第181話 スクラップをスクラップにしてやんぜ
その後資料を見たがるカリラを何とか宥め、俺達は情報にあった王子が最後に目撃された場所に向かっていた。
シティーオークの集落の外れにあるその場所は周囲とは異なり、悪臭を孕んだ風が頬を撫で、無造作に放置されたかつてこの集落で使われていたであろう荒廃した様々な機材。それらが偶然か人為的にか折り重なり、まるで巨大な城のようにさえ見えてくる。
俺達はその一見巨大な建造物のようなゴミの塊に向かって歩みを進めていった。
このゴミ溜めが王子の目撃情報のあった最後の場所なんだけど……どうにもきな臭いんだよね。まあ王子がこんなことろにいるってだけできな臭いんだけど、それだけじゃない。
周囲には一切“生き物の気配”がないんだ。城の中からは微かな気配を1つ感じるのみで、それ以外はまるでない。これだけの広さがあってオーク一匹の気配もないなんてのは異常だ。
「気が付いちゃったかいカリラたん」
「んだってんですかこの異常な空気………鼻が曲がっちまいそうな臭いより、やべえ気配がしやがるじゃねえですか」
そう言ったカリラは既に隠し持っていたナイフを指の間に挟み込み周囲を警戒している。なんだかんだ少しづつこういった荒事に慣れてきた感じがするね。特異体質の力を安易に使わなくなったところとかもかなり成長したと思う。
もともとかなり強力な特異体質だったし、ここぞという時の切り札になりうるものだしね。
「まあ今は警戒しなくて大丈夫だよ。どうせこの場で向こうから来るつもりはないみたいだし」
ちらりと見やったのは、瓦礫のように積まれた廃棄された機械の中に隠れながらこちらを見つめる一つのレンズ。
そのレンズはこれだけのゴミの中にあるというのに埃一つついていない綺麗な物だった。だからこそ俺はそれが人為的に配置されたものだと感じることができたんだけどね。
まあ要するに、面倒ごとの臭いがプンプンするんだって話。
そのまま瓦礫の城を目指して歩みを進めていくと、次第に隠されているカメラの数は増え、具体的なことを言わない俺に対するカリラの機嫌がどんどん悪くなり、終いには背後からナイフが飛んできやっがった。
「いい加減説明しやがれってんですよ。テメエ一人で何分かったような顔してやがんですか」
「いやマジでさ、説明するよりもあの城の中に入った方が早いと思うんだよ……だから足を踏まないでください!!!」
あと数メートルで城の中に入ることができるというところまできて、カリラがついに大爆発しました。
まあでも俺も全容を把握しているなんてことはないし、そもそもあそこに入れば何かしらのイベントが起こるんじゃないかなって考えてるだけなんだけどね。
渋々俺の胸倉を捻って空中に晒すのを辞めてくれたカリラは忌々しそうに俺の顔を見てから腕を組んで馬のように一度嘶いた。
乱れた襟元を直しながら瓦礫の城の中に入っていくと、先程までは数メートルに一台程の感覚で配置されていた監視カメラのような機械が一気に数を増し、入り口を見張っている物の中で、俺が発見できる数で四倍ほどまでに数が増えた。
城の中はさすがは瓦礫の城と言ったような感じで、埃っぽさと辺りに無造作に積み上げられた瓦礫が疑似的な柱の役割を果たしているのか、俺達の頭の上にまで積みあがっており、中には今にも崩れてきそうな物もあるが、どうやら人為的に補強がなされている物があるようで、崩れそうで崩れないぎりぎりのラインを保っている。
奥には明らかに人ができりできるくらいの道があり、その奥には微かに気配を感じる。
「……まあそうなるよね」
ため息を吐き出す俺の横でカリラがナイフを収納袋から取り出して構えた。
俺も面倒だが、盗賊から奪った剣を抜き放ち、瓦礫の山の中に隠れていたのであろう存在に相対した。
不釣り合いなパーツを強引に人型に組み上げた不出来なガラクタが動きだした。動力なんかが通っている気がしないところからそう言う個性のやつが操っていると見て間違いないだろう。
こういう遠隔操作タイプは面倒なんだよね……あの奥の気配がその正体だとありがたいんだけど……。
「カリラ、あの雑魚お願いしてもいいかな?俺には少しきついっぽいし」
「はぁ……ほんっとにテメエは使えねえですね。さっさと元凶を畳んできちまってください」
俺達の話が終わるのを待ってくれていたのか、スクラップ野郎がカリラが構えをとったのと同時にその場から弾かれるようにこちらに突っ込んできた。
「―――セヤッ!!!」
だけどそんな直線的な攻撃はそれなりの経験を積み始めたカリラの前では正直無駄も良いところで、一瞬で滑るように俺の前に出たカリラが腰の回転を利用した鋭い蹴りをスクラップに打ち込み、突っ込んできた速さの倍ほどの速さで元居た場所よりも奥に吹き飛んでいった。
「さっさと行けってんですよ。見てわかると思いますが、ありゃ生きもんじゃねえです。どうせすぐ復活するってかんじでしょ」
「おう、俺も同じこと考えてた。だけどいきなりパワーアップもありそうだからほどほどに遊んでやって追い込まないくらいを維持する方がいいかもな」
それだけ言って俺はスクラップが立ち上がる前にその脇を抜け、奥の通路に足を踏み入れた。
一瞬眩暈を覚えそうになるほどの光量に網膜が刺激され、その場で不覚にも身をかがめてしまったが、その間に何かあるなんてことはなく、ただ目の前には先ほどの荒廃した光景がまるで嘘のような、鮮やかな赤いカーペットのひかれた洋館風の廊下が続いていた。
「うわーお。こりゃ少しだけ予想外だな」
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