第174話 豚人族ってだけでもうあれ

「準備も整ったし、そろそろオークの集落に行きますかね」


 翌朝目が覚めた俺は未だに寝ぼけた顔でふざけてる小鳥遊と、既にきびきびと動き始めていたカリラに言い放った。


「そういやちょっと待ってほしいっす……なんでオークがあんなにイケメン何すか?オークって魔物じゃないんすか?」


 あぁ、そう言えばよそ様はそうだったね。


「この世界じゃオークは一部人族扱いだよ。森オークと草原オークと、洞窟オークと山オークは魔物で思考能力も魔物程度しかないけど、街オークは人間と共存に成功した種で、人間とほとんど変わらない見た目に、オークと変わらない力を持ってる我等の労働力の要なのさ」


「街オークッ!?明らかに一つだけ毛色が違いすぎないっすか!?」


「もうね、そういうもんだと思うしかないの。これがこの世界の正しい生き方なの。じゃないとお前、マヨネーズの木とか、ウェイパー畑とか唐揚げ君とか見たら失神するぞ?」


「商品名ッ!?そのまんまのでてきちゃってるっすよ!?」


「だぁかぁらぁ、そう言うものなの!はいこの話おしまい!」


 火山地帯にいるあの唐揚げ見たら確かに最初はビビるんだよなぁ。生で食えるしってか既にカラッと揚がっちゃってるし。どういう経緯で誕生したのかは完全に不明だけど。


 やかましい後輩を放置しながら俺とカリラは準備を進め、馬車に乗り込んだ。

 それに続いて小鳥遊も乗り込み、全員が腰を落ち着けたタイミングで御者が話しかけてきた。


「お客さん、今日はどこまで行きましょうか」


「ストーカーのいない世界まで」


「ははっ、そいつは無理だぜ旦那…………たとえどんな世界に行こうともこの私の時空操作で必ず追いかけるのだか―――」


「最近は良く馬車から人が落ちて怪我するらしいから君も気を付けるといい」


「いや、完全に今蹴り落して轢いたっすよね?故意に方向転換してさっきの人轢いてから進路に入ったっすよね?」


「いいか?大人って奴はな、辛い事は酒を飲んで忘れることができるんだ」


「記憶まで消そうとしてるッ!?ってか飲酒運転はやめてくださいっす!コンビニに突っ込んじゃうっすよ!」


「バーロー、俺はまだまだ大丈夫だ!判断能力だって鈍っちゃいねえんだ!」


「そう言うやつが一番危険な―――あぁ、死んじゃったっす……」


 口論の最中に後頭部にナイフが3本刺さり、俺はその場で意識を手放して……はいないけどぶっ倒れてしまった。

 ご丁寧に麻痺毒まで塗られていたみたいね。まあウイルスバスターで簡単に消せるんだけど。


 御者も面倒だったしそのままカリラに任せ、俺は馬車の中に引きずり込まれて座席に投げ捨てられた。

 俺のことを若干心配そうに見てくる小鳥遊の顔面に唾でも吐いてやろうかとも思ったけど、仰向けでやったら俺の顔にもかかるからやめた。

 その後小鳥遊は俺から興味を失ったのか、はたまた俺が唾を吐きかけようとしたのを読心で知ったのか近寄ってこなくなり、一人で静かに窓から見える景色を眺めていた。


 ほんっとこうやってみると女の子に見えちまうぜ。可愛げのある顔とか、白い肌とか、男のくせに何かいいにおいするし……って俺はなんてことを考えちまってんだ……あぁ、死にたい……。


「カリラ!」


「ひっ!?な、なんだってんですかいきなり……」

 

 御者台に上がり、俺はカリラに話しかけた。

 これから行う事は俺の中で大事なことなんだ。本当に、それはもう命と同じくらい大事なことなんだ。だから決してやましい気持ちはない。本当だ。


「そいっ!」


 むにゅっと、唐突にカリラのおっぱいを揉めば、俺のジャスティスソードが戦闘態勢になった。


「よかった、ちゃんと女の子に反応してくれるんだね俺のクララ」


 そしてそれと同時に、眼球をぶち抜くような勢いで目つぶしを食らい、その後この態勢ながら股間に鋭い一撃を浴びて、気が付いたらオークの集落に到着していた。何を言っているのか分からねえと思うが、俺にも罪の意識がないから分からない。


「さっさと降りやがれ……てんです!」


「ぐぺ……」


 馬車から引きずり降ろされた俺はそこでようやく顔を上げ、500年ぶりに街オークの集落を目の当たりにした。

 

「空港っすかここは!?」


 入口にはあの動く歩道があり、透明な筒の中をそれで移動できるんだけど、俺のいた世界でよくある近未来都市がそこに出来上がっていた。

 マキナも早くスチームパンクでかっこつけるのやめて近未来都市にシフトチェンジすればいいのに。あいつらの中だけの流行りでやってるだけだからねあのスチームパンク。いやカッコイイとは思うんだけどさ。

 

「よっし早速潜入だ」


「テメエは不死身なんじゃねえですか……?」


 後ろから不本意極まりない言葉を投げかけられるが、気にしない。気にしないったら気にしない。

 

「止まれ、シティーオークの集落に何の用だ」


「シティーボーイかよ」


「テメエは黙ってろってんです!……私らは観光しに来ただけだってんです。シティーオークの美しい都市を一度でもいいから見てみてえって……そこのやつが」


「なるほどな。確かに田舎者の様だ。最近は何かと物騒な事も多いからお前たちもあまり目立たないようにしろよ」


 そんな感じで簡単に通してくれました。

 それにしてもシティーオークの武装がSF感ある銃ってのがいいね。あの実用性の無さそうなごてごてした感じが特に。

 ただ俺の顔見て田舎者って言ったことは忘れねぇからな。

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