第171話 世の中には三種類の変態がいる

「オラオラそこをどきやがれテメエら!!!カリラ様のお通りだこらー!」


 ドアが蹴り開けられたことで動きを止めてた連中を押しのけながら受付の所まで来れば、俺の服の襟がまるでクレーンのような力で持ち上げられて、俺は可愛い子猫ちゃんのような……子猫ちゃん(イケボ)のような持ち上げられ方になっちまった。


「何事もなかったみてえに話を進めようとしてんじゃねえですよ」


 その後、新しい腕ではなく、今度は顔を新調しないといけないかもしれない程ぼこぼこにされた。


「あはは……え?なんでお兄さんは頭にナイフ刺さって死んでないっすか?え?自分の頭がおかしくなっちまったんですか?」


「こいつは脳みそが空っぽですんで多少刺さってもダメージがねえんですよ。それよりテメエは誰だってんですか?」


「あぁ、申し遅れたっす。自分は小鳥遊たかなしたまきっす」


 小鳥遊たまき、ねえ。隠す気があるんだろうかね。


「あ、ちなみにこのハンサムは私のだいしゅきなご主人様のユーリ様ぐぼらっしゃッ!?」


「テメエの不細工な裏声で私の声に似せられると思ってやがることもむかつきますが、なにがだいしゅきだってんですか。脳みそ耳から引きずり出しちまいますよ」


「おいてめえら!こうなりたくなけりゃ今すぐ道を開けやがれ!うちのカリラたんマジ舐めんなよ!?こいつぁやると言ったらやるえぐみがあるッ!!!」


 頭にナイフが三本刺さった俺がそう言ってやれば、ギルド内にいる連中が慌てた様子で道を開け始め、受付までの道が開けた。

 と言うか誰も医者を呼んでくれないんですか?


「まあいいや、お姉さんこれ受けるんでよろすこ」


「まあいいやで致命傷を無視する冒険者の方は初めて見ました……」


 いつも俺に求愛してくる受付嬢じゃなくて別のおっとり系の受付嬢が承認印を押し、俺達は正式に依頼を受けることに成功した。

 ってか掲示板から紙引っ張って受付に出すまでで死にかけるとか人生ハード過ぎだろ。


「さてっと、誘拐された王女様の写真はっと……」


 俺は受付で渡された封筒から王女の写真を引っ張りだし、そして……


「キャンセルしますッ!!!」


「キャンセルとなると違約金が発生しますが本当によろしいでしょうか」


「なんでもいいんでとにかく解約します!本当に行きたくありませ―――」


 俺はハンサム探偵の大塚悠里。奴隷でオナペットのカリラたんと遊園地に遊びにいって……エルフの王女が糞ブスだという現実を目撃した!!現実から目を背けるのに夢中になっていた俺は背後から近づいてくる奴隷のカリラたんに気づかなかった……俺はカリラたんに後頭部にとんでもない一撃を食らい、目が覚めたら……ブスを助けに行くことが決まってしまっていた!


「テメエは一人でなにほざいてやがるんですか……」


「あっはっはっは……やばっ、やばいっすまじ……は、腹が……」


 いやそりゃキャンセルもしたくなりますよ?だって王女マジでオークって言われた方が信じられるし。王女ってめっちゃいい奴か、性格のねじ曲がったキャラだけど、基本的に可愛かったり綺麗だったりするじゃん……エルフ大丈夫かよマジで……あ、大丈夫じゃなかったわエルフ。よそ様の世界は知らないけど、ここのエルフはマジで駄目だったんだった。


「ってかさ、展開が早すぎてイマイチ理解しきれないんだけど、なんでもう馬車で移動なの?少し展開急ぎ過ぎてません?これじゃまるで俺があのブスを助け出したくて仕方がないみたいじゃん」


「いいんじゃないっすか?これでエルフに恩を売れるんならお得っすよ」


「あのね君、ここをどこだと思ってるの?よそ様の世界でエルフがどんな扱いか知らないけどさ、ここのエルフはお前の想像してるような高貴で傲慢な種族じゃないからね?本当にどうしようもない連中なんだよ?見た感じ転移間もない感じでギルドに登録もしてないみたいだけど、ここをそん所そこらの異世界と同列視して、知識チートとか、俺つえーとか考えてるならマジでやめた方がいいぞ」


「あはは……あれ?自分転生者だってはなしたっすか?」


「見ればわかるだろ普通に。ってか転移者な。見た感じあれか、普通の現代日本から来た感じのやつだろ?残念だけどこの世界でマヨネーズ作ってもバカにされるだけだぞ」


「え、マジっすか?ってかお兄さんもまさか転生者……じゃなくって転移者何すか?」


 こいつマジでバレてないと思ってたのかよ。それにマヨ作ろうとしてたんだね。本当に残念な奴だな。


「この世界じゃマヨネーズは木から生える。しかも容器付き。もう世界感とか中世とかそんな安い話じゃないの。セグウェイもあるくらいだからね?」


「はぁっぁあ?どうなってんですかこの異世界……自分の知識チートの夢が……」


 馬車の中でぐったりと肩を落とした小鳥遊はそのままうーうーと唸り始めてしまった。


「この馬車はカリラたんが?」


「ちげえます。通りすがりのストーカーが寄越しやがったもんです」


「……ちょっと立って。うんうん、そのままね……」


「てめえ何してやが……あんのストーカー……舐めた真似してくれやがって」


「いいかいカリラたん。世の中には悪いストーカーと、迷惑なストーカーと、ごみクズの生きる価値もないような劣悪なカストーカーの三種類がいる。悪いストーカーはカリラたんの追っかけの見妃たち。彼女たちは人相が悪い。次に迷惑なストーカーだが、これはラフロイグが該当する。もう本当に迷惑極まりない。そして最後のやつに該当するのは……会長だ」


 俺の足元には27の盗聴器と、33の隠しカメラ、4の熱源探知センサーが転がっている。

 その中で、俺は盗聴器を順番に踏み潰していけば、御者台に座っている外套と帽子で姿を隠した奴の体が驚いた様に何度も跳ね上がるのが見えた。




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