第168話 知り合いの知り合いって結構な確率で知り合い
自分の先祖がカニバリズムサイコパスメンヘラ自己中我儘女だと知ってショックを受けてるカリラと、既にゾンビみたいになってる脇役、最後に耐性があるからそこまで重症じゃないババアを伴って迷宮を抜けた。
別れ際にマッカランが寂しそうにしているのを見て、こいつマジで顔面だけは可愛いんだよなぁなんて思いながらドアを足で閉めてそそくさと逃げ出した訳だ。
そこから再びセグウェイの旅を行い、ようやく地上に出てみれば、迷宮の目の前で某パーティーのムキムキ男が倒れ、それをローズが抱き起こしているのが見えた。
「どれだけがんばりゃいいんだ……誰かの為なのか……わかってるはずなのに……
「……結末ばかりに気を取られて、この時を楽しめないのではだめですわ……夢じゃないんですの、あれもこれも……その手でドアを開けましょう……」
こんな感じの頭の痛くなる会話をおっぱじめ、今度はパーティーメンバーの別の女まで参加し始めやがった
「そうです!祝福が欲しいのなら悲しみをしり、一人で泣くのです」
「そしてぇかーがやーく……ウルトラソゥっ!」
『はいっ!』
なんだか今日は想像以上に疲れてるみたいだからさっさと帰って寝ることにしよう。ついに街の人の話を理解することもできないくらい頭がおかしくなっちまったみたいだ。
俺はその一団からそっと目を離し、そそくさと統制協会のビターバレー支部の中をババアに案内させた。
俺のトーナメントでの賞金含めた諸々を統制協会が支払い不可能と判断し、様々な特典が付けられたのだ。
ビターバレー支部の中には何故かラガブーリンが俺を待ち構えていたようで、ババアに一度頭を下げたラガブーリンが俺の前までやってきた。
「取り調べが終了した。調書はコチラに」
「あんがとさん。それと、面倒かけて悪かったな。向こうさんにはまぁ……上手いこと言っといてくれると助かるよ。最悪俺の名前を出してもいい」
俺が依頼したのは、トーナメントの際にあの人格を埋め込まれた男から、正確に言えば埋め込まれた人格を尋問し、情報を抜き出すという作業だった。
こいつら程に様々な能力者がいればそう言った専門のやつも存在する。だからこそ、俺はあの貴族の男を神剣を使って殺した訳だ。
調書にはあの男がどうやってあの遺跡に封印されている古代兵器の存在を知ったのか、どうしてそれの起動にブレアが必要なことを知っていたのかなど様々な情報が記載されていたが、最も目を引いたのは……
「……最悪だな」
情報提供者やその関連情報の所に、記憶の損耗が激しいため調査不可能と書かれていた。
情報提供者のことも分からないままだし、いつから計画されていたことかもわからない。だが、目的だけは譫言のように言っていたそうだ。
『千の武器を操る勇者様の復活に相応しい絶望を』とかなんとか。
ランバージャックの裏にいるやつのことも気になるが、こちらも気になることがある。それどころか、完全にこれは俺に対するメッセージと受け取っていいだろう。最悪のケースを想定するならば、この二つの事件が同一犯によるもので、その全ての目的が俺に帰結するという事。
俺の復活に相応しい事件を起こすためにあれだけの大それたことをしでかしたとなると、相当に俺に恨みを持つ奴か、はたまた逆のパターンなのか。選択肢が今の所多すぎて情報を精査できないのも厄介なところだ。
結局俺は黒幕に繋がる情報を何一つ得ることなくその日は眠りについてしまった。
考えても答えが出ない事に頭を使うのは面倒だしな。対策だけは立てながら差し迫ってきたランバージャックの問題に向き合うとしますかね。
翌日はかなり早い時間から活動を始めることにした。昨日のうちに脇役とは別れ、俺達は最低限の荷物をまとめてからギルドに向かっていった。
寂れた感じのギルドに入れば、中には俺のことを恐らく好きなんだろうと思う受付嬢が照れ隠しとばかりに巨大な舌打ち共に、背もたれに体を投げ出したのが見えた。
「ギルド何かに来てどうするってんですか?」
「ん?ちょっと約束があってね」
夜は酒場で昼は食堂というご都合主義感満載のブラック職場の一角に腰を落ち着け、俺とカリラは約束の人物が現れるのを待っていると、その当人は意外と早く到着した。
どうやら約束には少し早めに到着するタイプの様だ。
「お待たせしてしまったかな?」
そう言って綺麗な紫のポニーテールを揺らすグレーのスーツ姿の女は俺とカリラの対面に腰かけ、自身もコーヒーを注文し始めた。
