第219話 借りた物は返そう。
宿に着いた俺達は各々の部屋でそれなりにゆっくりしてたんだが、晩飯時になったころ、たまきが唐突に俺の部屋を訪れた。
白いTシャツにホットパンツのような服装は見た感じ少女に見えてしまいそうになるが、生憎こいつは野郎であり、おじさんは野郎には厳しいのである。
「―――俺を……掘る気か?」
「死ねばいいっす」
「んで、なんのよう?」
軽快に挨拶を済ませ、たまきはベットの近くにある椅子に腰かけた。
「どうしてあんなことしたっすか? お兄さんなら絶対助けると思ったっす」
あぁ、そう言うことね。
「俺達の目的はなんだった?」
「それは…………」
星の記憶で入手した情報。それを精査し、目的を明確にすることができた。だからこそ、今は時間があまりない。と言うか既にやばいレベルまで来てしまっているから仕方がなくこのマンダラに俺の大事な道具を取りに来ているわけだ。
だから極力無駄ははぶきたいのが本音だったりする。
「それにさ、俺はなんでもかんでも救おうと思える程お人好しじゃないんだわ。その力もないし。むかーし誰かに世界を救うことなんざできねえって言われたこともあるしな」
本当は勇者になりたいし、俺だって救えるなら救いたい。だけどそれができる程俺に力はないし、そこまで他人に親切になれる程のお人好しでもないから、俺は見捨てる人間を選ばないといけないんだ。
「まあ、それが表向きの理由だな」
「表向きっすか…………?」
「当然裏もあるぞ。あの二人は恐らく山神教にマークされてる。だから過剰に接触すると俺達の目的が遠のくことに繋がりかねない。星の記憶で見てわかってると思うけど、ミルズにあれを埋め込んだやつは俺の道具の使い方を結構知ってるみたいだし」
あの二人は意図的に生かされていることなんかすぐに分かった。だから俺も過剰に接触したくない。それに生かされているのなら、今はそれでもいいと思う。
「あんまりにも……冷たくないっすか……先輩はもっと……情にあつい人かと思ってたっす」
「こんなもんだよ俺なんか。情を大事にする力もねえわけだし」
そんな話をしていれば、たまきのお腹からぐぅ~っと音が聞こえてきた。
丁度いいタイミングだし、情報収集がてら外に食事でも行きますかね。
「ミルズはどうするって?」
「昔の伝手をどうのって言って出てったきり戻ってないっすね」
「んじゃ飯行くか」
「しゃぶしゃぶが食べたいっす」
「ノーパンしゃぶしゃぶかぁー確かにありだわ」
「やっぱ死ねばいいっす」
「冗談だって。さっさと荷物まとめろよ。急がないと置いていくからな」
そう声をかければ、たまきはそそくさと自室に戻っていった。それを見計らって、俺は窓から外に出て、宿の裏手で“俺の事”を待っていたやつの前に降り立った。
「さっきも言ったけどさ、俺にはお前をどうすることもできない。残念だが諦めろ」
俺の目の前にいたのは、薄汚れたクソガキ。昼に見た時より全身の痣が増えており、顔もそこら中がはれ上がっている。
口元から血が流れ、服も一層ボロボロになった状態のクソガキがそこにいた。
「た……たすけ……おねえちゃん……を……たすけ、て」
壁にもたれかかりながら、それでも必死に声を紡ぐリベット。この街の中で、頼れる存在が誰一人いないのなんかわかっていたであろうに、それでもこいつは逃げずにここに来た。
唯一のよそ者である俺達の前に。
「無理だ。例えお前の姉貴が“巫女”だったとしても、俺には助ける義理もないし、道理もない」
古代種に唯一比肩しうる存在である王。それを蘇らせるために必要な巫女。身近で言えば、ロリババアが龍王の巫女であり、かつて俺はその騒動に巻き込まれて龍王と戦ったことがある。
だからこそ、巫女の放つ独特な気配は既にわかっている。
たまきには話さなかったが、これがこいつら二人を助けなかった本当の理由。本当の裏。
王の復活にはそれなりの人員と、生贄と、そして時間がかかる。その間に、山神教の中にある俺の大事な道具を取りに行く算段だった。
だけど、俺の予想よりもかなり早い段階で儀式が始まっていた。というよりも、粛清そのものが生贄の選定だったと考えれば全ての辻褄があってしまう。
本当に自分の不幸体質にはびっくりさせられるね。
「おね……がい………しま、す………な、なんでも………するか………ら……たか…ら……ものも………あげる、から………」
「俺はこれ以上面倒ごとに首を突っ込みたくないんでね。悪いが、どっかの勇者サマが助けに来てくれるのでも“祈って待つ”んだな」
彼女は本当に限界だったのか、それだけ言うと、俺に向かって差し出していた小汚いガラス玉を手から滑り落しながら、その場に倒れ込んでしまった。
面倒なことこの上ないが、俺はこの後たまきを出し抜いて女の子にお酌をしてもらう店に行く予定がある。
こんなクソガキを放置して一人楽しむとなると、若干ではあるが心にささくれのような引っかかりが出来てしまって100%楽しめない危険性がある。
だから仕方がなくクソガキを俺の部屋に投げ込み、その場を後にした。
「あぁ~この小汚ねえガラス玉返しそびれちまったわ~」
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