第220話 敵の敵は第三の敵

◇ ◇ ◇


 今までにない程に簡単な依頼だった。

 山脈付近に住んでやがる糞アマ一人捕まえるだけで500万も金がもらえるなんてな。

 山神教様様って感じじゃねえか。


 そんな事を思いながら、宴会を始めた手下どもに視線を向ける。 

 酒と飯をかっ食らいながら騒ぎ立てる手下たち。

 

 俺達は海を捨て、山を拠点に活動を始めた。海では巨大な怪物に襲われる危険性もあり、大規模な行動はあまりできなかった。

 しかし、山はそうじゃなかった。


 この山は人が殆ど来ねえ分隠れるのには最適だったし、飯も豊富だ。

 困ったら街に行きゃバカみたいな住民共から好きなだけ略奪もできた。

 お布施とか言うを払うために必死こいて働いてやがる馬鹿どもだ。その分体力も何もねえ。

 たまにそれなりに冒険者が来やがるが、それも最近じゃあまり見かけなくなっちまった。


 そして、俺達の前にあの男が来た。

 軽薄そうな顔で、ひょろっこい印象だったが、そいつと出会ったことで俺達はさらに力を付けることができた。


 海賊だった俺達は、山賊となり、今では大陸有数の宗教団体がバックに付く巨大組織まで上り詰めたんだ。


 そして常人では到達できない力を授けられた。

 

 人生は何があるかわからねえな。

 それに宗教やってるやつらはない考えてるのか分からねえ。


 襲え、殺せ、奪え、犯せ。色んな依頼が来るが、そのどれもがまともな物じゃねえ。

 そしてまともな報酬じゃねえ。

 お布施を断ったとかいう集落を丸々一つ俺達に寄越したときなんざ目玉が飛び出るかと思っちまった。

 女は犯して、使えそうな男どもは奴隷にして使ってやってる。1人だけ逃げ出した奴がいたそうだがそんなもん関係ねぇ。

 戦うだけならその奴隷共にやらせれば問題ない。俺達はあまい汁だけをひたすらに吸い続けられる。


 ―――そう思って疑わなかった。

 

 だからだろうか。 

 調子に乗り過ぎちまったんだろうか。

 いろんなことが頭の中を駆け巡るが、最後に行きつくのはたった一言…………それは“天罰”だった。


 俺達はあの男によって人間を超越した力を得たはずだ。

 魔物特有の個性をもち、俺達自身の個性も扱うことができる新人類に生まれ変わったはずだった。


 それなのに、どうして、どうして俺達はたったの数分で…………



◇ ◇ ◇


 情報収集はもういい。既に必要な物は集まっている。

 行動は迅速に、徹底した隠ぺいを行いながら遂行する。


 山神教に忍び込み、その中の一人、それなりにいい身なりのクソジジイの喉に一撃をくれてやれば、声帯がつぶれ、声を発することもできないままジジイはその場に膝を突いた。


「抵抗してもいい。暴れてもいい。お前の変わりはいくらでもいる」


 クソジジイはそれだけで自分がどういう立場なのか理解してくれたみたいだ。

 まあぶっちゃけ抵抗されたら困るし、暴れられたら最悪だったから不意打ちしたわけだけどね。


「聖遺物の保管庫に案内しろ」


 剣を突き付け、クソジジイのしわがれた頬に切り傷を付けてやれば、素直なじじいナビの出来上がりだ。


「楽になりたければ嘘をつけばいい。俺のことは間違いなく殺すことができるだろうが、俺が死ぬ前に必ずお前も死ぬことになる」


 人間ってのはどうにもこうにも自分が大事なんだわ。それこそあれだけ苦しんでいる人間を見捨ててこれだけ豪華な場所に綺麗な服を着て闊歩している人間なんてのは他のやつよりも自分を大事にしてきた結果なんだろうね。

 だからこそ、こういった言葉の方が説得力が出る。

 騒いでも良い。俺も困るけど、俺よりもお前の方が困ることになる。そう言ってやれば、仲間を呼んで殺そうとしている目の前の男よりも困る自分を想像することになる。


 だからすんなりと俺の指示に従ってくれるようになるわけだね。

 奴隷紋の空きがあればいいんだけど、巡回してた連中に定期的に異常なしって連絡入れさせるために使ってきちゃったし、複製に少し時間がかかるから今回ばかりは仕方がない。


「お、ここか」


 震える指で進行方向の扉を指さしたクソジジイ。そのクソジジイを剣の腹で殴りつけて気絶させる。


 え、違うよ? 支配人の合鍵を使うには俺以外の視線があったらだめだからさ、仕方なくだよ?

 別に懐に仕込んでた攻撃魔法を封じた奇石を俺に向けようとしたからとかじゃないよ?

 まあなんでここに奇石があるのかは別として、さっさと俺の大事な大事なアイテムを取り戻すとしますかね。


そう思い、扉を開ければ、その中にいたのは………





「あなたなら必ずここに来ると思っておりました………ユーリ様」


「そうだろうね。俺も、山神教の話を聞いた時から、この街を次の目的地にした時から、しいて言えば、お前に“一張羅”の捜索を頼んで、暫くしてからこうなることは既にわかってたんだけどね」


 シグナトリー・バンク。戦乙女の称号を持つヴォーグ最強の冒険者にして、俺のかつての弟子がそこにいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る