第215話 やり過ぎるくらいがちょうどいい

 再びあの強大な気配がその場を支配し、たまきの背筋がピンと伸びあがった。


 だけどさっきと違うのは、あれだけ自信満々だった爺さんがちっとも楽しそうじゃない、と言うか既に何かを憐れむ様な視線を魔法陣に向けていることだろうか。


『くっくっく。この短期間にこの我を二度m———ふぉぎゃあああああッ!?!?!?』


 リアブルが現れた瞬間、キャロンの【なんかとりあえずいろいろ詰め込んだ弾丸】がはじけ飛び、中からキャロンがその時の気分とノリと勢いで詰め込みまくった魔法の数々が解き放たれ、それに誘発された対古代種用の爆弾が盛大に爆発、その直前に効果を発揮し始めた【再臨する悲劇の弾丸】が今起こった現象をそのままリピート再生するかのように再びキャロンの魔法と爆弾が時間を戻したかのようにその場に復活し、爆発を繰り返す。

 あまりの激痛にその場から逃げようとしたリアブルだけど、その体の長さゆえに上に飛び上がることしかできず、そこには最初から発動していた【円環する虚空の弾丸】によって歪められ、魔法陣の中に接続された空間があるのみで、ようするにこの場の魔力……つまりリアブルが死ぬまで永久に殺され続けるという悲劇が起こっていた。


 俺とたまき、おっさん、クソジジイは離れたところでイクトグラムの【隔絶する専守の弾丸】が生み出した最強最硬の結界の中で寛いでるけど、今回はどれくらいもってくれるかな。


 最初に来た時は本当に大変だった。今回のように装備が揃っていたわけでもなかったから、呪術師とか言うのから騙し取った呪術剣とか言うので三日間くらいチクチクやったんだっけか。

 いやほんと効果が累積されなかったら絶対に勝てなかったよ。まあそのおかげで呪術剣壊れたんだけど。


「お、そろそろ終わるみたいだな」


 時々調べものとかでここに来た時に定期的にこうやって嵌め殺しにしてたせいで、一時期リアブルが出てくるのを嫌がったり、出て来ても速攻で降参してきたりと、暫く歯ごたえがなかったからね。

 500年来なかったし、ちょっと調子に乗ってたみたいだけどまあ自業自得ってやつだな!!!


「おっ終わったみたいだな」


 魔法陣が輝くと同時に、その場にいたはずのリアブルの姿が完全に消滅していることが分かった。

 と言うか、そもそもキャロンの弾丸だけで軽く一つの町程度なら消し飛ぶからね。

 街でもかなり危ういけど、瓦礫は残っちゃうかな。


 そんな爆撃を20分も受け続けて、挙句の果てに迷宮のワンフロアの魔物全部吹っ飛ばすレベルの火力を持ってる爆弾があれだけ山積みで、それが同時に爆発してるんだからたまったものじゃないよね。俺ならチリ一つ残さず消え去る自信がある。


「貴様ほんとに試練って意味知ってる?」


 完全にキャラ崩壊してるクソジジイを無視ししながら、目の前の光景を呆けたまま見つめ続けるたまきに声をかける。


「終わったぞ」


「え、え……えっ?」


だめだこりゃ。膀胱の筋肉が退化したのと同時に脳みそまでダメになってら。


「お前も聞いたと思うけどさ、俺に時間と二回目を与えるとこうなるの。無能なめんな」


 むしろこれくらいできないと生き残れないくらい過酷だったからねこの糞世界。

 無能な俺が生き抜くためには相応の装備と、相応の悪知恵が必要不可欠だったわけよ。


「さ、て、と。んじゃくそじじい、俺に必要な情報をさっさと吐き出してもらおうじゃねえか」


 ションベンまみれの後輩を無視してジジイに話しかける。

 試練を乗り越えた者にのみ与えられる権利。それはこの世界の中で起こった事を一つだけ知ることができる。そしてその一つって言うのがかなり広い解釈で、話しの根幹の部分だけではなく、枝先のことまでしっかりと知ることができるんだ。


 確か最後にお世話になったのは、キルキスの時だったハズだ。あの時もかなり切羽詰まった状況だったけど、それでもここに来たお陰で万事解決大団円に導くことができたわけだ。


 そうして俺はこの世界で、バターバレーで何が起こったのか、何が起こっているのかを正確に知ることができた。

 しかし、そのあまりの重さにこの情報は他言できない物であり、今のところ俺が一人で解決しないといけない事柄だろうと密かに胸の中にしまう覚悟を決めた。


 そして、副産物と言う訳ではないが、副次的にその話の中で、俺の中にあったカリラの個性の仮説が正しかったことが判明された。

 

 次に向かうのは大自然に囲まれた緑あふれる国―――マンダラ。

 


 目的地もはっきりとした俺達はクソジジイの家に勝手に押し入り、たまきを風呂に投げ込み、おっさんが起きるのを待った。



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