第193話 チートVSクズ

「やあやあ久しぶりじゃないのおっさん。先日は大変お世話になっちゃったみたいで」


 遺跡内部を瞬く間に攻略してしまった……というよりも埃と地面の擦れ具合から隠し通路の存在をいち早く見破ったのでほぼ直通で男が隠れている場所までやってくることができたユーリは一際開けた場所に佇む男の前に立った。


 祭壇のような物があり、そこには既に火がともっていて、中心にエルフの王女が寝かされているのが見える。


「来たかァ。まぁ、来ると思ってたぜ?」


「そりゃどーも。それに儀式も待っててくれたみたいでおじさん嬉しいよ」


 男は既に臨戦態勢。しかしそれはユーリも同じだった。

 いつでも戦えるようにと、既に武器を取元に出しており、珍しく構えを取りながら話を始めていた。


「お前が来る前に儀式を始めちまってたんじゃどんな邪魔されるかわかったもんじゃねえからな」


「邪魔なんかしねえよ。俺も“星の記憶”には用事があるんだからさ」


 目の前の男の目的は星の記憶に到達すること。かつて千器になる前のユーリがキャメロン・ブリッジの為に目指し、到着した世界の全てが記されると言われる場所である。

 そこでブックメーカーの出す試練を乗り越えた者にのみ、世界の情報は開示されるという。


「……俺のことを嗅ぎまわった見てえだな」


「嗅ぎまわったってか、予想かな。エルフの王女をお前が吸収? してなかったこともそうだし、この場所ってのがね」


「さすがは千器……人類で初めて星の記憶に到達した人間だぜ」


「どうなんだろうな。噂があるってことは既に発見してたやつがいたってことだろ? 俺は俺だけが特別だなんて思う程愉快な脳みそしてないんだ」


 そんな話をしながらも二人は確実に相手の隙を伺っている。そして、その様子を見てユーリは一つの考えを仮定から確信へと変えた。


「お前最近また誰か食っただろ? 誰だ? 俺に近しい誰を食った」


「へへっ……どうしてそう思うんだよ」


「俺のことを知り過ぎてるし、最初は問答無用で俺を殺しに来たくせに今は俺のことを警戒している。つまり、俺がお前の対策を練ってここに来た、あるいはそう言う性格だって知ってるやつを食ったんだろ? まぁ1番は……俺が千器だって知ってる事だけどね」


 この話には二つのブラフが含まれている。食った、という表現によってこの男の個性を探るのと同時に、未確認の能力の詳細を聞き出そうというものだ。


「けははッ! スゲーなお前。お前が俺を調べるのと同じように、俺もお前を調べてたんだよ……んでお前の特徴にそっくりな奴の話をしてた二人組がいたもんでよぉ……二人とも食っちまったんだァ!」


 その二人組のパターンをいくつも脳内に浮かべ、どの組み合わせが最も可能性があるか、どの可能性が最も厄介か考えながらユーリはついに動き出した。


「まあ、お前を殺せばすぐに分かるか」


「殺せねえよッ! テメエみたいな出来損ないにはな!!!」


 ユーリが投げたビー玉程の大きさの黒い玉を男は警戒しつつ腕で弾き飛ばしながらユーリに向かって飛び出す。

 しかし背後の地面に落ちた黒い玉から紫色の煙が噴き出すと同時に、その中から植物のツタのような物が男の四肢に絡みつき、進行を強引に止めさせた。


「そのスピードを見るにひとりは会長か」


 冷静に考察を重ねながら次の手札を切る。

 ツタに全身を絡めとられ、紫色の煙の中に引き摺られていった男に向けて、今度は緑色の鉱石のような物を投げ込んだ。


「奇石……【樹縛降誕】」


 ユーリが投げ込んだのは、かつてキャロンと共に考案した、魔法に対して適性を持つ鉱物に、特定の魔法を封じ込める技術を使った魔法アイテム。

 鉱物という媒体故の運搬コストによってとん挫した研究だったが、生体魔具を有しているユーリにとって運搬のコストは全く気にしなくても構わない問題だった。 

 だからこそ陣術を使うには魔力が足りない場所で即座に発動させる魔法として代用しているのだ。


「そいつは魔力を養分として吸い上げて適性のある属性の色をした花を咲かせるんだが、昔は今ほど技術が発展してなくてな、ギルド登録の時にそいつに血を垂らして属性の判定なんかをしてたんだ」


「グおぉぉおおおおおっ!?」


 全身に絡みつくツタに身動きを封じられた男の体の節々に血管のような筋が浮かび上がる。それと同時に樹縛降誕によって巨大化させられたその幹が大きく胎動した。


「なるほどな……最後の一人はジョニー爺さんか」


 咲いた花の色と数によって誰が飲み込まれたのかを理解したユーリは即座に次の道具を取り寄せた。

 それは大きく捻じれた巨大な角のような形の槍。

 それを射出機にセットし、木に縛り付けられている男に向けた。


「やッやめろぉぉお!」


「む・り。ばいちゃ」


 男の声をたった一言で片づけたユーリは射出機のレバーを思い切り引き絞った。

 そして打ち出された槍が大木と化した幹を打ち抜き、遺跡の壁を大きく抉り抜いた。


「――――なんてなァ!!!」


 しかし、男は無傷でユーリがいた場所のすぐ近くに、なんの前触れもなく現れると同時にどこからか取り出した刃を振り切った。


「……はっ?」


「あぁ~すまん。言い忘れてたけど、“オークの王子の転移”も知ってるんだわ。当然、その弱点もね」


 予備動作無しの転移からの速攻。自身でさえユーリがその場にいることを確認するよりも早く刃を振り抜いた。故に絶対に回避などできない。そう思っていた。

 しかし結果は見事に空振りに終わり、終いには意図も容易く背後を取られるという失態を晒してしまった。


「ほい!」


 丸腰だったハズのユーリの手の中に巨大な戦槌が現れ、振り下ろされる威力と、戦槌に仕込まれた加速させるための機構が爆発の推進力を戦槌に与え、想像を絶する威力を発揮した一撃によって男は地面にたたきつけられ、遺跡の石畳を容易くぶち抜いた。


「―――ガハッ!?」


「なんでって顔してるね……まあ答えは簡単なんだけど……」


 余裕の表情でその場に降り立ったユーリの背後に男が再び突然現れ、今度は拳を振り抜こうとするが、視界の中にユーリが既にいなくなっていることに気が付いてしまって拳は振り切られることはなかった。


「ざんねんしょーだぜ?」


 戦槌と同じように、今度は巨大な剣の峰部分に仕込まれた起爆材が爆破し、剣に異常なまでの推進力を与える。


 その剣をもろに受けた男は肉体を切断されることはなかったものの、そのまま遺跡の壁にめり込むほどの勢いで叩きつけられた。


「だからぁ~どんなに急に移動できても俺には効かないんだって」


 壁に埋まりながら血を吐き出したおっさんだったが、ジョニーの魔法を体得していたのか、英雄独自の回復とは異なった回復の仕方をしながら壁の中から這い出してきた。


「どういう……からくりだぁ?」


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