第205話 第二世代
「ははは………不貞腐れないでくれよアマレット。僕の一番近くで戦ってくれるのはいつも君なんだ。僕の力を今最も引き出してくれるのも君だけなんだからさ」
少し気マズそうな顔で光の聖剣にそう声をかけた神崎様。
ここ数か月で目覚ましい成長をされ、各地で勇者信仰が再び力を得ている要因ともなっているお方です。
「来やがったな大本命……テメエが聖剣に愛された勇者だろ?」
「あぁ……なんか最近はそんな呼ばれ方をしているみたいだね………不本意だけど」
再び困ったような顔を見せた神崎様ですが、直ぐに視線を鋭い物に戻し、彼に話しかけました。
「どうしてこんなことを? って聞いてほしそうだけど、俺はそこまで優しくないから答えを先に言ってあげるよ………君、“千器ごっこ”は楽しいかい?」
「………」
「かつて陰で世界を救い続けた無冠の勇者。千にも及ぶ武器全てを使いこなし、最悪と呼ばれる存在を幾度となくうち滅ぼした伝説の中の英傑。だけど、その性格は破天荒を極め、食い逃げや露店荒しはもちろん、のぞきに、痴漢、酔った勢いでの暴力事件や器物破損は数えきれないほどだったと聞く。そこでだ。もう一度聞くよ………俺の憧れた男の猿真似はそんなに楽しいかい?」
神崎様がそこまで言った直後でした。
神崎様の顔の横にその男が現れ、そこから指向性を持った雷が放たれました。
「………真似じゃねえ。俺が、俺こそが千器だッ! 千器を上回る陣術を生み出し、千器の持っていなかった英雄の力を持ち、千以上の武器だって使うことができる! 過去の伝説は今俺に受け継がれたんだ!!! 俺が、俺こそがこの時代の千器なんだッ!!!」
顔に放たれた雷は神崎様に直撃でした。
雷の発した熱と共に、煙が立ち込め、その顔はまだどうなっているか判断が難しいですが、それでもあの距離から、あの威力の攻撃であれば、それなりのダメージはあってもおかしくはないでしょう。
―――そう思いました。
「―――俺の憧れた男はね、その名前を自ら名乗ることはなかったよ。むしろ恥じていたほどだ。その彼と、妄想に縋りつく君じゃ………器が違う」
煙が晴れると同時に、そこには無傷の神崎様が立っていました。
「本当の雷を見せてあげるよ………アマレット」
剣に声をかけた神崎様はその場で腰を落とすと、剣を男に向かって構えました。
「―――雷とは、何よりも早く、熱く、そして鋭い」
言葉を発しただけだった。少なくとも私にはそう見えました。
ですが、その言葉がもたらしたであろう現象はそうではなかった。
男の腕が宙に舞い、くるくると回転したのちに、何かに打ち抜かれたかのように軌道を変えると、一瞬で灰化してしまいました。
「―――刺雷」
圧倒的な速度と、そして威力。全属性中最強と名高い雷をここまでのレベルで行使するとは……さすがは噂に名高い勇者様です。
「がはッ………」
男がその場で膝を突き、地面にゆっくりと倒れる最中、私はそれを目撃してしまいました。
倒れ行く男の口元がかすかに歪んでいたのを。
「………しまっ!?」
「くけっ! かかりやがったな………陣術……合わせ鏡」
男の陣術が発動した直後、神崎様の腕が男の腕と同様に吹き飛び、そして灰化しました。
「俺の個性をまだ見せていなかったな……武器創造……精霊王の槍」
彼が残された片腕に取り出したのはなんの変哲もない銀色の槍。しかしそこから感じられる加護と魔力は大気が歪み、視認している空間が湾曲してしまうほどの物でした。
「―――言ったじゃねえか。俺こそが本当の千器だってなぁ! 千の武器を操れるのは何も歴史上の千器だけじゃねえんだッ!!!」
そして放たれた鈍色の閃光。あまりの速度に槍がまるで一つの光線のようにさえ感じてしまう程のものでした。
「―――【時間付加】」
さすがにあんなものが当たれば神崎様と言えど致命傷になりかねない。だからここらで私の手も少し貸そうと思いました。
槍が投擲の威力を失うまでの時間を与えることで、神崎様の目の前に槍が音を立てて落下しました。
「僭越ながら加勢いたします」
「た、助かるよ……ちょっと油断しちゃってたみたいだ」
はにかむ様な笑みを浮かべながら、吹き飛ばされた側の腕に力を入れることで、蘇生を果たした神崎様は手を何度か開いたり閉じたりしながら感覚を確かめていらっしゃいました。
しかし、それは向こうも同じようで、私の参戦を予想していたのか、既に回復した腕には黒い宝石がいくつも埋め込まれた剣と、白い宝石が同じように刀身に埋め込まれた剣を出していました。
「……ラフロイグからの交信が途絶えたと聞いて来てみれば、まさかこんなことになっていたとはな」
しかし、幸運なことにこの場にもう一人加勢が現れました。
かつて統制協会のおひざ元である異世界都市コイキの剣王祭にて激闘を繰り広げた猛者、無冠。
日本刀と呼ばれる片刃の獲物を腰から下げた仮面の勇者がそこに居ました。
「同期のよしみだ。この阿呆の退治、僕も手伝ってやる」
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