第207話 弱者じゃなければ

 私も無冠様もあまり長くは持ちそうにありません。しかし、この状況で敵側に増援。最悪の展開ですね。


「―――武器創造、パンドラの玩具箱」


 そして男が再び個性を発現すると、あふれ出した魔物達の足元から、その魔物の大きさや形態に即した武器が現れました。


「俺ならッ! 千と言わず一万だろうが五万だろうが扱うことができるッ! 過去の千器が千の武器を操るのなら……この俺は万の武器を扱う真の勇者だッ!!!」


 あふれ出した武器たちも、どれをとっても一級品ばかり。強力な力を持つ魔物に対し、強力な力を内包する武器を与えることでその力を際限なく高めてしまう怪物……。


「……これはさすがにやばすぎるね……」


 あの神崎様でも笑みがなくなり、苦しそうな表情で剣を持つ手に力を入れていました。


 だけど、何故でしょうか。

 私にはどういう訳かこの状況で、この絶対的な逆境にありながらも、それでも何故か、余裕にも似た感覚がありました。


「千器は蘇ったッ! 500年の時を超え、一万を超える武器を扱うまでに成長して!!!」


 歓喜。狂おしい程の歓喜の叫びと共に、召喚された魔物達が一斉に咆哮をあげ、その足を動かしました。


 しかし、それだけでした。

 視界の隅に、紫色の結晶が光を反射しているのを見た私は……どうしようもなくあふれ出す笑みを堪えることが出来なくなりました。


「―――何を勘違いしているのかしらあのサルは。本当の千器という男は、千の武器を“扱う”のではなく、十全に、完璧に、完全に、性能以上に“使いこなす”ものなのよ。ただ羽虫におもちゃを持たせてはしゃいでる下等な猿真似風情が、千器を名乗るなんて烏滸がましいを通り越して、もはや滑稽というものよ」


 ―――私は、この感覚を、知っている。

 全身を、感情を、記憶を、魂を、自身を構成する一片に至るまでの全てを、まるで掌握されているかのような、圧倒的な支配感。

 こんなことができる存在を、私は一人しか知りません。


 ―――魔族の生みの親にして、原初の魔王。かつて最強と呼ばれた存在。その名も………


「―――殺れ。マッカラン」


「任されたわ」


 千器の秘密兵器、マッカラン。


 如何な武器であろうと、いかなる魔物であろうと、救国の英雄であろうと、救世の勇者であろうと、玉座から立たせることさえも叶わず這いつくばった存在。


 ―――その真骨頂でもある“支配”がこの空間にいる全てを包み込んだ。


「たまき、二人の事頼む」


「りょーかいっす」


「ミルズは連中の避難。これ使っていいから」


「任されましたよ!」


 その男が取り出したのは、既視感を覚える機械。確か過去に一度戦ったこともある機械人形でした。


「俺とマッカランはアレぶっ殺しちゃうから」


 空より飛来した黒いロングコートの男はふてぶてしい笑みを浮かべながら男の前に歩みを進める。


「やぁやぁおにいさん。ちょいと伺いたいんだがな………」


「てめえ!! なにをしやがった!!!!」


 焦る男が即座に陣術を発動し、ロングコートの男に陣術による攻撃を仕掛けるも、その陣術が現象を起こす前にその男によりたった一本線を書き加えられただけでその陣は現象を起こす事なく自壊してしまいました。


「んで、その陣術………誰に教わったわけ?」


 無防備な状況のまま歩みを進めるロングコートの男の前で、何故か男の方が悲鳴をあげながらその場に倒れ込みそうになりました。


「あぁごめんごめん。ちょっとさ、頭に来ちゃったもんでさ、足の中に杭うたせてもらっちゃったのよ」


 男が倒れたことによって、膝辺りから皮膚を突き破って鈍色の巨大な針が顔をのぞかせました。


 地面からあの針を生やし、足の中を貫かせたのだろうというのは一目で理解ができました。


「まぁ、さっきの質問には答えなくていいや………だけど……テメエ何俺の奴隷に手ぇだしてくれてんだよ。ぶっ殺すぞ」


「ひれ伏しなさい。あなたの前にいるのは、この原初の魔王を唯一使役することの許された最弱なのよ」


「マッカランさんや? それ褒めてなくね? 最終的にけなしてね?」


「あらあら、うふふ。そうかもしれないわね。だけど私にとって最弱と言うのは何物にも代えがたい賛美の言葉なのよユーリ」


「まあそうならいいんだけどね? せっかく強キャラ感出して準備万端で出てきたのにいきなりディスられちゃっておじさんびっくりしちゃったよ」


「ふふ、あんなに準備なんかしなくても私が一人いれば全てのことは丸く収まると思うのだけれど、それでも準備を怠らないからこそあなたはそこまで素敵なのよ」


「さいですか………っとまあお決まりのギャグはここまでにしてさ、確かアンタ千器に憧れてるんだっけか? いいよ。そんな名前くれてやるからさ、これ以上面倒なこと起こさないでくれない? それとやっぱり陣術の師匠教えてよ」


 逆境に立ち向かうと言った男の前で、逆境日常を鼻歌交じりに生きる男が膝を折り、男に視線を合わせた。


「陣筒術だっけか? あんな無駄だらけの陣誰に教わったんだよ。陣ってのはな、これで既に完成されてるんだ。バリエーションを増やすことはあれど、構造を変えるなんざバカのやることだぜ? なんせ陣は………俺とキャロンの合作なんだ。全ての魔を従える女が作った構造を、そこらのにわかユーザーがいじった所で、出来上がるのなんざただの劣悪な模造品なんだよ」





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