第226話 被害妄想も進めばただのテロ

 ようやく帰ってきた俺の一張羅。俺だけの秘密兵器。

 俺の為だけの装備であり、俺の為だけにとあいつが“命と引き換えに”最後に残した装備。


「【過付加:掌握する支配の魔弾】」


 一張羅の一つ目の効果。それは弾丸に封じられた個性を俺自身に使うことができるようになること。

 だからこそ俺はこういった時専用にマッカランの力を封じ込めた弾丸を自分に使った。


 途端に俺の脳内に様々な俺自身の情報が流れ込んでくる。

 今の状態。そして全開の時の俺、全盛期との性能差なども含めて全て。

 

 俺はその情報を操作し、自身の怪我や疲れと言った物を全て無に帰す。この戦いで得た経験のみを抽出して俺の体に還元していく。

 これだけの作業で既に俺の脳みそは悲鳴を上げ、鼻からは鼻血が出始める。

 これを息をするように行うマッカランはやはり最強の魔王なんだろう。


「おっと、充電切れか」


 体が回復したあたりで一張羅にため込まれていた魔力が底を尽き、弾丸の効果がなくなってしまった。

 弾丸は周囲の魔力を取り込み、使用段階まで溜めないと効果が発揮されない。しかしこの一張羅があれば、一日に一発だけ弾丸を撃てるくらいには魔力を周囲から吸収することができる。

 これが第二の効果。


 回復が終わり、糸でただくっつけていただけの手がしっかりと動くか確かめたりしながら背後に視線を向ければ、断続的に続いた破裂で体力を消耗し尽くし、意識を失ったシグナトリーがそこにいた。


 俺だけがこの剣を扱うことができる。それは何も、ただ振り回すことができるというだけではない。 

 どこをどう破裂させるか、それさえも俺は操作できるようになった。まあ最初は全くできなかったけど。


「さて、一張羅を取り戻したことだし、さっさと用事を済ませるか」


 既に俺は山神教でやらなければならないことを終えている。

 シグナトリーがどうしようが関係ない。既にこいつは俺の敵になった。だけど、まあ、そうだな……師匠としてバカな弟子を更生させるために今回だけは見逃してやろうと思う。


「最初に双剣の一撃を食らった時点で、お前は負けてたんだよ」


 俺がここまでできたのには当然理由がある。相手がシグナトリーだったってこともあるけど、それよりも………俺の使った双剣の毒の影響だ。


 俺が何の効果もない双剣をこの場で使うはずがない。

 あの双剣にはダメージを与えた者の“選択肢を奪う”と言う毒がある。

 シグナトリーが魔法主体で遠距離から戦い、叡智の書を侵食しなかったのはこれが理由だ。


 まともに戦ったら勝てない。だからこそ、まともに戦うなんて馬鹿な事はしない。まあだけど、本命の一撃を当てるためだけに鼻がもげかけて、両手が使い物にならなくなるってどんだけだよって話。


 こうでもしないと俺はあのレベルの英雄に本命の一撃を当てることさえできないって骨身に染みたわ。


 改めて自分の弱さが身に染みたころで、俺は目的の場所に足を進めていた。

 山のほとりにひっそりとある巨大な洞窟。ここにはかつて違う地方でブイブイ言わせてた感じのナウなヤングたちがホームレス生活をしている。


 ポケットの中の小汚いガラス玉がシグナトリーとの戦いで砕けちまったせいで、こんな面倒に巻き込まれちまったわけだ。

 本当ならさっさと帰ってベットにダイブしておねんねしたかったってのにさ。


 ほんと俺の巻き込まれ体質にはびっくりだよチクショウ。


 アーティファクト(双眼鏡の形だが、拡大率が常識外)で見張りを発見し、そのまま魔弓を取り出す。


 戦場ではまるで役に立たないアーティファクトだが、こういった襲撃などではこれ以上ない程の効果を発揮するのだ。


 敵から視線をそらさない限り必中。つまり、矢を射って敵に当たるまで視線を逸らすこともできないポンコツ武器だ。


 見張りが交代のタイミング、二人いる見張りの1人が洞窟の中に戻ったのを見計らって、俺はアーティファクト越しに見えるもう一人の見張りに矢を放った。


「―――っ!」


 鼻歌交じりにプラプラしていた見張りの側頭部に矢が見事命中し、俺は交代してきたもう一人を殺すためにその場を離れる。

 糸とボウガンを使った高速移動(自称)を駆使し、瞬く間に洞窟に近づいた俺はサイレンサーを付けた銃を入り口に向けて構える。

 頭の悪そうな男が洞窟から出て来て、外に寝転んでいる男に気が付くと同時に引き金を引いた。


 特徴的な音と共に、男の頭部がはじけ飛び、俺は反動で後頭部を木にぶつけた。


「チクショウ山賊ども………こんな卑怯なトラップを仕掛けてやがったか!」


 悪辣なトラップにより後頭部にダメージを受けた俺は怒りを隠すことなく洞窟の中に侵入していく………

 

「もーえろやもえろーや。炎よもーえーろー」


 なんてことはなく、俺は洞窟の目の前でキャンプファイヤーを始めた。

 まあ焼いている物がそれなりにやばいもんだからこっちはガスマスク着用だけど。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る