第172話 誰しも心に闇を抱えてる
「や、やあ大塚。奇遇だなこんなところで会うな―――」
見苦しい言い訳を言ってきたので、簀巻きにした状態のまま馬車から蹴り落した。
これでようやく悪は滅んだ。
「カリラは御者できる?できなきゃ俺がするけど」
「そんぐらいは楽勝だってんです。テメエはそいつから話し聞きてえんでしょ。さっさと済ませちまってください」
馬車の行先は森の中にあるエルフの里だ。そこまでは普通に街道が通ってるから何も問題なく進んで行くことができる。
だけどまあ、こんなことになるならマキナでバイクとか仕入れてくればよかった。
この世界で乗り物が発展しない理由として、英雄が走った方が早いってのと、バシャヒクノスキーとかいう基地外生物の存在がある。
戦車にぶち当たって駆け抜ける基地外馬野郎や、最上級の英雄クラスの都市間ジャンプとかそう言うのが横行するから乗り物が発展するわけがない。
大量の収納袋をぶら下げたドラゴンライダーも昔はいたんだけど、最近は本当に見ないな。
「なんなんすかこの世界……普通に機械があるじゃないっすか……」
「だから言ったでしょ?そんじょそこらの異世界で革命的に騒がれる物なんかこの世界ではよくある物なんだよ」
「じゃ、じゃあ芋は!?芋で飢餓を救うとかそう言うのは!?」
「ありえないな。そもそも芋なんかよりも魔物の肉の方が簡単に手に入るしそんなことで救える飢饉があってたまるか」
再びがっくりと肩を落とした小鳥遊に、少しだけ同情する。俺も最初はそんなことを考えもしたさ。だけどさ、色んな時間軸から人が来るんだから色んな時代の技術が混濁するわけで、もう世界はとんでもないことになってる。
まあ科学技術とかはマキナに独占されてるから殆ど出てこないけど。
「自分銃で無双とかしてみたかったっす……」
「無理無理、火薬で飛び出した金属の玉程度が鍛えられた英雄の筋肉にかなうと思ってんの?魔法銃なんかはそれなりに効果あるけど打ち出す魔力分を纏ってぶん殴った方が強いからね」
ブラッドみたいなのは例外だけど、英雄に通用する弾丸を打ち出して肩が外れない筋肉を持ってる連中は殴った方が強い。
「脳筋ゲーじゃないっすか」
「基本脳筋しかいないからねこの世界。むしろ主人公が飽和気味だよ」
「そう言うお兄さんはどうなんすか?それだけ詳しいってことは相当に強いんじゃないっすか?」
「バカ野郎。加護や寵愛の話は個性解放の時に聞いたと思うが、俺にはそう言うのがまるでないの。草も木も持ってる加護も寵愛もかけらも存在してないの」
「うわーそれって絶対隠された力とかあるパターンじゃないっすか!捨てた仲間を見返してざまあ展開とか燃えるっすよね!」
「あはは、うん。そうなればいいねほんと」
これだからラノベ脳ってやつは駄目なんだ……すぐに隠された力とか、力に目覚めてとか、駄目だと思ってた能力がチートでーとかそう言うことを言い出すんだから。
俺なんか正真正銘何もないおじさんだったんだぞ。異世界でチートも俺つえーもなく、ハーレムさえなく、スローライフでもなく、何かを生産して世界の経済を牛耳るわけでもなく、悪役令嬢に踏みつけられ、S級パーティーから追い出されるどころか仲間にしてももらえないし、テンプレチョインいないし、元々凄い力がある訳でもないし、特殊な武術とか修得してないし。
そーゆーのは基本的に俺以外の連中が既にやってくれてるんだよばーかばーか。
「ひょっとしてこのお兄さんマジでただのモブなんじゃないっすか……」
「おい。こんなにイケメンなモブがいてたまるか」
「頭にナイフ刺さっても死なないですし、ギャグ要員って感じっすかね……」
「話を聞きなさい。そして目をそらすな。俺の顔がイケメン過ぎて直視できないのは仕方がないが」
そんなこんなで話をしながら約30分ほど揺られた時だった。小鳥遊が俺に唐突に話しかけてきた。
「お兄さんの個性ってなんなんっすか?」
「いきなりざっくりと聞いてくるなおい。普通は言わないんだぞそう言うの……まあ異世界の後輩になるんだから説明しておくと、俺の個性は“取り寄せ”って言って、あらかじめ取り寄せ場所に置いておいたものを取り寄せることができるって個性だ。だから……こうやって道具なんかを出すこともできる」
「おぉ!何かファンタジーっぽいっすね!」
「そう言うちみの個性はなんなんだ後輩よ」
「急に先輩面してくるっすね……自分の個性は“読心”っす。人の考えてることが分かるって個性っす」
「誰が独身じゃこらぁぁぁあ!!テメエに俺の気持ちが分かるのか!?あぁ?」
「うげ、へんなスイッチが入ちゃいまいましたよコレ……」
「俺だってな!?頑張ってんだよ!!!ブレアだって俺に惚れてると思ってたんだよ!それなのにあのじじいが奪っていきやがったんだ!ローズだって「あれ?これ俺に気があるんじゃね?」って思ったら稲辺さんまっしぐらだよ!むしろ形から入るタイプだったよ!もう俺に残されたのは須鴨さんと坂下しかいねえんだよ!!!その俺の気持ちをテメエみたいなオネショタ美人受けしそうな野郎にわかるってのかこら!」
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