第182話 瓦礫の城の主
「にしても随分なセンスしてんなぁ……聞いてんだろ?お前に言ってんだよ」
長々と続く廊下に飽き飽きしてきたのでそろそろコチラからアクションを起こそうと思ったんだけど、これで反応がなかったかなり恥ずかしいってか痛い奴なんじゃね? いきなり壁に向かって「聞いてんだろ?」だしね。本当に中二心が疼いちゃうね。
「おぉー。随分なご挨拶だな」
目の前に生体魔具で大盾を取り出し、飛来した壁のような矢を盾の陰に隠れることで何とかやり過ごす。
気配がないから正直かなりぎりぎりだけど、俺がギリギリだってことを悟らせないように笑みを浮かべる。
「んで?次は何してくれるのかな?」
そう話しながらも背後から静かに迫ってきた小型の虫のような機械を糸で縛り上げ、切断する。
これも周囲の動作音に常に意識を向けていないと即やられるレベルの攻撃だ。入り口で出会ったあのポンコツは戦闘能力だけなら英雄未満だが、カリラがまだ追ってこないことから回復能力がやはりあったという事で間違いない。そんな相手を粉々にしてここに来られるような脳筋は今の攻撃で一撃でゲームオーバーだろうな。
本当にこれを考えたやつはなかなかな性格してやがるぜ。
「来てくれないならこっちから行ってやらァ!」
背筋に上ってきた悪寒をかみ殺し、何とか自分を鼓舞して声をあげる。そうしないとこれほど悪辣な戦い方をしてくるような奴と戦える気がしない。
実力は俺よりも遥かに上。個性か異能の干渉力も俺なんかとは大違いだ。普通であればこんな格上に戦いを挑むなんざ自殺行為に等しいからやりたくねえんだけど、ちょっと気になることがあるんだよね。
英雄や勇者に遠く及ばない俺の全力疾走を見てどう思ったのか分からないが、それでも一応警戒はしてくれているらしく、目の前からお決まりの巨大な岩が俺に向かって転がってきた。
「―――邪魔だぁぁあああッ!!!!」
盾をしまい、次に取り出したのは超小型の掘削機。しかも人が装備することを前提に作られたフォルムはなんていうのかな……そう。凄くロマンを感じますね。
このメカメカしい感じといい、ドリルのような飛び出した部分と言い、回転するところとか最高だぜ。そのおかげでついついテンションが上がっちまう。
足元と俺の両脇に支柱を下ろした掘削機が回転を始め、転がってきた岩と衝突する。
掘削機特有の削るような音が周囲に響く中、俺は想像以上の硬度を誇る目の前の岩に一瞬冷や汗が出た。
この掘削機は当時のマキナの連中に作らせた特別製だった。それでも一撃で突き抜けられないって言うのが何より恐ろしい。
あまりの岩の威力に足が地面を滑り、打ち込まれたスパイクが地面をえぐり三本の筋を作り上げたところでようやくその岩を破壊し終わった。
これほどの硬度ってだけでも恐ろしいが、この岩は間違いなく“ぶつかってから”突進の力を強めてきた。
そう考えると、この岩さえもこの瓦礫の城の主の力で操作されていると考えていいだろう。
「やっべぇな。完全に舐めてたわ……」
紫結晶が1つもない。そればかりか装備だって万全とは言い難い。この状況で童亭に集まっていたレベルのやつに会ったら間違いなく殺される。
今の俺にそこまでの実力差を覆す切り札が無い。それに何より直接それが施行している訳じゃないので気配もないし無機物には神剣は歯が立たない。
まさかここまで相性最悪の敵がまだいるなんてね。マキナの連中よりも最悪だよコレ。
さすがにこのままここで戦い続けて生きていける気がしないし、向こうは俺の力を今ので粗方図り終えたころだろうしさっさとこの奥にいるやつのとこに向かいますかね。
じゃないと俺が死ぬ。本気で死ぬ。
「ユーリビーム!」
ビームとは名ばかりのパイルを射出し繋がったロープを巻き取り機が急激に巻き取ることで予備動作無しの急加速を実現した。
―――別名むち打ち加速。
そりゃもう首や腰ががっくんがっくんするけど、さすがに自分でタイミングを操作できるからそこまで重症になるようなことはないけど、最初は1回やっただけで三日は動けなかったとかあったしな。
俺の走る速さを考慮した配置をしていたのか、全ての攻撃や罠が俺の背後を通り過ぎていく。
高速移動は数秒で終了したが、パイルを引き抜き、再びセットする時間はさすがに与えてくれないようで、引き抜いたままのパイルを右手に持ち、左手に剣を持ったスタイルのままで迫りくる小型の虫のような機械共から逃れるために最奥のドアを潜り抜け、内側から“
「くっそ……退路を断ってくるとは……なんて性格が悪い敵なんだ……」
一瞬冷ややかな視線をどこからか感じた気がするがそんなものは気にしない。
とにかく今は目の前にある巨大なディスプレイに写り込んでいる男の事を考えないとまずいな。
俺の飛び込んだ部屋の中は様々な機械が犇き、ホルマリン漬けみたいな状態の人間が複数体いて、一番奥には黒い眼帯をしたオレンジの髪を短く入り揃えた男がゲスイ顔をこちらに向けてきていた。
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