第228話 萌えとは人ぞれぞれ

「ふゅーいふぁん!?」


「ごめん。全然可愛くないし萌えないから死んでくれ」


 口いっぱいにハットグを頬張るミルズが驚きながら俺に声をかけてきた。正直殺意がわいたのは俺だけではないだろう。 

 世紀末感あふれる以前の髪型ではなくなったが、それでも眼帯の痛々しいおじさんであることに変わりはない。

 そんなおっさんがそんな顔してもごく一部のニッチな人達にしか受けないんだよ。


「お前がだらだらしてるもんだからおじさんが“復讐”の場を用意してあげたわけよ」


 丁度その時に、ミルズの持つハットグを見てなのかどうかは分からないが、涎を垂れ流している男が一人の男を連れてきた。


 その男も既に心が壊れているのか、ベロをだらりと出し、白目をむいている。


「君にもサイコーにクールなタトゥーをあげよう」


 ユーリさん必殺のねずみ講山賊ハントだ。気分はお高いカフェに呼び出してなかなか帰してくれない意識高い系IT野郎だぜ。


「これは………いったい………」


 状況のつかめていないミルズに俺は今までのことを懇切丁寧に説明してやることにした。


「フジヤマボルケーノしてハッピーライフハッピーホーム穴ホームの住民がぱーりーを始めたんだ」


「なるほど………」


 まじか………この全く説明する気の欠片もない説明で理解できてしまったか。

 自分の才能が恐ろしいぜ。


「つまり説明が面倒だから察しろという事ですね」


 ………間違ってはいない。間違ってはいないんだけど、なんだか些か不本意だな。


「とりあえず、ここにいる連中………お前のターゲットだぞ」


 それだけ言えば、先程までの善人オーラが成りを顰め途端に口元を割いたかのような笑みを浮かべ始めたミルズ。


「ぎゃしゃしゃしゃーーーっ!!!」

 

 その時、背後から俺達に迫っていた男が奇声をあげながら剣を振り上げた。


「確認です………こいつらは全員殺しても構わないという事でしょうか」


 背後に男の目にハットグの串を突き刺しながらそう言ったミルズに、俺は一度頷いて見せた。

 それと同時に、目に突き刺さった串を抑えのたうち回る男に向け、ミルズは足を振り下ろしやがった。

 その一撃で、刺さっていた串が脳みそに達し、その男は意図も容易く絶命してしまった。

 そしてそれを成したミルズは、少しだけ笑みをこぼしながら、まるで内側からこみ上げる何かを堪える様に自身を抱いていた。


「やはりユーリさんについてきてよかった。復讐を、私の目的を肯定してくれたばかりか、このような機会まで与えてくださるとは………」


「あ、でもここにはちょっと訳アリで来てるからボスと、捕まってる連中は殺さないでおいてくれると助かる」


「えぇ、もちろんですとも。ユーリさんの指示には従います。ですがそれ以外の者たちは………」


「好きにしていいよ。殺してもいいし、食ってもいい。個人的には雑魚は殺して、雇われの英雄崩れは食うのがオススメかな」


 さすがユーリさん。と、それだけを残し、ミルズはゆっくりとした足取りで洞窟の奥に進んで行く。

 これで面倒だった英雄崩れ共も駆除できるし、目下最大の脅威だった攻撃が俺だけに集中するリスクも回避できたわけだ。


 仲間ではなく、お互いがお互いを利用する関係。それが今の俺とミルズの関係だ。あいつは復讐のために、俺は一張羅の奪取のためにマンダラに来た。

 それでお互いの目的が果たせるのならまあそれでいいンじゃないかと思う。

 ミルズはそれなりに強い部類の英雄だ。後天的に英雄になった事もあってまだまだ粗さが目立つが、それでもポテンシャルは中位くらいの英雄とさして変わらない。であれば、今のうちに恩を売っておいて損はないはずだ。


「俺ちゃんもそろそろ行きますかね。チリ紙、調査は終わったか?」


『てめえ誰に口きいてやがんだ! あぁ? この俺様にかかりゃこんな洞窟数秒で調査が終わるっての!』


 叡智の書は今まで迷宮内の構造を把握するために魔法を行使していた。だから普段のクソやかましさを発揮することはなかった。だけどこいつの調査は大まかなところまでしかわからない。隠し部屋や隠し通路、古代遺跡のように様々なギミックが仕組まれているとなると、こいつにそれを見破る術はない


 良くも悪くもサポート用の道具なのだ。


「まあこの洞窟はそうじゃなかったみたいだね。これだけ杜撰な隠し部屋なら英知の書でも発見できるし、さっさと俺達は本命の所に行こうか」


 恐らく外の異常を感じ取り、隠し部屋に引きこもり始めたボスに会いに行くため、ミルズが作った血のカーペットを進んで行く。

 

 あ、もちろん汚れるからその上とかあるかないよ。 

 バッチいじゃん。

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