第222話 過去VS過去

 とても槍から繰り出されたとは思えない破壊の嵐が山神教の施設内を蹂躙していく。


 あの場に残っていれば、間違いなく俺は死んでいたであろう。

 だが、俺は生きている。これしきの攻撃避けられなきゃ生きていけなかったんだ。


 感覚が研ぎ澄まされ、全身の神経が剥き出しにでもなったかのような感覚。

 足元に作った穴の中にいるにもかかわらず、今俺の頭の上で巻き起こっていることが手に取るようにわかる。


「下に逃げましたか」


 即座に俺が回避したことを悟ったチョコチは、穴の中に向けて再び先ほどとなんら変わらぬ威力の突きを放ってきた。


「———きゃっ!?」


 しかし、帰って来たのはまるで間欠泉のように噴きあげる爆風と、膨大な熱を持つ炎。

 簡単な事だ。穴の中に爆弾を仕掛けて、俺は横穴の中に逃げ、それを可能な限り硬い鉱物で塞げばいいだけ。

 あとはそこに攻撃を打ち込んだチョコチが自滅する。


 もちろんその隙に地上に飛び出し、最初の銀遊糸戯で天井に作った“糸による陣術”を起動させる。


「陣術・爆針雨」


 俺の周囲を除く全ての場所に無差別に降り注ぐ針。

 そしてそれに触れた相手は……


「うっ!? いっ!……きゃっ…」


 俺の力じゃ絶大な力を待つ一撃は不可能だ。

 だけど、毎日毎日外の魔力を込め続けた道具を使えば、少しくらいのダメージを与える一撃は可能になる。

 後はそれを、ひたすら増やしていくだけ。


 地味だしセコいやり方だけど、弱者にぴったりだと思うんだよね。

 だけど、こんな方法で倒せるのなんか所詮三流以下のやつらしかいない。そして今俺が戦っているのはかつて魔力を持て余しているだけだった幼い少女ではなく、自身の持つ膨大な力を制御し、十全な経験と十分な死線を潜り抜けてきた超一流の英雄なのだ。


「―――私を守りなさい!」


 その声に呼応するように周囲の瓦礫が、建物自体が、それ以外にも周囲に転がる全てが俺の攻撃から彼女を守る様に攻撃の射線上に滑り込んできた。


「そんなことしなくたってお前なら突破できただろうに」


「いいえ、この方法でしかを掻い潜れませんでしたから」


 そう言いながらチョコチは爆針雨に紛れ込ませていた細く長い槍のこと如くを回避していく。

 さすがにそこらの瓦礫程度ではこの攻撃は防げない。だが、それでも俺の作戦はこれで終わりではない。


「まあ、それでもまだんだけどね―――陣術【重撃雷刺じゅうげきらいし】」


 余裕の表情で槍の雨を捌いたチョコチだが、その足元に打ち込まれた槍はそもそもチョコチを攻撃するために打ち込んだ物だけではないのだ。

 全てはこの一撃に繋げるための布石。速射可能な陣では威力が出せないからこそ、この陣を気付かれずに組み上げる必要があった。

 範囲としては些か狭すぎる物であり、陣の中40センチほどにしか干渉することができない攻撃だが、それでもその威力は空雷や爆針などとは比較にならない。


「―――言いましたよね。次の攻撃を掻い潜るために私は力を使ったと」


 ははは、おいおいマジかよ。そんな気配はなかったはずじゃねえのか。

 俺が読み違えたか? それともチョコチの隠匿が完璧だったか? 

 理由は定かじゃねえけど、それでも…………


「この速さはまだ、未経験でしょう」


 地面が動き、陣を構築していた槍を僅かに左に倒し、攻撃範囲から見事に外れたチョコチが重撃雷刺の爆風を使い、今までよりも早く、俺の想定した動き以上の動作を持って目の前に飛び出してきた。


「終わりです」


 手に持った剣ではこの英雄を止めることは不可能。であれば神剣が候補に挙がるが既に神剣での迎撃では、刃が振り終わるころには、俺はこの世に存在していないだろう。

 舐めていた。俺のいない500年で積み上げたチョコチの全てを。彼女の覚悟を。

 この一撃は間違いなく俺の命を奪い去るものだろう。そう思えば思う程俺の中にある一つの感情が膨れ上がっていく。


 ―――あぁ。もうだめだ。


「―――ガハッ!?」


 宙を踊る血しぶき。胸を十字に切り裂かれ、そこから噴水のように血液が噴き出し、ゆっくりと体が倒れていく。

 

「………どう、して…………?」

 

 血反吐を吐き出しながら、背後で剣に付いた血潮を飛ばした俺に視線を送ってくるチョコチ。

 まあ、当然だ。何せこれは、これらを俺はチョコチに見せたことはないんだから。


「魔ヶ絶ち・聖裂きってんだ」


 真っ黒の刀身を持ち、紫色に輝く25センチほどの短剣と、真っ白な刀身に青い刃の同じ長さを持つ短剣を見せびらかすように彼女に突きつけた。


「お前が500年で積み上げたって言うなら、俺は100以上の怪物との戦いで積み上げた物があるんだ。そんでこれは、まだ未経験だろ?」


 武器を頻りに取り換えるスタイルは、本来俺が生体魔具と全ての倉庫を結合させた状態で、神剣を得る前に使っていたスタイルだ。

 そして、この戦い方をしている時の俺を、彼女は見たことがない。


 神剣ではその長さや重さから不可能であった迎撃だが、そんななんてのは今までの不可能逆境に比べたら生暖かすぎるくらいだ。


 だけどまあ、正直使わされると思わなかったけど。


「そう…………でしたね…………星の記憶には……あなたが最後まで隠し続けた武器たちが封印されていたんでしたね……」


 一瞬にして傷を回復させ、立ち上がったチョコチに対し、俺は再び刃を向け、声をかけた。


「最終通告だ。お前は俺の敵か?」


 

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