俺とカリラは当然飯を食ってた。俺はもう自分の分のベーコンサンドを完食してるんだけど、カリラが照り焼きバーガーをひどく気に入った様子で、13個目になるそれを今完食したところだ。
「あんまり待ってないぞ。飯食ってたしな」
「そのようだね。それにしてもあなたの従者はよく食べるようだ……」
「育ち盛りだからね」
そんな会話を聖十字の団長―――エリザ・トラストとしてれば、もう一人の待ち人がやってきた。
その男はこの糞熱いのに黒いロングコートを着込み、その中には様々な武器を隠している大柄な男だった。
短く刈りあげられた髪の毛と、いかにもって感じの顎髭が良く似合うその男は俺の前まで来ると突然膝を突き、涙を流し始めた。
「千器様、お初にお目にかかります。俺は今代の黒鉄の団長をさせてもらっているディーン・ストンと申します」
「話は聞いてるからそう畏まらなくていいよ。それに俺は結局お前たちを置いて500年もほっつき歩いてたんだしね」
「いえ、俺達黒鉄は千器様のお陰で今もこうして生き残ることができているんです」
「誰ですかこいつは。どうしてテメエにこんな強そうなやつが頭下げてやがんですか?」
食事を終えたカリラがそう言い放った直後、ディーンが目にもとならぬ速さで懐から銃を抜き放ち、それをカリラの額に押し当てた。
「おいメスガキ。如何にこの方の従者だからってよぉ、口の利き方も知らねえってんならテメエの頭に鉛玉と一緒に礼儀作法ってヤツを叩き込んでやろうか?」
「上等じゃねえですか。なんだか知らねえですがテメエが売った喧嘩でやがります。返り討ちに有っても知らねえですよ」
「はいはーい。別に喧嘩してもいいんだけど他の人の迷惑になる場所ではやるなよ。それと、ディーンさんだっけか?20分以内に戻って来てね。その頃には会長も来ると思うし」
「かしこまりました。おいメスガキ、千器様のご厚意に感謝しろよ。本当ならテメエなんざ手足そぎ落として海に沈めてやるところなんだからよ」
「はっ!死にかけの老害が何ほざいてやがるんですか」
そんな感じで二人はいがみ合いながら外に出ていきました。今日も世界は平和です。
「よかったのかい、彼は黒鉄の団長だ。生半可な英雄程度では彼の相手にもならないと思うのだけど」
「そうだねぇ、間違いなく今のカリラじゃ勝てないよ。でも、カリラ自身も多分わかってて挑んでると思うんだよね」
カリラは魔族だ。魔力の容量も身体能力も様々な部分が人間よりも高く設定されている種族だ。だけどカリラはまだ人間のそれなりに強い程度の相手にしか勝てない。
あいつに必要なのは格上との戦闘経験だと思うし、それを本人もラフロイグとの戦いで自覚してるんだろうね。
あの後の自分の成長の仕方を体感したら、そりゃもっと上を目指したくもなるってもんだ。
「やぁ。お待たせしてしまったな」
「どっから現れてんだよ気持ちわりいな」
団長さんと話をしていれば、机の下に開かれたゲートから会長改め京独綾子が這い出してきた。
「エルザももういたのか。やっぱり君は時間に正確だな」
「そんなことはないよ。私が来た時には既に千器様はこの場にいらした訳だからね。私をほめてくれるのであればまず、千器様を称えるのが先ではないかな?」
「ふふっ、全くエルザは……だが、千器が凄いことなど当たり前のことだ。今更褒めたところで彼には聞きなれたBGM以外の何物でもないだろう」
いえ。褒めてください。是非でろでろに甘やかしてください。
ただしサイコ女、テメエは別だ。俺が褒めちぎられてデロデロにされたいのは団長さんだ。
「あはは、それは私も自覚しているんだけどね。この間も夫にやきもちを焼かれてしまったばかりだよ」
はい死んだー。俺の淡い希望死んだー。もうこの世界破壊したくなって来たー。そりゃそうだろうね!これだけ綺麗で性格も良さそうならとっくに結婚くらいしてるよね。
「そう言えばエルザの夫も千器に会いたいと言っていたんだったか……」
「あぁ、そうだったそうだった!千器様、私の夫と、夫の街を守ってくださりありがとうございます。風来坊で年がら年中そこらをほっつき歩いているあの人が、あそこまで人を褒めることはなかったのだが、それが千器様だとわかってからはもう私以上の千器ファンになってしまったほどで」
あれ、俺こいつの旦那と面識なんかあったっけ。
「ちなみにだけどさ、あんたの旦那さん?の名前ってなんてーの?」
「はい。カルブロと申します。移動商工都市タートルヘッツの長をしている者です」
よし決めた。殺そう。あのハゲ。
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