第186話 俺なりの“守り方”
砕け散る机の破片が宙に舞い、その光景を見たカクは驚きに顔を歪めながらゆっくりと椅子事背後に倒れていく。
俺はそれを見ながら、机を粉々に粉砕しやがった奴の顔を睨みつけるように見やった。
「———何しやがる……の前に、どうしてお前がここにいるんだよ」
拳を振り上げながら驚きの表情を浮かべるローズの前に、褐色肌の屈強な男が現れており、その鍛え上げられた肉体を持って机を粉々に粉砕したことがうかがえる。
「よう。久しぶりじゃねえか旦那!」
そう言った男は俺に対しては快活に真っ白な歯を見せる様な笑いを見せた。しかしその顔はすぐに、ひっくり返り、無様な格好を晒しているカクに向けられ、表情もそれに伴って、ただでさえ怖い顔が三割増しくらいにいかつい顔に変わった。
「おいモヤシ野郎。テメエ今なんて言いやがった? この俺の恩人に対して……なんていったって聞いてんだよ」
その人物が移動商業都市を仕切る男であり、かの有名なランバージャック聖十字騎士団現団長エルザを娶った男、カルブロであると即座に理解してしまったカクの表情は……まあスゲーことになっちまったわけだ。
「再会を喜ぶよりも、今は話が先だ。それに俺は暴力に訴えかける気はないし、こいつの話していることも事実だ。ギルドに信用を売っていなかった俺の失態をお前に尻拭いさせるつもりはねえよ。すまんかったな」
そう言いながら倒れて顔を青くしたまま動けないカクに手を差し伸べ、引っ張り起こしてやれば、体裁を保つためなのか、俺の手をさっさと払いのけるように放し、服についてしまった埃を払い始めたカク。
「ど、どうしてタートルヘッツのカルブロ殿とあなたのような下級冒険者が知り合いなのかはわかりませんが……ギルドとしての決定は覆りません。話はもう終わりでよろしいですね?」
明らかにこの場に居にくくてさっさと逃げようとしていることが分かるが、引き留めるのも面倒だし、これ以上面倒なことになると次はローズがブチギレかねない。
今はカルブロと再会を喜び、話を始めているから大人しい物の、これで俺たちまで話を再開したら今の出来事の二の舞になるビジョンしか見えない。
「あぁ。大丈夫だ。だけど、警告はしたからな。何かあった時の責任はそっちが持てよ」
「ふんっ! 話し合いの最中に机を吹き飛ばす以上の問題があるように思えませんがね!」
カクは床に散らばった書類とカバンを手早く集めるとそそくさとその場から去って行ってしまった。
俺は警告はした。これからどうするかはあいつらの判断だ。
そしてこれで俺は全ての責任をギルドに持たせて逃亡するというカードを切れるようになった。
最優先されるのは俺の安全だ。そのためであれば、ビターバレーであろうと一時的に放棄するのは仕方の無い事だ。
……あぁ。仕方の無い事なんだ。
「随分とすんなりいかせちまった見てえだけど、良かったのかい?」
話が終わったのを見計らってカルブロが俺に話しかけてきた。
カルブロの乱入で話の流れは大きくこちらに傾いた。それはカルブロも理解しているだろうと思う。と言うかそれが目的であんな派手なことをしたんだろう。こいつもまがいなりにも商人だしな。
そしてその状態から俺が話しを続けなかったところで既に俺の考えている方向性は察してくれていると思う。だからこそこいつはそれ以降会話に参加しなかったのだろう。
「あれで大丈夫だよ。それにいざって時はあんたが証言してくれるだろ?」
「かっかっか! そこまで言われちまったら仕方がねえな! それにエルザの方まで世話になっちまったらしいしな……本当に旦那には感謝しかねえや。何か手伝えることがあるのならいつでも言ってくれよ? なんせあの伝説の千―――ごるぼぁ!?」
カルブロが爆弾を落としかけた瞬間にローズが瞬間移動さながらの速度でカルブロの懐に飛び込み、その腹にきつい一撃をねじ込んで発言を強引に遮った。
「それはここでは禁句ですわ!」
お腹を抱え込んで膝を突いているカルブロに俺は歩み寄って肩に手を置いた。
「今のはお前が悪い……それとだ、早速だが少し世話になるが、構わないか?」
「あ、あぁ、大丈夫だぜ。丁度俺も荷下ろしで暇になったからふらついてただけだしな」
額にびっしりと冷や汗を敷き詰めながらカルブロは良い笑顔でそう言った。
「ちょっとどういうことですの!? それにあの奴隷の女はどこに行ったんですの!? いっつもあなたにべったりくっついていたではありませんか!」
今更過ぎる発言に逆に俺の方が驚いちまったわ。
「カリラは置いていく。それにあいつの奴隷紋はもう解除してあるしな。だからお前にはカリラに伝言を頼みたい」
今回で学んだ。まだまだ俺は500年前の状態にほど遠い。年齢的に体が動くのは確かにアドバンテージだが、英雄みたいな遥か雲の上のような連中からすれば、俺の動きが少し良くなったところで1が1.00001に変わったくらいの変化しかないだろう。
だからこそ、今カリラを……足手纏いを背負っていられるなんて思えない。
―――申し訳ないが、カリラとの冒険も、生活もこれでおしまいだ。
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