第230話 自分の殻を破り過ぎると捕まる

「ゆるじで………ごろじでぐで………」


 再三にわたるボンバイェイの投球全てを顔面で受け止めた女が涙を垂れ流しながら懇願してきた。 

 ババアレベルの英雄が失神するんだからね。その威力は相当な物なのよ。


「殺すけど、その前にあんたらに仕事出してた人が誰なのか教えてよ。それを聞かない事には俺はここに来た意味が少しだけ無くなっちゃうでしょ」


「じらない………ほんどうにじらないんだ………」


「そい」


 今度はまさかり投法によって射出されたボンバイェイが顔面にヒットし、再び失神した女。 

 三回目あたりで脱糞してるし、既に吐き出す物も無くなるほどゲロってるから次で何も情報を得られないようならあとのことは全部ミルズに任せようと思う。


「おっはよー」


 再び高圧洗浄機並みの威力の水を顔面中心にぶつけ、女を叩き起こした。

 既に表情はぐちゃぐちゃで、抵抗することさえ諦めているように見える。

 

「拘束解いていいよ」


 これは決して油断じゃない。この状態にわざわざ追い込んだのにも理由はある。

 英雄レベルを奴隷化するには俺のやり方では心が壊れる寸前まで追い込まないといけないのだ


 張りつけた奴隷紋に黒幕の正体を話せと命令をかきこめば、女はスラスラと話し始めた。


「名前は知らねえ。だが、山神教の神父の服をきた野郎だった。ひょろっこい体だが、あれは間違いねえ………英雄だ。そいつが俺達に仕事を出してきやがった。奪え。殺せ。犯せ。ってな………」


 そう言った女の下半身には何故かテントが張っていた。それはそれはもう見事なテントだった。

 まさかと思って女の顔に視線を戻せば、若干赤い顔でこんなことを口走りやがったんだ。


 “開発されちまったぜ………新しい………扉ってやつを………”


 とか言いながらモジモジしていたので、ついつい対ミルズ用に仕入れていた最終兵器であるスパイク付きのブーツを換装してしまった。


「男だろうが女だろうがな、同意なしにキャッキャうふふをすることは、この俺以外許さねえ。それがこの俺ユーリさんだ。だからテメエはこの俺が裁いてやる」


 そう言いながら女との間合いを詰めていく。

 俺が再び何かをするのかと期待した目でこちらを見てくるドマゾふたなり野郎。


「げへへ………もうなんだって乗り越えられるぜ………こんなハードなプレイだって、乗り越えたんだからよ」


 ドンドン女の顔が赤くなり、モジモジと気味の悪い動きをしていく中、俺は女の前に立ち、こういった。


「月に代わってお仕置きじゃこらぁァァァッ!!!!」


「ホンギュっ!?!?!?!?」


 めきゅっと………俺の足がその薄気味悪い感触を伝えてくる。

 これは………両方逝ったわ。


 確かな手ごたえを感じ、背後で泡を吹いて倒れる女を放置してその部屋を出れば、全身真っ赤に染まったミルズと再会することができた。


「捕まった連中はどこにいた?」


「既に運ばれた後の様でした。ボスの方は?」


 あぁ、やっぱ間に合わなかったか。

 予想はしてたけど仕方ないね。


「向こうの部屋で泡吹いてるから好きにしておいで」


 それだけいって、俺は本格的に面倒なことになり始めたこの状況をどうするか考えながらとある場所に向かっていった。


 その場所は、このマンダラにある俺の隠れ家の一つ。未だにその隠れ家があるのか分からないし、機能しているのかも分からないが、まだ隠れ家があり、機能もそれなりに残っている様なら……まあ多少はどうにかなるかもしれない。


 マンダラの聖都の外れにある薄汚れたぼろ屋。そこの地下にある隠し通路から俺のアジトに行ける。

 まあだけど、予想はしてた。そうなんじゃないかと思ってた。俺がリアリーゼにわっしょいされて、その後に立ち寄った村の様子から見て、この世界は文明水運があまり進歩していない。

 戦いの技術関連に関しても、当時の最高位の英雄たちが残した物を受け継ぎ、万人受けする形にして広めただけってのが大半だったし。


 だから俺のぼろ屋がまだある可能性は結構高いと思ってた。そしてその予想は当たってた。確かに俺のぼろ屋はあった。


 だけど、まさかそこに、まさかそこに“コイツ”がいるなんて思いもしなかった。

 まあ、俺のぼろ屋に住んでいるわけではないだろう。理由があって俺のことを待っていた、あるいはここにいる様に誰か俺の関係者にそう言われたのかもしれない。

 可能性は無限にあるが、それでもこれは俺としてもかなり嬉しい誤算だ。


「久しぶりじゃん」


「気安く話しかけるな。テメエと話なんかしたくない」


 その男はそう言いながらも俺の隣に歩み寄ってきた。どうやら目的があってここで俺のことを待っていたようだ。


「俺も今回の戦いに参加させてくれ」


「ハッキリ言えば足手纏いだ。それなりの英雄が入れる場所じゃない。関与していい事柄じゃない………って言っても無駄なんでしょ?」


 そもそも、俺はこいつを呼ぶためにこのアジトに来たわけだし、協力してくれるのなら都合よくつかわせてもらおうじゃないの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る