第173話 安心は買えても、安全はなかなか買えない

「着きやがったんでさっさと降りやがれってんです」


 どうやらようやくエルフの里についたみたいで、外からカリラの声が聞こえてくる。

 それを聞き、俺と小鳥遊は外に降りたんだが……


「えぇぇぇぇぇええええっ!?!?」


 そうなりますよね。


「どうなってるっすか!?なんで……なんで近代都市っ!?ってか明らかに文明水準が自分の世界より高いっすけど!?」


 マキナから機械をジャンジャン取り入れてますからね。それにエルフは魔力容量が俺達人間よりもかなり多いから魔道具使いまくれるって長所もあるし。


「さて、村長の所に向かいますかね」


「これで里……シティーじゃないっすか……」


「てめえまた何かしやがったんですか?さっきよりも何か疲れた顔になっちまってるじゃねえですか」


「なんでも俺のせいにするんじゃありません。これはこの世界の問題です」


 森の中にあるコンクリートジャングルを歩き、最も大きな宮殿の前に到着すれば、門番に速攻で止められてしまった。

 まあはたから見ても冒険者には見えないからね僕たち。


「てんめぇ!うちのカリラたんの前に立ちはだかるたぁいい度胸じゃねえか!スムージーにされても知らねえからな!」


「そんな遠くから、しかも建物の陰に隠れて言われても何の説得力もないっすよ……」


「はぁ……【スキップ】」


 イラつき9割、呆れ1割のカリラが突如俺の目の前に現れ、俺の持っていた依頼書をひったくると同時に、顔面に2発、腹部に3発いいのを貰って俺は卒倒した。


 さすが近接特化型のスタ◯ド使いだぜ……時間を消し飛ばして接近してきやがった。永遠の絶頂はお前だけのものだ……。


「依頼を受けた冒険者でやがります。村長に依頼の件で話しを聞きに来やした」


 そう言うと門番は二人を中に通し、置いて行かれた俺をまるで生ごみに向ける様な視線で見てきた。


「なんだぁテメエは!この俺様のセックスピストンズの餌食になりてぇってえのか?あぁ?」


 自分で言ってて不愉快だからやめよう。そんなス◯ンド要りません。オーヘン辺りが持ってそうだな。

 結局後から俺を“取りに来た”カリラに引き摺られ、俺も宮殿の中に入ることができた。


 謁見場のような場所で頭を下げながら村長が頭を上げる許可を出すのを待つ。隣にいる小鳥遊は典型的転移者の様で、図々しい態度でふんぞり返ろうとしたので、脚を思いっきり踏んでやった。 

 見た目的にはこれで頭を下げてるように見えるはずだ。


「お初にお目にかかります。エルフの王。私はビターバレーに拠点を置く冒険者のユーリと申します。この度はエルフの姫君を奪還するため馳せ参じました」


「良い。頭を上げよ」


「はっ」


 え?ちゃんとする時は出来ますよ?長いこと冒険者やってりゃ信用を大事にしないといけないしね。


 顔を上げ、視界にようやく入れることのできたエルフの王は、肥え太った体に、端の横に巨大なハナク……ほくろがシンメトリーで配置されたガマガエ……エルフだった。それがキャスター付きの玉座的な車椅子的な何かに乗っている。あれだよあの、エックス男のボスが乗ってたやつ。


「ぶふっ……エルフ……これで……」


「やめろ笑うな。マジで怒らせると面倒なんだよ……」


 エルフってマジで怒ると面倒なんだよね。自動警備ロボとか作動させてくるから。

 

「これが我が娘のへカテリーナをさらったオークの男だ」


「やっぱりオークは見境がないんすね……ってはぁ!?」


「お前の言いたい事はよくわかるから少し黙ってろ」


 


 バトラーのような恰好をしたエルフが1枚の写真を俺達に見せてきたんだが、そこに写ってたのがブラウンの髪を短く切った好青年の写真だった。 

 マキナと友好のあるエルフだからこそ写真があるんだけどね。魔法使う連中は未だに写真撮られると魔力量が減るだの、血統に異常が出るだの言ってるから使われないけど。


「現在へカテリーナはオークの集落に囚われておる。そこに赴き、我が娘を奪還してきてほしい。その際に、この霊薬をへカテリーナに飲ませてやってほしいのだ。我が娘は憎きオーク共の力で呪いを掛けられてる。そのせいであのような醜い姿に……」


「お任せください王様……いいやお義父さん!必ずやこの稀代の英雄ユーリが娘さんを救い出して見せましょう!」


「てめっ急に調子に乗るんじゃねえですよ!それにお義父さんとか頭に蛆でも沸いてんじゃねえですか!?」


「うむうむ。随分と勇ましい冒険者の様だな。へカテリーナもあのような軟弱者ではなく貴殿のような勇ましい男を婿にしていれば何も問題はなかったんだがな」


「では行ってまいりますお義父さん!」


「うむ。行けぇ!冒険者ユーリ!必ずや我が娘へカテリーナを連れ戻してくるのだ!」


「なんすかこのやっすいRPGの出発シーンみたいなやり取り……」


 宮殿を後にした俺は出来うる最善の準備を行いながら頭の中で王女救出の作戦を練っていた。

 それを呆れた顔と言うか、もはや殺意しか感じられない表情で眺めるカリラと、気楽そうにそこらを見て回ってる小鳥遊。


「ってかなんで宿にエアコンと冷蔵庫とルンバがあるんですか……ってか既にトイレが水洗でウォシュレット!?洗濯機まで!?」


「これがこの世界の普通だ。まあここは特別近代機器が多いみたいだけどな。ちなみにエルフはエアコンに負けたのだ」


「バカ主人。この洗濯機うちにも買いやがれってんです。これがあるだけで洗濯の手間が格段に減るじゃねえですか」


「そもそもウチがありません。だから買いません」


「ちっ、これだから糞貧乏野郎の奴隷なんざ嫌なんですよ」


「聞こえてるからなッ!?それにユーリさん貯金額だけは相当あるからね!?これから先何も問題なく平和で進んで行けばそれこそ300年くらい引きこもれるくらい貯金あるからね!?」


「なんでそんなに金があるのにこんなことしてやがんですか」


「安心を買うために安全を売るとかバカじゃん?本末転倒じゃん?」


「喋り方がうっぜえです」

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