第236話 想像を超えることは日常的に起こる。
◇ ◇ ◇
「どうしてあのような命令を………と言うのは無駄な話ですかね」
黒い炎を纏う拳を不動退転を一時的に発動し防ぎながら、空間を湾曲させることで自分のいる座標を歪ませ、簡易的な瞬間移動を行ったミルズ。
しかしその瞬間移動は即座に見破られ、移動と同時に鋭い蹴りがミルズの顔面ぎりぎりを通り抜けた。
(おかしいですね。今のは間違いなく私の出現位置を予想してた動きでした。何か仕掛けがありそうですね)
会話を幾度となく試みるも、その男は反応を示さなかったことから、会話に応じるつもりがそもそも無い事が分かったミルズは一度距離を大きく開け、その場で魔力を練り始めた。
「
その個性はかつて瓦礫の城に配置されていた機械の兵隊を動かしていた個性である。
ユーリから拝借したかつてマキナで作られた戦闘用人型機械兵器を幾つかを取り出し、それを操作し始めたミルズ。
それに次いで、自身の姿を、認識を湾曲させることで隠して見せた。
普通の相手であれば無限に蘇生を繰り返す機械兵器との戦いに焦りを感じ、個性を乱発することですぐにガス欠に至るのだが、目の前の敵はそうではなかった。
最低限の加護を四肢に集め、機械人形の相手を行っている。胴体に加護を全く集めないのは攻撃を貰わないという絶対の自信からくる行為だろうとミルズは思った。
だからこそ、これは好機だとも感じた。
普通に攻めていれば攻撃を恐らく当てられないことなどわかっている。今までの攻防で何となくそのことは理解できていたので、今度は“通常ではありえない”攻撃を繰り出すしかない。
例えば、あの男のような型破りな戦い方を。
「――ッ!」
ようやく見せた表情の変化。それもそのはず。あの男が攻撃し、頭の吹き飛んだ機械人形越しに、剣を男に突き出したのだから。
これだけのことをしてようやく、ようやくミルズは男の着ていたスーツをうっすらと切り裂くことに成功した。
はらりとまくれたスーツから覗く素肌は、まともな環境で育った人間とは思えない程に白く、まるで人形の様だった。
そしてそこに刻まれる数多の入れ墨のような何か。それを見たミルズはなぜか背筋に冷たい何かが走ったように感じた。
「………おふざけは終わりですねぇ」
初めて男の声を聞いた。しかし、その直後に襲ってきたのは、圧倒的強者の前に立たされる牙も爪も持たない小動物のような気分。
これはマズい。何がマズいかと言われれば、その理由は明確ではないにしろ、生物の根底にある本能がそう告げてくるのだ。
目の前の敵は自身が想像している以上の怪物であると。
カッと見開かれた瞳の瞳孔は縦に割れており、それはまるで蛇や爬虫類種のような………いや、そこから感じる威圧感にも似た感覚は………龍。
たった数秒だが、その秒先を見据えてしまうとさえ言われる龍眼の特異体質。京独綾子という異世界の勇者にして、かつて絶対悪の個性を持つ魔王の討伐を行った勇者の最強が保有していたとされる眼にまつわる特異体質の中で最上位に位置するチカラ。
直視するだけで魔を払い、未来さえも見通してしまうとされる龍眼の保有者が今ミルズの前にも現れた。
「第二の力【生体加速】」
そう言った男の左足がズボン越しでもわかるほどの輝きを放ち始めた。それを見たミルズは何かを感じ取り、そのまま背後に飛びのいた。
そしてその選択は正解だった。
あと数舜今の動作が遅れていた場合、今頃ミルズの体はぺしゃんこに潰されていただろう。
それほどの一撃を男はミルズがいた場所に振り下ろしていた。
「この力を知られた以上、生かしておくことはできませんのであしからず」
今のミルズは認識を湾曲させることで姿を認識されないようにしていたはずだった。しかし、それでもなお目の前の男はミルズに接近し、剰え寸分狂わぬ場所に攻撃をしていた。
それだけではなく、今現在もしっかりと男と目が合っているのだ。
これにはミルズも冷や汗を禁じえなかった。これほどの力を有していると思わなかった。相当に強化されたはずのミルズであろうと、今のこの男に復讐の刃を届かせるのは難しく感じて仕方がなかったのだ。
「第三の力【魔刃形成】」
今度は左腕が輝き、肩や肘、膝を守る様に魔力で形成された刃が生えだしている。
シグナトリーの作り出すファイアクロ―の亜種とぶつかり合えばたちどころに蒸発してしまってもおかしくはない強度程度しかないが、それは相手が世界最強の集団と呼ばれ続けた彼らと同じステージに到達した怪物であるが故の力の差だ。
並大抵の英雄ではその脅威は計り知れない物であり、触れればその膨大な魔力の巻き起こす爆発に巻き込まれて戦闘を継続するのが難しくなってしまうよなダメージを受けてしまうだろう。
一瞬の静寂と共に、数時間にも感じられる時が流れる。
ミルズの頬から汗が滴るのと同時に男は駆け出し、壁になる様に立ちふさがった人形兵たちを容易く切り捨て、ミルズに一直線に迫った。
「―――ッ!!?」
だが、その刃がミルズを両断することはなく、ギリギリ首の皮一枚の所で止められていた。
それを成した男は封印があった場所に驚きと歓喜をないまぜにしたような表情を浮かべながら見つめていた。
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