第234話 経験がものをいう戦い

「目的ですか? そんなもの決まっているじゃないですか。我々は山の神である森王を信仰する信徒。その復活こそが何にも代えがたい理想であることは自明の理では?」


「あ、そう。ところで後ろの兄ちゃん、あんたはどんな思惑で動いてんの?」


 子デブ司祭の話を適当に流し、本命に話を振るが、一瞬狂気に満ちた笑みを俺に向け、直ぐに眼鏡の位置をなおし、笑みも消し去ってしまった。


「だんまりね。まあいいや。そしたらさ、とりあえずお前らの目的全部潰すけど怒らないでね」


 地面に浮かび上がる陣に線を書き足し、内側からあふれる力をうまく上空に逃げるように書き換える。

 それと同時に、内側から緑色の閃光が山頂付近にあった雲を散らしてしまった。

 

 やっぱこれは最悪と同じレベルだな。


 どうやら子デブに戦う力はないようで、俺のことをただ見ているだけだった。

 殺されないとでも思っているのか舐めてるのか分からないが、試しにナイフを投擲してみたが………


「結界の類か? いや、これは個性………それもミルズと同じタイプのもんか」


 手を後ろに組んだままのおっさんは笑みを浮かべるだけで何かを言って来ることはなった。


 しかし、細い方の男が俺の前に突然現れ、紫色の光を纏う拳を俺に向かって突き出してきた。


「ミルズ」


「かしこまりました」


 だが、その拳が俺に届くことはない。


「たぶんこいつが黒幕。盗賊のボスが言った特徴にぴったりだし………何より………」


「あんなことをするような人間であればそれ相応の狂気を発していると思っていましたが………これは予想以上ですね」


 そう言いながら掴んで止めた拳を握りつぶすように力を込めたミルズだが、男がすかさず反対の手でミルズの顔に抜き手を放ったのを見て、ミルズも手を離し、男の腹部にケリを放った。


「今ので防御が間に合うってなかなかいかれてますね」


「時間操作系の可能性も否定できないから気を付けろ」


 ミルズはそのまま蹴り飛ばされた男に接近し、少し離れたところで戦闘を始めてしまった。

 それに対し、俺の方は未だに戦いを眺めているだけのおっさんの前に歩み寄り、その真意をあr溜めて探ろうとしていた。


「随分余裕そうだね。その個性そんなにすごいもんなの?」


「えぇ、そうですね。この個性は神を信奉する私に相応しい個性です。なんといっても、敵の攻撃“全て”を無効化する個性なのですから」


 こういった個性はごくまれにだが存在している。強大な力を秘める個性だが、しかしその代わり何かしらの条件が存在しているのだ。


「破られるとか思わないの?」


「思いませんな。この守りは絶対。どのような相手であろうとこの障壁に傷をつけることさえできないでしょう。それがたとえ森王であっても」


 あぁ、なるほど。こいつは本当に“何も知らない”んだな。


「陣術、結界。陣術、水壊」


「無駄ですよ。何をしようとこの障壁は―――」


「“攻撃”は効かないってのはスゲー便利だけどさ、それでもお前が人間で、英雄じゃないなら対処法なんざいくらでもあるんだよ」


 俺の使った陣術、一つ目は結界。結界を正方形に形作り、その中に水壊と呼ばれる水を爆発的に召喚するだけの陣術を展開する。 


 この陣術を覚えるまではサバイバルで水の心配をしないといけなかったから大変だったな。


「どうしたよ。さっきみたいに笑えよおっさん」


「————っ! ――――!!!」


 まあ、結界に囲まれて水の中にいるんなら話せなくて当然か。

 このおっさんにそこまでの力はない事なんざ分かってたし。


「じゃあ俺はこの後のボス戦に備えないといけないもんでね。お前みたいな傀儡に構ってる時間はそこまでないのよ」

 

 結局ミルズの時と似たような状況だな。まああいつの時はあいつ自身が戦闘能力を有してたから使えなかったけど、結界を壊す力もねえこいつなら単純に攻撃じゃなく、環境の力で殺せる。


 背後の水槽でもがき苦しむおっさんをそのまま放置し、俺は森王の封印されている結界に歩みを進める。

 強引な結界解除だからこそ万全の状態ではない復活だが、それでも下位の古代種より厄介なのはわかる。

 だからこそもう少し力をそいでおきたい。


「この骨とう品みたいな陣を更に改変しないといけないのか。こいつは骨が折れそうだぜ」


 俺やキャロンの生み出した陣術。その起源オリジナルはこの古代に残された魔法陣とは異なる原理で世界から力を抽出し、永続的な効果をもたらす陣術。キャロンの話しではこれらは神代、神々に比肩する化け物が世界を支配してた最悪の時代に生み出されたものだそうだ。

 それを今一度紐解き、さらに改良を加える。それが俺の情報処理にならできる。


 この陣を最適化し、さらにその流れを止めている部分を改良することでまずはメインの改良を施すまでの時間を稼ぐ。

 その次に行うのは、空いたスペースに開錠時に力をそぎ落とす仕組みを組み込むこと。これにはいくつか種類があるが、そのほとんどがただ力を消費させるだけのもの。そんな物回復されたら意味がない。

 故に俺が選択した物は………抑制と弱体化。

 自身の力で自身の力を封印してもらう。

 最大値を少しでも削れればいい。削った分は時間経過でも回復はしない。一時のダメージより効果はかなり低くなるが、それでも長期戦を考えるのであればこちらのほうが効果がある。


 それともう一つ、こいつのあふれ出す力を変換して結界戦場の作成。

 これだけの力があれば相当な結界戦場を作り上げることができる。

 

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