第195話 自然の摂理とはつまり……そう言うことだろう?
「こいつの力は……調べて知ってるだろう? 足を止めてる間は全ての攻撃を受け付けねえんだ!」
「話を盛るんじゃありません。“許容範囲以下の攻撃全て”無効だろーが」
「げははッ! だがよぉ、その許容範囲がバカみてえにたけえから無敵なん―――」
―――ぶちゃっと嫌な音を立て、男の顔面に赤い何かが飛び散った。
「……な、なんだよコレ……」
「え? 腐ったトマトだけど」
無表情で投球後の投手のような恰好をしているユーリが小首をかしげながら収納袋から次の
「なんでだよっ! どうして攻撃が無効化されねえんだ!」
「いやいや何を言いますか。俺はお前がお腹減ってるんじゃないかって思ってお恵みを与えてるんだよ? それが攻撃とか、お前ひねくれてるなぁ~」
ぶちゃっと、二回目の音が周囲に響いた。
顔に付いたそれを手で拭ってみれば、恐ろしい程の激臭を放っていることが分かる。
「あ、それはね、二か月くらい前に拾ったよくわかんない卵。うん、お味はどうだい?」
「てってんめぇぇぇ――――」
「なんだよ口開けちゃって。食べさせてほしいならそう言いなさいよ」
次に飛んできたのは納豆。しかも泡立つ程までよく混ぜられた納豆。
それが恐ろしい速度で顔面に叩きつけられ、そのあまりの威力で首が大きくのけぞってしまった。
「———そう、言うことかよ……そうやって俺の足を動かそうって魂胆だろ? だがそうはいか―――」
何かを悟ったような顔をした男が飛来する
「あぁごめんごめん。なんかいった?」
「ぼはっ!」
鼻の穴が塞がったことにより、口で息をしなくてはならなくなった男は口を命一杯開け、酸素を取り込もうとした。
だが、それを待っていたかのようにユーリがおどろおどろしい色をした唐辛子のような何かを男の口に突っ込んだ。
「ビターバレーで一番辛い唐辛子に、俺特製のリアルデスソースをたっぷり注入したもんだ。ちゃんと味わえよ?」
声にならない絶叫が周囲に響き、男の足がついに動きそうになった直後、男の姿が消え、ユーリの背後に現れた。
(動いてねえ。今回は攻撃に集中してた見てえだなッ!)
足を動かさずとも移動ができる。だからこそ男は内心でまだ余裕を保てていた。だからこそこれだけ悪辣な攻撃にも耐えた。これはブラフとして使える。攻撃に集中させ、決定的な隙を見せた時に転移による一撃で戦いを終わらせる。まさしく今のこの状況を初めから想定していたのだ。
(くたばりやがれぇぇぇぇえ!)
引き絞られた拳が、隆起した上腕が、破壊の一撃を解き放つ寸前、間一髪転移に気が付いたユーリが一歩前に足を踏み出し、攻撃を避けようとした。
しかし、転移のカウンターを既に無効化した男は躊躇なく止めとなる一撃をユーリに届けるために更なる一歩を踏み込んだ。
「とどめだぁぁぁぁああああ!!!」
踏み込んだ脚が石畳を踏み砕いた時、目の前にいた男の姿が急に美しい銀色の髪をした女の物に変わったのを男は見た。
途端に背筋に悪寒が走る。
「―――チェックメイト」
拳が女を捉えるよりも早く、上空より飛来した七つの刀剣に四肢を貫かれ、地面に体を縫い留められた男。
そこでようやく気が付いてしまった。
無能と呼ばれていたはずの男がどうしてあんなに早く動けたのか、あんなに強力な攻撃を繰り出せたのか。
――――最初から別人だったのだ。
そして転移にカウンターを合わせたカラクリも理解してしまった。
背後から聞こえた声に視線を向ければ、遺跡の中ではほぼ視認できないくらいの細さの糸をあの男が握っていたのだ。
「転移の弱点は身に着けている物、触っている物も一緒に転移すること。だから糸を最初に巻き付けておいた。あの景色が歪むのは認識湾曲。対象の認識を歪める物だったよな。だから俺の認識を歪めた武器は回避できて、カリラの認識を歪めていなかった蹴りは回避できなかったんだろ?最後に、この世界じゃさ、“物事の判定”は神様が好き勝手にしてるんだよ。だから攻撃か否かを決めるのはお前じゃねえ。ってなわけで、あのバカみてえな攻撃はお前に通るんだよ。要するに………経験不足だったな」
地面に縫い留められた男は最初にカリラの拘束から抜け出した時のように強引に体をちぎって逃げようとするが、何故か手足が動かないことに気が付いた。
よく見れば体に突き刺さっている武器たちは筋肉や筋を的確に切断し、その場に居座り続けていることがわかる。
この武器を抜かない限り体を回復させる事などできるわけがなかった。
「何度も言わせんなよ。同じ手が通じる程この世界は甘くねえんだよ。お前の敗因は……俺にもう一回のチャンスを与えちまったことと、十分すぎる準備時間を与えたことだ。これだけ時間があれば異世界初心者を嵌め殺しにするなんざわけねえんだよ。例えどんだけ卑怯臭い力を持っててもな……さて、食ったら出す。これが自然だよな。俺の馬鹿な後輩と、説教爺さん、それとまぁ……不本意ながらストーカーも返してもらうぜ?」
手袋をはめた手に握られた光る何か。それが男には全てを終わらせる害悪のように感じられてしまった。
「お前用に特別に改良した陣術だ。とくと味わいなっ!!! 【
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