第238話 無能VS王
―――相容れない。
もともとそんな事はわかってた。
だから、俺の目の前で俺にばれないように背後にいた教徒共から“養分”を吸い上げて殺したこととか、不撓不屈やミルズ、たまきにまでその根を伸ばしたことも予想通りだ。
唯一攻撃されなかったのはシグナトリーだけ。それと戦ってたマクダフも足元から現れた根をギリギリの所で回避していたようだしな。
『森王とは、森の王にして、世界の森その物。世界樹と同等の力を有するこの森王を、それを知った後でも殺せるというのか人間』
「殺せるかどうかなんか話ちゃいねえんだよ。俺はお前を“殺す”それが今確定しただけだ」
会話が通じる。性格もある程度わかった。だからこそ、他の王よりもやりにくい。
―――だけど、それだけだ。
結局俺のやることは変わらない。
遥か雲の上の存在達に、泥臭くしがみついて、惨めったらしく足掻いて、どうにかこうにか生き残る。それだけだ。
『恐ろしい男だ。この森王を前に、それほどの闘志をたぎらせるとは』
その言葉と同時に振り下ろされた拳は、これほどの巨体でありながら、英雄にしては些か遅いと感じる程度の遅延しか起こってはいない。
これは異常な事だ。脳みそから送られる電気信号に対して筋肉が動作を開始するわけだから巨体になればなるほど動作に支障をきたす。
だが、目の前の森王はこの巨体ながら、その遅延が全くないどころか、電気信号なんかより早いやり取りをする英雄どもに比肩する動きを見せているのだ。
剣と魔法の世界ってすっげーという感想は置いておいて、これだけ巨大なのに足がやられないのはこいつらが“魔法生物”と呼ばれ、情報のやり取りを魔力を媒介として行っているからに他ならない。
筋力も関節も魔力によって強化、補強されているからこそこの巨体の動きにも当然のように対応できる肉体ってわけだ。
『………避けおったか』
「爆」
回避と同時に足元に投げつけておいた針を爆破するも、森王にダメージは見られない。
分厚い脚甲を微かに削った程度の威力しかないのでそれもしょうがないだろう。
『さて、どこに行ったのかゆるりと探していくとするかの』
そう言った森王は地面に向け、拳を落とす。
それと同時に周囲の地面全てが剣山のように鋭利な針となってせりあがった。
それを上空に設置した結界から眺める俺は手袋の効果によって空中に陣術を既にいくつも展開している。
「さてっと。まずは爆弾の雨をプレゼントしようじゃないの」
倉庫の中身をひっくり返すような勢いで、今まで必死こいてコピーして作ってきた爆弾の殆どを一気に投下する。
『なっなんじゃとッ!? ぐぬっ、ぐはっ!? がぁぁぁあああああ!!!』
古代種討伐用に作られたこの爆弾はそもそも肉弾戦最強であるモンテロッサ討伐を想定した構造だ。
その威力は龍王の鱗でさえも突き抜けダメージを与えられるほどの物だ。
周囲に戦場を形成していなければ絶対にできない戦い方である。
火山の火口にでもいるのではないかという程の膨大な熱が下から上がってくるが、それらのダメージは全て一張羅の効果によって無効化される。
一張羅の効果の一つ。環境ダメージ無効。これはなかなか目立たないが侮れない効果である。
かつての仲間である妖精王の個性、適応を付加することで全ての環境に適応することを可能にしたのだ。
「そろそろか」
結界の上から飛び降り、膝を突く森王に一撃を食らわせ、即座に空中の結界に固定したパイルに繋がるロープを巻き取る。
神剣の刃が森王に掠った直後、俺の体は強烈なGを伴いながら後方に引き戻される。
それと同時に、目の前を森王の巨大な拳が通過し、それによって生み出された風圧によって俺の体が吹き飛ばされ、掛かっていたGが消滅した。
「―――よっと」
再び結界の上に立った俺に、森王が赤く光る瞳を向けてきている。
体内の加護を爆破されているにもかかわらず、先程の不意打ちのように声を出して痛がってはくれない様だ。
『木々から聞いたことがある―――加護も寵愛も持たず、神と呼ばれた獣たちを刈り続けた男がいたと………そうか。それは貴様のことであったか。希望の旗などではない。あのような強者ではなく、貴様のような弱者がそれを成していると思うと本当に―――――不愉快だ』
全身から煙をあげながら、それでも一切闘志の衰えを見せない瞳。
そして全身を守る様に巻き付いた焦げた色の木々。あれは知ってる。たしか―――
『貴様の十八番は爆撃とその剣と見た。だからまず爆撃を封じさせてもらったぞ』
耐火性能の高い、火山地帯に生えるカスクツリーだったか。
「さて、どうだろうね。おじさん引き出しは多い方だからさ」
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