ。
それに合わせ、俺はもう一つ生体魔具でアイテムを取り寄せる。
「最高のプレゼントをやるよ」
遥か上空から先ほど森王が出したイグラシルという大槍を召喚する。そしてそれが雲よりはるかに高い位置にいる俺の手から離れ、重力に伴ってどんどんと加速していく。
『がああぁっぁああああ!!! 人間風情がッ! 人間程度がッ! イグラシルを使うとはッ!!!』
自身の肩から深々と突き刺さる槍を強引に引き抜こうとしていたので、柄を掴むぎりぎりの所で再び回収していく。
『バカにしているのかッ! この森王をッ! 下等な人間程度が!!!!!』
バカにしてる?
こいつ何言ってんだよ。これが俺の戦い方だ。相手を怒らせて正常な判断能力を奪うのなんざ戦いの常とう手段だっての。
それにさ………バカにしてんのはお前の方だろ。
「あんまり人間舐めんなよ。一体どの種族が最悪の時代を終わらせて、世界の覇権を取ったと思ってんだ」
陣術:沼召喚。
効果は簡単な物で、半径20メートル程に沼を召喚する陣術だ。
しかしこれだけの巨体を持つ森王だ。沼に沈む速さは尋常じゃない。
瞬く間に膝の上部分まで沈みこんだ森王はそれを見て驚愕の表情を再び浮かべた。
「この世界舐めすぎ」
わざわざ顔の前に飛び降り、森王の左目に神剣を深々と突き刺してやった。
それと同時に俺の鼓膜では拾い切れないような叫び声が周囲に響き渡り、山そのものが大きく揺らいだ気がした。
ロープを巻き取り、その場から離れながら回復薬を頭からかぶる。
破裂した鼓膜が元に戻るのを感じながら、俺は次の攻撃のために突き刺したままにしてきた神剣を手元に呼び戻し、走り出す。
これでまだ4回目。
『消え去れぇぇぇ!!』
それと同時に森王の足元から巨大な花弁を持つ花がいくつも咲き誇り、中心部が膨大な熱量を放ち始めた。
――――やばいっ!
そう思った頃には時すでに遅く、上空に展開していた結界も、地上の罠も何もかもまとめて照射された光の濁流によってかき消されてしまった。
『これが王の名を持つ者の力だッ! このような事、人間では到底不可能であろう!』
戦場が無ければ、正直この国どころか隣国に被害が出ててもおかしくなかった。
この敵が如何にあの封印の中で力の無駄遣いをしてくれていたかがよくわかるぜ。
戦場はあいつの使った魔力を再利用して作った物だからな。
『………消え去ったか』
安堵のため息を吐き出した森王の耳元に俺は着地し、神剣を振りかぶりながら声をかけた。
「誰が?」
その直後、再び森王の絶叫が周囲を支配した。
さっきの攻撃でぐしゃぐしゃになってしまった地面にゆっくりと舞い降りながら、結界の再構築を行っていく。
巨大な敵と戦う際には空中の足場は絶対に必要になるからな。
『どうして、どうして貴様は生きているのだ!!! 全てを消し去ってやったはず! 貴様程度ではあの攻撃に耐えられるはずがない!!!』
焦ったように声をあげ、拳を振り下ろしてくる森王の目の前に、俺は巨大すぎて屋外でしか使えないが、それでも最強の盾を召喚した。
「あぁ、そうだろうね。だけど、俺じゃなけりゃ耐えられるんだよ残念ながらな」
『ば、ばかな………そんな、そんなものが……どうして…………』
その盾と衝突した森王の拳は容易くひしゃげ、手の甲から骨が飛び出していた。
「殺して奪ったからだよ―――モンテロッサから」
近接戦闘最強を誇る、古代種の中で神の名を冠する化け物であるモンテロッサが所有していた大盾。それを森王は真正面から殴ったのだ。
実を言えば少し違うのだが、まあそれはこの際どうでもいいだろう。
あの時は俺も睡眠不足でテンションが狂ってたし。
『あの、戦神を………殺しただと?』
話に応じた瞬間、次の一撃をくわえるまでの算段が完全に構築できた。
英雄や勇者だけではなく、怪物どもにも共通してのことだが、腕を切り落としたりは比較的一瞬で回復されるが、臓器などへの攻撃は回復に大きな時間とカロリーを要する。
モンテロッサ戦ではそのことをまだ知らなかったせいもあり不眠不休で動き続ける羽目になったっけな。
指に巻き付く糸のうち、一本を切り落とせば、何かまだ話している最中の森王の目の前に黒い塊が落ちてくる。
そしてそれは完璧なタイミングを持って効果を発揮した。
『ぬをっ!?』
閃光弾。俺のお得意の戦術だ。
視界を潰し、次にやることは聴覚の破壊だ。
即座に爆音弾を投げ込み、それが空中で破裂するように衝撃さえ伴う爆音をまき散らす。
『あがああああっ!』
ほぼ一瞬で視覚と聴覚をダメにされたせいで森王はバランスを崩し、そのまま尻餅をつくように倒れ始めた。
『陣術:
地面に打ち込んだ針があった場所から巨大な鉱物で模られた槍がせりあがり、森王の倒れる力と、伸びあがる槍の力によって森王の体を串刺しにしいて動きを止めた。
「爆」
一張羅を手に入れるとこういった攻撃が可能になる。
例えば突き刺さった槍の先端を爆破し、内部破壊をすることとか。
「これで、6回目」
意識を失った森王に駆け寄り、そのまま人間であれば頸動脈のある場所を切りつけ、次に背中を4回ほど切り付けてから距離を開ける。
かつて戦った古代種たちは頭を吹き飛ばそうが、内在する力がなくならない限り復活した。
そして目の前の怪物もそれと同じ類の化け物だ。空気に溶けだしたこいつの気配は少しの衰えだけで今までの攻撃でも全体の1/20も削れてはいない。
そしてこれからは俺の派手な陽動や攻撃に目を取られてはくれなくなる。
最も危険でダメージがあるのが神剣での一撃だとこいつも理解し始めるころだ。
そうなったらもう、我慢比べだ。
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