第208話 二流の矜持
「テメエがまさか………本物の………」
「ホンモノもニセモノもないだろ。現に俺はお前らより弱いわけだし、それに千器なんて名前、俺は手放したくて仕方がねえんだ。だから勝手にホンモノ名乗ってくれて構わないぜ」
だけど、とその男は続けました。
「俺の“もん”に手ぇだしたってんなら、容赦しないで叩き潰す。千器だろうが魔王だろうが世界最強だろが関係ない。どんな手を使っても、どんなことをしようと必ず叩き潰す。それだけは覚えとけ」
そう言ったロングコートの男に向かって、膝を突いていた男が手を伸ばした。
初めてそこで見えた男の素肌。その素肌には夥しい程の陣が刻まれており、今その陣全てが血色に輝いた。
「俺が死んでも、俺の仲間がかならず………」
自爆。そんな事はすぐに分かりました。
故に言い逃げるつもりでしょう。自分の仲間が必ず宿願を果たすと。
「あぁ、君のお仲間ね………皆死んだよ。街に潜伏してたのも、外にいた連中も含めて全員ね。暴れ足りないバーサーカーのストレス発散に巻き込まれたから100%生きてないよ。だからあとはボスだけなんだけどさ、その見当がつかなかったから君を生かしてたんだけど………たまき、もう大丈夫だろ?」
「大丈夫っすよ。しっかりと“読み取れた”っすから」
「ってなわけ。あとは自爆するなり好きにしてくれていいよ。あ、でもさっき君の体に刻まれてる転送の陣と自分を保護する陣は書き換えちゃったからほんとに死ぬけど、それでもダイジョブ?」
「―――は、ハッタリだッ!! そんな事、できる訳が………」
「お前らくらいの強者だとさ、気配で次に何するかとか結構ハッキリわかるんだよ。まぁ要するに、俺に勝つには10年遅かったね。強くなる前に出直してきなさい」
陣の生みの親にして、陣を最も深く理解している男。それが千器。歴史書にはそう書かれていました。500年の時を経て進化した陣でさえ、彼の持つ本当の理解に遠く及ばず、気配だけで読み取れる無数の“発動前にかき消された陣”がその力の差を物語っています。
「あ、一つ言い忘れたわ。我流で体得できる程俺達の陣は甘くねえんだ。残念だったな」
その声と共に、背後の男の体の陣が勝手に起動しました。
当然その爆発は全てマッカラン様の力によって10センチ程まで圧縮され、音も衝撃さえも外部に一切漏れることはありませんでした。
「よかったのかしら? あんな簡単に殺してしまって」
「……ぶっちゃけ俺とキャロンが築き上げた陣をバカにされてる気がしてすっげームカついてたのよ。それに俺の奴隷も、知り合いも、あと、なんか見覚えある人と、変質者も襲われたみたいだしね」
「そう。まあ別に私はどうだっていいのだけれど、あなたがそこまで怒るなんて本当にあの魔女は幸せ者ね………まあ、それを言ったらあの女の一人勝ちになってしまう訳だから気分が悪いのだけれど」
「まぁ、そう言わないでくれよ」
男のコートを恨めしそうに見つめるマッカラン様は一度鼻を鳴らすと、そのままどこかに消えて行ってしまいました。
それを見た男はため息を一つ吐き出し、頭を掻きながらこちらにやってくると、ポケットに手を突っ込み、口元をにやけさせながら私達に向け、告げました。
「主人公のお帰りダラッシャイ!?」
なぜでしょうか。反射的に、意識することもなく自然と体が収納袋の中にある試作品のカレーを男の顔面に叩きつけてしまっていました。
「ぎゃああぁぁぁぁああ!?!?!?! 目に染みる!!!鼻に入ったぁぁぁっぁああああ!?!?!?!! なんでこんなひどいことができるんだ!!! 悪魔かお前!!!!」
その場でじたばたと転がりまわる男に向け神崎様が涙を流しながら笑みを向け、ラフロイグ様もいつもの無表情でありながら、若干目を潤ませていらっしゃいました。
「生きて………生きててくれたんだね………大塚………」
「こう見えておじさんしぶといんだよ」
「我が友、我がライバル………これからも共に幼女道を歩める奇跡に感謝だ……」
「死ね性犯罪者」
そして私の目からも何故か涙が溢れ、口がかってに動き始めたのです。
「晩飯にしちゃ随分とおせぇ帰りじゃねえですか」
「———おう。ちょっと帰りにおばあさんが木に引っかかってたもんでさ」
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