第194話 力の強さ=戦いの強さではない
「ほらほら、さっさと次の力使わねえと一瞬で終わっちまうぞ?」
「———ケッ……いいぜ、テメエが何も理解できねえままぼこぼこにされた力でもう一度地獄を見せてやらァ!!!」
男の体が完全に回復すると同時にグニャリと景色が歪んだ。
「これな―――ギャビュッ!?」
「はい振り出しに戻ろうね。ってかさ、同じ技が通用すると思ってる辺りお前……この世界舐めすぎ」
無能と言われるユーリでは到底考えられないような、壮絶な威力を持って腹部を強かにとらえた蹴りによって男は空中に打ちあげられた。
「銀遊糸戯……【傀儡祭り】」
空中に浮かんだ男の体が急にその場で不自然に静止した直後、ユーリが手に出した武器を周囲に矢鱈滅多らと投げ、それらがまたしても不自然に軌道を変更し、空中で身動きが取れない状況の男に向かって飛来していく。
「な、なんだそりゃぁッぁぁッ!!!! 歪めッ! ……歪みやがれぇぇぇ!!!」
しかし男も間一髪のところで先ほどの景色を歪ませた力を行使し、飛来した武器たちの軌道を歪めることで何とか一命をとりとめることができた。
「やっぱお前戦闘経験ないっしょ」
しかし、そこで終わらないからこそ千器。そこで終わらないからこそ数々の最悪を無能であろうとの乗り超えてきた男。
男の背中には遺跡の中で視認が難しいようにライトグリーンに塗装された針が4本刺さっていた。
「さてと、討伐ランク70オーバーのポディブルムスコーピオンの毒がたっぷりと注射されちゃったけど、どうする? そろそろ降参してくれるかな? そうしたらこのおクスリあげちゃうんだけど」
腕を振るうようにして男を拘束していた糸を回収したユーリはポケットから小瓶に入った液体を男の前にちらつかせる。
「行方不明者のリストは頭の中に叩き込んできた。そいつらがどんな個性を持っているのかも全部含めて頭に叩き込んだ。お前の能力が後200くらいあっても、俺は全部に対して既に対策を打ってる。どうあがいても無駄だぜ?」
地面に這いつくばる男にユーリはゲスイ笑みを浮かべながらそんなことを言って見せるが、逆にそれを聞いた男も笑みを浮かべた。
「ははっ! 嘘だなァ! 嘘は良くねえぜ!? そいつはただの回復薬だな!? テメエの考えなんざ俺には手に取る様にわかるんだよッ!!! このペテン師野郎が!!!」
「へぇ~そんなこと言っちゃうんだぁ……じゃあ“こいつ”はもういらねえな」
そう言ったユーリは鼻をほじりながら反対のポーチに入っていた紫色の液体の入った小瓶を背後にポイと投げ捨てた。
放物線を描いて地面に落ちたそれは、甲高い音と共に砕け散り、中身をその場にぶちまけた。
「……は? はぁあっぁぁあああッ!? て、てめえ! 今のっ! 今のは本物のクスリじゃねえか! 俺の中にいるやつらがどうなってもいいってのか!? 俺が死んだら中のやつらも全員死ぬんだぞ!?」
「———もう一回だけ言ってあげるからさ、耳の穴かっぽじってよく聞けゲス野郎。“俺に同じ手が二度も通用すると思うな”」
「なっ……なにをした……お前ッ! 一体今何をしやがった!!!!」
急に焦ったように騒ぎ始めた男にユーリは冷たい視線を向けた。
「【ファイアウォール】俺の個性の一つだぜ? プライバシーは大事だからな。それともう一つ言っとくことがあったわ……借り物の限界って奴を教えてやっからさ……覚悟しな」
それを聞いた直後、男は再びニヤリと口元を避けさせるような笑みを浮かべた。
「最上位の英雄を食った俺に、これだけ時間を与えちまったお前はやっぱバカ野郎だよ! 俺が時間稼ぎしてることにも気が付かねえでぺちゃくちゃ説教垂れやがってよォ! あのじじいと女の素質で解毒はとっくに終わってんだよォ!!!」
弾かれるように起き上がり、一瞬で彼我の差を埋めた男が再び拳を引き絞る。学習能力はあるようで、未だに転移に対するカウンターのカラクリが分かっていないためか転移は使わずに自身の足と歪ませる個性を使い、ユーリの左側面に移動した。
限界まで溜められた拳が解き放たれ、男は景色がスローになったような錯覚を覚える。拳がもう回避や防御など不可能なところまで進むのを見てニヤリと口角が吊り上がった。
「あががががあぁッ!?」
———だというのに、絶対に回避などできない距離だったハズなのに、どうして、どうして自分の拳が目の前の男の脳髄をぶちまけさせるよりも早く、こいつの拳が突き出されて、全身をくまなく叩かれたような激痛に襲われているのか。
男は思考するよりも早くいつもの癖で転移を行使してしまった。
移動する場所は敵と自身の間に遮蔽物があり、姿を隠せる場所。
絶対の安全地帯に思える場所に一瞬の後に転移を成功させた。
「はい、詰み」
胸をなでおろしそうになったのもつかの間、しゃがみ込んだ自身の上から声が聞こえてきた。
「そこ、やっべーよ?」
―――やはり転移は駄目だった。そう思った男は慌てる様に足を動かそうとしたが、何故か足が地面から離れない。
よく見れば足元には水たまりができており、それが地面と足を繋げてしまっているとすぐに理解させられた。
「んじゃ軽く殺すわ」
冷酷な声と共に、先程空中にいた自身を襲った武器が何故か今度は地面から現れ、地面と共に男の体を穿とうと迫ってきた。
「―――不動退転」
命の危険を感じ取った男はすかさず防御力を格段に上げる個性を発動し、迫りくる武器を全て防ぎきって見せた。
そればかりか、そのあまりの防御力に地面から打ち出されるように出てきた武器のいくつかは先端がつぶれたり、刃が欠けたりしてしまう程だった。
「厄介な個性だな」
「まさか使わされると思わなかったぜ。だけどよォ……こいつを発動すりゃ俺の防御力は甲竜さえも凌ぐほどだぜ?」
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