第216話 違います。そう言うプレイなんです。

 燦燦と照り付ける太陽が窓から差し込み、俺は昼寝を切り上げ、外を眺めた。

 

 遺跡にいた魔物どもは俺が転移した瞬間に起動するように仕掛けてた爆弾の効果で今頃遺跡の下敷きになっているだろう。


 そんな事を考えつつ、御者台に座る眼帯のおっさんに声をかけた。


「ミルズ、変わるか?」


「いえいえ、こんな私を生かしてくださっている恩に比べればお安い御用ですよ」


 “とある組織”とやらによって怪物を体内に埋め込まれたミルズ。しかしそれを取り除けばただの気のいいおっさんに早変わりだった。

 まあ、復讐は忘れていない見たいだけど。


「それに―――マンダラには私も用事がありますので。借りはしっかりと返すさなくてはいけませんからね」


 先ほどの明るい笑みではなく、どことなく闇を感じさせる笑みを浮かべたミルズが手綱を握る手に力を込めたのが分かった。


 復讐のために力を望んだミルズ。しかし与えられたのは最も大事な思いさえも飲み込む悪意。

 やっぱ何が一番怖いって、どの時代でも人の悪意なんだよね。


「まあ、俺達の目的とミルズの目的が一致してくれてて嬉しい限りだわ」


 こいつの力は本物だ。あの化け物を殺したとしても、その中で得た力は確かにミルズの中で生きている。

 不動退転をはじめとした強力な個性達は味方にすれば相当な戦力になることが予想できる。


「おっと、検問か……」


「珍しいですね。私が以前赴いた際にこのような物はなかったはずですが……」


「それだけ見られたくないものがあるってことっすね」


「確かにそうかもね。例えばおもらしとか……」


 俺の正面の席で眠っていたはずのたまきが起き上がって声をかけてきたのでとりあえずいじってみれば、赤い顔をしたたまきが前日俺が与えた短剣を振りかざしてきていた。


「おーっとー!? こんなところに写真がァァァア!?」


「ぎゃあああぁぁあ!!!! なんてもん撮ってるっすか!!!! 殺すっ! 絶対いつか殺してやるっす!!!!」


 襲い掛かってくるたまきが俺に攻撃を加えるよりも早く、俺はとある写真をその場にばらまいてやった。

 これはあれだ、護符的な。


 たまきが泣き目で女の子座りで漏らしてるところ。うん、犯罪の香りしかしねえ。


 写真をかき集め、馬車の隅っこでこちらを睨みつけてくる泣き目のたまき。いやぁこれで女の子だったらいいんだけどね。野郎に興味なんざ欠片もねえんだわ。

 あ、でも使えるものは使いますよ? そんな当然のこと聞きます?


「馬車の中を見せろ」


 そうこうしているうちにどうやら検問に行きついてしまったらしい。憲兵が馬車のドアを荒々しく開くと同時に俺は座席に優雅に腰かけ、その前で女の子座りのたまきが写真を抱きかかえながら泣き目で俺を睨んでいる構図だ。


 なんだか激しく誤解を招きそうな空間なんだけどこれ……


「…………」


「…………」


 訪れる沈黙。憲兵さんのドン引きした顔が俺とたまきを行ったり来たりする。

 流れる冷や汗。余裕ぶっこいている風の俺だけど内心はもうあれだね。うん。死にたい。



 か細い声で「ほどほどにしろよ」とお叱りの言葉を頂き、俺の社会的地位が瞬く間に音を立てて崩れたが、他には問題なく検問を突破することができた。


 いやね、検問通るときに憲兵共が「おい、目合わせんな、掘られるぞ」とか言ってたからね。うん、この国滅ぼそうかな。


 方法なんかいくらでもあるぜ? おじさん特性の500年熟成させた臭い袋を街中にぶん投げる。これだけで暫くこの街は機能を停止することになる。おじさん舐めんなよ。


「さてと、無事検問も突破したことだし、さっさと宿に入ろうか」


 生活に必要な物は基本的に俺が出せるから途中の町によることもなく、まっすぐとマンダラの首都に入ることができたわけだけど、どうも空気が殺伐としてるってか、何と言うか。

 そんな事をだらだら考えてたら、突如馬車が急ブレーキを踏んで俺はたまきに突っ込んでしまった。


「ほぎゃっ!?」

「だばっ!?」


 あまりに突然の出来事でイマイチ理解できていないんだけど、どうにも外から聞こえる声的に穏やかではない気がする。


 かち割れるんじゃないかってレベルでぶつけた頭を摩りながら馬車から出れば、そこには……


「申し訳ございません……申し訳ございません……」


 12歳くらいの女の子を抱きかかえながら跪いて涙を流す見窄らしい女がそこにいた。

 その女は服装はぼろ衣を服の形にしたようなもので、よく見れば手足にも少なくない痣がある。髪だって艶なんか欠片もなく、乾燥した唇が割れてかさぶたみたいにもなっている。

 抱えられている女の子も服は同じようなもんだが、大事に育てられているのか、髪も唇も手先だって女よりはいくらかまともな物だった。


「ゆ、ユーリさん……これどうしましょう……」


 おろそろとしたミルズが俺に助けを求めてくるけど、俺だって状況を理解できたわけじゃないんだけど……


「あぁ~……っと……ひとまず立ってくんない? 別に怒ったりしないからさ」


「申し訳ございません! どうか、どうかこの子だけはっ!」


「いやだから話を……」


 そこで気が付いてしまった。周囲からの蔑むような視線に。と言うかこんな若い子たちにこんなこと言わせてる時点でやべえやつだしね。


 だけどなんだろ、この感じ。どことなく似たような経験をした気がする。


「ミルズ、この子たち馬車に連行。さっさとこの場を離れるぞ」


 到着早々嫌な予感がプンプンしやがります。


「え、え」


「いいからさっさと中入れろ。話はそれからだ」


 二人がかりで強引に二人を馬車の中に押し入れ、そのまま街はずれまで爆速で馬車を走らせる。

 このままここにいるのはなんだかよくない気がする。よくない気がするどころか、面倒事レーダーが警鐘を鳴らしまくっている。



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