第175話 作戦会議は主人公の独白

 シティーオークの集落に潜入することができた俺達はまず、情報収集がてら先程からオーケストラの大合唱を奏でてるカリラたんの欲張りポンポンを餌付けすることにした。


「……こっち見んじゃねえですよ。目ん玉繰り抜いて便所に流しちまいますよ」


「一々発想が怖いんだよねうちのメイド。もう改名してメイドインヘブンとかどうよ?時間操作するところとかもなんかあれだしさ。俺のことも是非天国に連れてってくれないかな?あ、当然その体をつか―――」


「この人ってほんっとバカなんじゃないっすかね……と言うか主人の頭にナイフ突き立てるメイドとか聞いたことないっすよ……世間では『さすがご主人様!』とか『凄いですご主人様!』が流行ってるってのに、ここだけ全部に『頭にナイフ刺されて死なないとか』って言葉がつきそうっすね……」


「安心しやがってください。こんなことで死んでくれりゃ今頃100回はぶっ殺してやってますんで」


 そう言ってカリラは俺の頭に刺さっているナイフを抜き取り、付着していた血を払ってから俺の買い与えた収納袋にそれをしまった。


「んじゃいくか」


「ほんとに人間っすかこいつ……」


 背中から後輩の糞みたいな声が聞こえたけど気にしない。と言うかカリラはマジで人間じゃないんだよね。なんたって魔族だし。この世界には人間以外も沢山いるし。そう言うのわかってない感じが初心者感あるよね。


 俺達は手近な飲食店に入り、俺はオムライスを、カリラはメニュー流し読みという暴挙を、後輩にはシチューにつける用のパンを単品で買ってあげた。


「いやちょっと待ってほしいっす!なんで自分だけこんなんなんっすか?」


「は?お前“こんなん”とか酷い事言うんじゃねえよ。作ってくれた人に迷惑だろぉが!あ、オムライスうまっ」


「うっざ!この人うっざ!!!どんな性格してるっすか!?」


 小鳥遊はそんなことを言いながら俺のオムライスのデミグラスソースをパンでかすめ取っていきやがった。


「さてさて、腹もいっぱいになった事だし作戦会議を始めましょうかね」


「まぁ、ちっとばかし足りねえところですが、文句はねえです」


 そんなことを言いながらまたもや爪楊枝を咥えて、お腹を摩っているカリラ。どう見ても俺と、小鳥遊(パスタを追加注文した)の食べた量の四倍以上を食べているんですけど、まだ満足してないんですね。


「まずはブ……王女の行方を探さないといけないんだよな」


「それと脱出方法も確保しとかないとっすね」


 おや?こいつなかなか頭が回るのかな?今まで俺が見てきた転移者の中では比較的に頭が回る方だね。他のやつはチートに物を言わせればどうとでもなるって考えのやつばっかりだったし。たかだか普通のチートで英雄や既存の勇者みたいに既にチートを持って、それを使いこなしてるやつに勝てると思ってる辺りおバカさんだよね。

 俺ツエ―なんかこの世界でできるわけないのにね。本当にお馬鹿さんだよ……と経験者は語る。

 いやね、俺も最初はさ?キャロンの所で結構修行して陣を会得して、星の記憶で得た知識とかも活用して知識チートで行けると思ったんだよね。だけどそんなことなかった。

 この世界って奴は“分野”に特化しているやつらが多すぎるんだよ。ただ戦闘に特化してるなんてことはなく、もっと細かく、細分化された分野に特化してるやつがいる。


 よく例えでキルキスを出すが、アイツは全てに対して異常な能力を持っているが、その分野の一番には敵わない。魔法であればキャロンに、防御力であればイクトグラムに、回復力であればエヴァンに、人ごみの中や市街地ではブラッドに、奇襲ではオーヘンに、小細工や罠を使った戦いに関してはヴァルベニーに、能力の応用力と自由度ではマッカランに敵わない。 

 だが、キルキスの最も恐ろしいのは、本気になったアイツは恐ろしい程に頭が回る。それもそのはず、アイツの個性である矛盾は何を矛盾させるかで効果が大きく異なるからだ。

 

 そんな世界だからこそ、こういった“安全”に対する認識と言うのは大事になってくる。そこを疎かにすれば、英雄だろうが、勇者だろうが簡単に死んでしまうのだから。


「王女様を攫っていきやがったのは王子とかそこらじゃねえんですか?だいたいそんなもんでしょ」


 ぶっきらぼうにそう言ったカリラに視線を合わせながら、俺は首を横に振った。


「その可能性もあるけど、まだ結論を出す必要はないんだよね。俺達が今しないといけないのは、考えられる犯人の列挙と、小鳥遊の言った脱出経路の確保だからね。安全面を考えれば脱出経路の確保を優先したいけど、犯人像の列挙をしたところで捕まるような事も無いし、せっかく腰を落ち着けられたのもあるし、そっちから始めちゃおうか」


 自分の意見を否定されたからか、カリラは少し不機嫌気味に鼻を鳴らし、俺から視線を切った。そして小鳥遊は意外そうな顔で俺のことを見つめてきた。


「一つ、今回のことをもし個人で行っていた場合。これは個性か異能辺りで視認できないような速さで動けたり、隠密行動あるいは変身とかができるやつだと考えられる」


「変装じゃなくて変身何すか?」


「いぇーす。変装じゃエルフを欺けない可能性もある。なんせあれだけ大きな宮殿に住んでいる王女を攫うんだ。変装レベルでどうこうできるとは思えないんだよね。んで次に、貴族か王族なんかが大挙したケースだけど、街が破壊されていない事とか、宮殿に有った争った形跡はかなり昔の物だけだったから考えにくい。んで最後なんだが」


「王女が自ら逃げ出した……あるいは内通者ってところじゃねえですかね」


 俺が言おうとしたことをカリラたんが掻っ攫って言ってしまった。せっかくちょっと溜めて脅威の新事実風に言おうと思ったのに……。


「まあそれが一番妥当かな。そもそも個性持ちは1000人に1人しかいないし、異能なんかもっと少ないからね。さすがに特異体質者みたいに数十万人に1人とかの確率じゃないけど、そんな個性を持っていればこんな大それたことしなくても問題ないからね」


 強力な個性を有している者には殆どの例外なく強力な加護が与えられる。それだけ強力な個性であれば相当な加護だとも予想できることから、軍事的に圧力をかければ大抵の事は自由にできてしまう。たった一人の天才ではどうしようもなかった俺達の世界の常識はこの世界では通用しない。

 なにせたった一匹の化け物に大国が滅ぼされたりするんだし。


「可能性的に最もあり得るのは王女自らって奴だね。次点で強力な個人。しかも強力な個人の場合は、俺達に対してどこまでも粘着してくる可能性があるから、できることなら王女自らがいいかな」


「ん?いつの間に内通者の線は消えたっすか?」


「実は最初からないんだよね。これが暗殺事件や事故死じゃなくて、誘拐って時点で」


 


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