第217話 類は友を呼ぶ。面倒は面倒を呼ぶ。

 二人を拉致し、馬車を走らせること数分。結局宿に入ることもゆっくいすることも出来ず、俺達は街の外れにある山の峰にたどり着いていた。

 人の気配は全くないどころか、そもそもこの先の山には魔物がうじゃうじゃいる訳で、好き好んで壁一枚で隔てられただけのこんな場所に期待なんて思わないだろう場所だ。


 一向に俺達の方を見ることなく、頭を下げ続ける女を馬車から放り投げ、続いて抱きかかえられてた方の少女も馬車の外に出す。


 一連の行動を見てたたまきからはひどいバッシングを受けたが、これは仕方が無い事だ。むしろ何か危険な病気を持っているかもしれない、その可能性のある女二人をここまで“逃がしてやった”事だけでも感謝して欲しもんだね。

 

 些か面倒になった俺はそのまま剣を抜き放ち、俺達の話しを一向に聞こうとしない女に剣を突き付けた。


「俺が許可した時以外話すな。守らなくてもいいが、守らなければそっちのガキから殺す」


 ビクッと肩を跳ね上がらせた女はゆっくりとした動作で俺の顔を見てきた。

 


 普通ならさ、そこで恨めしそうな顔をするんだけどさ………それなのにこの女は………


「………何がおかしいんだよ」


 ———なんで笑ってやがるんだ。


「…………」


「いいから答えろよ」


 しかもしっかりと言いつけを守っている。


「はい……条件を出したという事は今すぐ殺すつもりはないという事だと考えられたので………」


 ………こいつもこいつで強かな女だな…………全く嫌になちゃうよ。こうさ、強い女ばかりだとさ。


「そうかいそうかい。じゃあ俺の意図はしっかりと伝わっているってことでいいんだな?」


「………そこまではわかりかねます……私はただ、私が粗相をしない限りはあなた様があの子を殺さないとわかって安心していただけですので………」


「そうかい。んじゃ今から幾つか質問するからしっかり答えろよ。答えを間違えればどうなるかはわかってると思うんだけど」


 俺がそう言いながら剣をガキの方に向ければ、痺れを切らしたたまきが俺に掴みかかってきた。


「先輩さっきから聞いてれば何言ってるっすか! どうしてこの人達に剣を向けてるっすか!?」


 見るからに弱者の立ち位置。だからこそ助けてしかるべきであろうと、たまきはそう言っているわけだ。


 だけど、それに対してミルズは何も言ってこない。それが俺の今の行動が“この世界においての正解”だと物語っている。


「さっきこいつらを轢きそうになった時の街の連中の顔、お前は覚えてるか?」


「……覚えてるすよそりゃ………あんな視線向けられりゃ誰だって…………」


 やっぱたまきも“まだ”この世界のことを何も知らないんだな。

 まあ仕方がないのでここは“先輩”としてしっかりと教えてあげないといけないかな。


「視線を向けられてたのは俺達じゃない。こいつらだ。あの嫌悪感剥き出しの、敵意剥き出しの視線は全部、こいつらに向けられたものなんだよ」


「—――っ!?」


 気配に聡い俺だからわかる…………なんて物ではなく、この世界に暫くいて、底辺を見てきた奴ならおのずとわかる。

 元からいる連中なら尚更だ。


「魔法なんてもんがあるとな、想像を遥かに超える馬鹿らしい理由で迫害が起こるんだよ。肌の色が白いだけで呪いだ忌子だとか騒ぐし、ただみすぼらしいだけでもそれは起こる。まあ今回はそうじゃねえみたいだけどさ…………話が盛大にそれたが、あんたら二人…………?」


 マンダラとは山と森の街だ。主な名産品は山の幸。住民の殆どが山での仕事を生業としており、農業なんかも盛んにおこなわれる。

 そのためか水資源も豊富であり、山脈から流れる川から川魚も豊富に取れる。


 だが、こいつらの肌のあれ具合や髪の痛み方、そしてうっすらと漂う磯の香。これだけのファクターがあればおのずとわかるんだけど。あえて言うとすれば、こいつらはこの山と森の街に住んでいながら、頻繁に“海”に入っているのだ。


 海に面していないと言う訳ではないのだが、それでも地理上海は険しい山脈の向こう側に位置してる。それなのに体から磯の香りがしてくるほどに近々で海に潜っていたとなれば、怪しさは倍増だ。


「………私たちは……私達姉妹は山に入ることが許されていないのです……農業に参加することも出来ず、一般的な食料に触れることも許されてはいません」


 面倒なことこの上ない話が女から帰って来ちまった。


「私達の親が………山神教の粛清を受けたのです」


 いやなところで、想像通りに話が繋がってしまったわけだ。


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