第206話 黄金世代
百錬自得、三代目城壁、無冠、不撓不屈。この四人はあの剣王祭を皮切りに、統制協会のスカウトを経て正規メンバー入りを果たしました。
その圧倒的な力と、ずば抜けた潜在能力から彼らは“第二の黄金世代”と呼ばれています。
確か過去の“龍王の巫女”をはじめとした500年ほど前の統制協会全盛期を作り上げた黄金時代の再来だとか。
常人程の加護しか持たないながらも、英雄に比肩するレベルの身体能力を持つ無冠様。偉業を成すことはないが、正規メンバー入りをする前から実績を積み上げることでその地位を盤石の物としている方だと聞き及んでいます。
龍種の侵攻を単身食い止めたラフロイグ様。戦えば戦う程強さとバリエーションを増やす百錬自得様。騎士たちから熱い支持を得ている守るための強さを追求する不撓不屈様。キングに到達した者こそ未だにいないですが、入隊から3か月でこれほど噂になるなど今までに聞いたことがありません。
ラフロイグ様は神崎様の風の精霊様がお戻りになられたのを見計らって私の隣に立ち、一番前では無冠様が抜き放った刃を男に向けていました。
最上位の英雄であるラフロイグ様に、実際の戦闘能力は破格の無冠様、勇者筆頭の神崎様と、そして私。この4人であれば相当なことがない限りはどのような問題でも解決することができるでしょう。
「あぁ、これほどまでの逆境は初めてだな……だけど、それでいい。弱者はいかなる状況であろうと逆境なんだ。これを乗り越えれた時、俺は千器として“完成”される」
「なんだあいつは。気でも触れているのか? 一人でしゃべってニヤニヤし始めたぞ?」
たった一人状況を飲み込めていない無冠様がこちらに振り返りそんな事を言ってきます。
仮面で顔を隠していますが、きっと呆れたような顔をしているに違いありません。
「そんな事はどうでもいい。あいつは絶対に犯してはならない禁忌を犯した。粛清しなければならない」
完全に頭に血が上っているラフロイグ様が身に纏っていた黒い外套を勢いよく脱ぎ捨て、トウセイジャー様たち顔負けな仮面を装備し始めました。
「幼女を愛し、幼女を見守る、幼女の使者……幼女仮面―――見・参ッ!!!」
爆発的な加護をまき散らしながら何やら人外の言葉を発し始めたラフロイグ様。
それにさすがの神崎様も笑みが消え、即座に視線を男に移しました。
「ちょっときつそうだし、カシスも力を貸して」
「任されたわ!」
空中をふわりと浮いている緑色の髪の女性が風を纏うと同時に、その中に手を突っ込んだ神崎様。そしてその手を引き抜くと、そこには最初に持っていた風の聖剣が握られていました。
「―――不公平だ。不平等だ。不道徳だ。たった一人相手にこんなにも大勢で取り囲むなんてよ、正義の味方は何したって許されるってか? あぁ? じゃあいいよ。こっちだって卑怯に戦ってやる。卑怯にゃ卑怯で対抗してやる」
男が右手で描く魔法陣が完成する前に、無冠様と私が両脇から攻撃を仕掛けます。
無冠様は抜き身の刃をそのまま男に向け、私は自身の速度を加速させた連撃を男に繰り出します。
「―――なんてな」
しかし、私と無冠様が同時に踏み込んだ瞬間、地面から粘度の高い水があふれ出し、それに飲み込まれてしまいました。
呼吸が出来ず、もがけどもがけど一向に外に出ることは出来そうにないその水は、まるで意思を持って私達を拘束しているように感じました。
「速度重視のお前はそう来ると思ったけど、まさかもう一匹引っかかるとはな。ラッキーだぜ」
そしてそのまま描かれた魔法陣を地面に落とした直後、少し遅れて神崎様が二振りの聖剣を掲げました。
「サンダーテンペスト!」
吹き荒れる暴風と、その中で暴れまわる雷の合わせ技。途方もない威力を内包したそれが男に向かって突き進んでいきます。
「―――陣術、互換罠」
しかし、再び光をあげた陣術が見えた時、私の見ている景色が映り変わり、隣に無冠様、正面に神崎様の放った攻撃が写り込みました。
――――直撃する。そう思ったのもつかの間、その間にラフロイグ様が滑り込み、神崎様の攻撃を一身に受け止めてくださいました。
「――――油断しすぎだ」
いつの間にか外套からマントに変わった衣装のラフロイグ様が、そのマントを払いながらこちらに振り返ります。
「やっぱ一番面倒なのはお前だな城壁」
しかし、それを待っていたかのように、男は次なる陣を展開しました。
その陣には既視感を覚えます。確かこれは……剣王祭の時に誰かが使っていた……
「来やがれ化け物共」
目まぐるしい速さで広がった魔法陣からあふれ出してきたのは、魔物。
そのどれもが圧倒的な力を有しており、討伐ランクで言えばどれもが60を超える怪物ばかり。迷宮の深層部でもこれほどの大所帯を見ることはできない程の数が一斉に吐き出されました。
「ラフロイグさんは魔物を頼みます! 俺はこいつを……!」
「仕方あるまい。魔物をそのままにしておけばまだ見ぬ幼女が危険にさらされるかもしれないしな」
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