第176話 黒幕は悪い奴。いい奴は白幕?
「これが誘拐とかならまだあり得るんだけど、明らかに今回のことで内通者が得をするようなことはないと思うんだよ。内通するって実際は相当なリスクと精神疲労があるから誰もやりたがらないし」
内通者ってのは常に敵陣のど真ん中でいつ殺されてもおかしくないし、泳がされているだけの可能性も否定できないからね。精神疲労だけでおかしくなっちゃう奴だって結構いる。
まあ読み物とかだと結構頻繁に登場するんだけど、そう言う連中は自分の身を自分で守れるような強いやつらばっかりだし、そう言う連中はいざとなれば皆殺しだーとかそもそも内通する必要ないんじゃないかなって思うんだけど。
「なるほどっすね。だけど内通者に何かしらの事情があった場合はどう何すか?例えば家族を人質に取られてるとか」
…………。
「うるさい黙れ」
「うっわ!超露骨っ!絶対頭に入ってなかったやつっすよコレ!」
うるさい後輩だな。黙って先輩の知的な俺かっけぇに付き合えよ。
「そう言うことはない。たぶん、おそらく、きっと」
「それも視野に入れて可能性をもう一度見直していかないといけないっすね…………ってかそもそも自分たちが断片的に聞いた話で考察した犯人何か既に考え付いてるんじゃないっすか?」
「まあその可能性の方が高いよね。だけど、俺達が話し合うことで、資料の中に有った連中以外の名前が出るかもしれないって思ったのよ。まあ俺の考察でおおよそアタリだと思うんだけどね!!!」
俺はそう言って受け取った資料の中から既にエルフ共が調べていた犯人の可能性がある連中の資料を抜き出し、二人に見せた。
「てめえこんなんがあるなら最初に言えってんですよ」
出して早々、ギリッとぎらつく視線を俺に送って来たカリラ。いやね、初めから便利な者に頼るのは良くないと思うのおじさん。
「あの写真の男が誘拐の主犯であることをほぼほぼ確定として、写真何かどうやって手に入れたんだよって思ってね。そもそも、あのエルフ共が“本当の事”を話しているとも考えにくいし」
「そこまで疑ったらもう何も信用できないっすよ……」
「信用しなくていいんだよ。それが冒険者だ。信頼関係なんてのはギルドと作るものであって、依頼主と信頼関係何か構築するなんて不可能だ。できることはせいぜい利害関係の構築だろうね」
じゃないと、体よく使える駒になるのがオチだよ。そう言う場所なんだここは。
「さってと、ンじゃ話もまとまったし抜け道探しに行きますか」
立ち上がる俺に、カリラは既に思考を放棄したのかため息を吐き出し、小鳥遊は理解できていないというように俺に声をかけてきた。
「今の話しで何が纏まったんすか!?」
「まとまったよ。俺の中で。まあそれをこの場で言うつもりはないし、君らに話すことはないだろうけど」
じゃないと、こいつら程わかりやすければ仕草に出ちゃうし。それだけでリスクを背負わなきゃいけなくなる、
ちょっと面倒な事になりそうだけど、それでも比較的安全な方に行けるというのならその面倒は必要だ。
「もういいっすよ……勝手に心の中見てやるっすから」
小鳥遊が何かを小さな声で呟き、視線を地面に落とした。
あえてそれには触れず、会計を済ませ、俺はカリラを伴って外に出ていった。
ここからは別行動を考えてる。カリラと小鳥遊には攫われた王女の情報を探してもらう予定で、俺は抜け道を捜索する……ってか既に目星は付けてるんだけど。
「カリラは何かあったらチャット飛ばしてね。小鳥遊と組ませたのはそういう事だから」
「まあ仕方ねえですね。そっちもおわりゃ連絡入れやがってください。合流してこっち手伝わせますんで」
「まあ、大丈夫だと思うけどね」
俺の発言に対し、何かを言おうと思ったのか、カリラは眉を吊り上げこちらに一歩歩み寄ってきたが、それを聞くよりも早く走り出し、俺は二人から離れた。
俺の目的地は街の周囲を覆う障壁だ。物理的な境界を意味している障壁だが、ここの物は結界としての意味合いも持ち合わせているようで普通であれば一筋縄ではいかない堅牢な“檻”なのだろう。
まあ、俺くらいのハンサムになると顔面からあふれ出すハンサムオーラが障壁も結界もメロメロにして溶かしちまうんだけどね。
「はいかんりょー。チョロすぎってかバカ過ぎ」
この街にある12の魔力供給等が1つの陣を模っていることはすぐに分かった。俺がいなくなってから編み出された技術なのか分からないが、この程度の陣で俺の事を閉じ込めておけるという発想自体がバカ野郎だぜ。
俺が使う陣術の中には24の支柱から成る封印とかもあるし、もっと高度な物も可能だしね。
こんなんでも一応“陣の開発者”なわけだ。当然俺以外のやつが陣を使ってきた時用に色々してるんだよ。ってか、それを考える方が時間かかったのはここだけの話しだ。
一仕事終えたし少しのんびりしながら観光でもしたい気分なんだけどなぁ。どうにもそう言う訳にはいかないみたいだし、これからが忙しくなるぞー。
優雅にその場から立ち去りながら、俺は情報を集めに行った二人を探しに街の方に向かって歩みを進めた。
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