第209話 個性の勘違い
「―――やっぱそうなってたか」
カリラの様子がおかしいことんか最初からわかってた。むしろそれを考えたからこれだけ急ピッチで帰ってくるハメになったんだ。
「私の何がおかしいのでしょうか」
あの男を殺した後に俺達は統制協会に移動し、そこでババアの歓待を受けた。
ババアの力をもってしても俺のことを見つけられなかったのには勿論理由があるが、それは今は置いておこう。
「簡単に言うとだけど、今のお前の人格は“付加”されたものだ。お前自身を守るため……ってか恐らくなんかのストレスでそうなっちまったんだろね」
そのストレスの原因は何となくわかってる。
“前回”もそうだった。そして、その隙を突かれたんだ。
だから今回は失敗しない。
「ババア、ちょっと結界的なご都合主義空間とか出せないの? あの音とか遮断するやつ」
「時空の覇者でも呼ぶんじゃな」
「使えな………もう施設で隠居生活して来いよ」
いきり立ったババアが俺に噛み付こうとしてくるので口の中にお手製の“オイニーがゴイスーのボンバイェイ”こと、臭い団子を投げ込んでババアを黙らせ(失神して泡吹いた)改めてカリラに向き合う。
「俺はお前の個性を勘違いしてた。結構前に気が付いたんだけど、言おうか悩んでたんだ」
切り出しはこんな感じでいいかな。
まあ、結局話すことになるんだから変わりはないんだし、別にいいか。
「お前の個性は“過付加”ってもんだ。昔俺の仲間の一人が持ってた個性と同じ個性だな」
過付加。その個性の持ち主がこの“一張羅”を作ってくれた。
そして、神剣もそれと同じ過付加の力を有している。
一張羅にも神剣にも、そしてその仲間にも幾度となく救われたにも関わらず、俺はそいつを守ることができなかった。
「会長と同じ時間操作系だと思ったけど、違った。そう思った理由は………お前会長みたいに過去の映像とか見られないだろ? できるのは早くする事、遅くする事だけじゃないか?」
「はい。確かにそうです。私の時間操作では過去を見ることも、未来を予知することも、ましてや死をなかったことにしてしまうような大規模な行使はできません。ですがそれは干渉力が低いからかと思っていました」
「いや、高いよ。お前の干渉力は俺の知る限り最高クラスだ。キルキスの馬鹿を10だとすればお前はその上の可能性すらある。なにせあいつもそうだったしな」
ただ、その使用用途にかなり癖があるから干渉力が高くても戦闘能力はかなり低かった。
並みの英雄にも勝てないくらいの雑魚だった。しかし、カリラはそうじゃない。カリラはもともとが恵まれた種族で、恵まれた加護を持ってる。
それに比べれば、アイツは相当生きにくかったんだろうな。
「時間を早くするときは自分に速度を付加してるイメージか。周囲に作用させるのは相当な出力が必要だから時間停止なんかも殆ど使わなかったんだろ? 周囲や対象に膨大な時間を付加することで疑似的な止まった世界を作ってたって感じだな」
要するに、無駄が多すぎるのだ。だからこそカリラはあれだけの
「その個性が作り上げた人格が今のお前だ。残酷なようだけど事実だから話をした」
二回目だからな。前は回りくどい方法を取って余計混乱させて、そんで泣かしちまったんだったな。
「お前のことを俺は忘れないし、カリラ自身も忘れることはない。だけど元のカリラが戻れば、お前は完全に消える。俺達の中で生き続けるとかスピリチュアルな事言ってもいいんだけど、結局消えるもんは消えるんだ。俺達の中とか関係なく、お前という人格は跡形もなく消滅することになる」
目の前のカリラは俺の話しを黙って聞いてくれている。
恐らく薄々気が付いていたんじゃないだろうか。以前はそうだったし。
「そして俺はこの状況の戻し方を知っている。それを今からお前にするけど、やり残したことはないか?」
申し訳ないけど、この状態でいさせることにメリットがない。一つの人格を消滅させるわけだから、人によっては人殺しだなんだと言われるかもしれないけど、そんなもん知らん。
俺はそんな優しくない。守るための最善であるならば、残酷だろうが残忍だろうが知ったこっちゃねえ。
「………最後にイイですか?」
俺の予想では、彼女に思い残すことはないと思ってたんだけどな。
まああるってんなら最後だし聞くのが男だよね。
「大丈夫、話してみ」
「………ずっと、ずっと何かを、誰かを待っていたはずなんです。記憶にない笑顔が頭に浮かんでは消えてを繰り返してたんです………ですが、今日あなたを見て、声を聞いて理解しました。私は、きっとあなたに会うのを待っていた。あなたの帰りを待っていたんです。毎日毎日二人分のカレーを作って、いつも食後にむなしくなって、それでも待っていたんです………だから………だから最後にどうか………」
謝ってほしいってことかな。
確かに少し待たせ過ぎたしね………
「――――――カレーを一緒に食べてくれませんか?」
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