第167話 カーニバルとは似て非なる物
脇役は黙って俺の話しを聞いてくれていた。その姿が、以前一時の気まぐれで孤児や生き方を知らない若い連中を集めて師匠ごっこをしていた時の弟子共の姿と重なった。
あいつらは俺がいなくなった後はどうしていたのだろうか。晩年の俺にできたことなどほとんどなかったが、それでも知識と経験だけはそれなりに有ったからこそ、フィールドでの生き残り方や迷宮の歩き方、魔物との戦い方なんかを教えてやったが、それ以降はほとんど何もせず、ただあいつらの成長を眺めているだけだった。
どうにも若い連中の成長が楽しくて仕方がなかった時期でもある。今はそんなことを思わないが、それでもあの時の気持ちは俺の中に残ったままだ。
「最後にだけど、本当に強くなりたいなら基礎何か適当に終わらせてさっさと実戦経験を積め。普通はそんな方法じゃ強くなる以前の所で止まっちまうが、お前達は勇者だ。お前達は実戦の中で技術を学べる。凡人の努力の結晶をたった一度の実戦の中の気付きで易々と超えていけちまう。だからこそ、お前らは実戦を多く積むべきだ」
勇者や英雄に備わる“閃き”は、俺達凡人が訓練で数千数万とこなしてようやくたどり着く場所に立った一歩で到達しやがる。だからこそ、こいつらは最低限の知識と最低限土台になる基礎を身に着ければ即実践をこなすだけでどこまでも強くなれるんだ。
俺みたいに多くの道具に頼る必要もなく、頭を使って相手の裏をかく必要もなく、ただその強大な力で相手を真正面から殴り倒せるようになる。
「……お前は……一体何をみてるんだ……」
ぼそりと、そうつぶやいた脇役。その表情はなぜか悔しそうに歪んでいるのが分かってしまった。
「俺に見えてるものなんざ目の前のことだけだよ。お前らみたいにどこまでも先を見通せる訳じゃねえんだ。だから俺は目の前のことに必死にならねえといけねぇし、その先を考える余裕なんかないんだわ」
さて、渡す物も渡したし、そろそろマッカランたちの所に戻るとしますかね。
そう思って重たい腰を上げた時、俺の元にカリラが青い顔をしながら走ってきた。
普段は決して見せない焦りの表情と、そして今にも戻してしまいそうなのか、口元に手を添えながら必死で走ってきている。
「おうおうどうしたカリラたん」
「てっ、テメエの仲間はどうなってやがんですか!?気が狂ってるなんてレベルじゃねえですよ!」
泣き目になりながら俺にそう詰め寄るカリラの肩に手を置きながら、大体何が起こったのか想像してしまった俺はその場で溜め息を吐き出してしまった。
「何となく理解しちゃったわ……あぁ、確かに新鮮な“茶葉”が手に入ればそうなるね……俺が悪かった、ごめん」
背後では何を言っているのか分からないと言った脇役が首をかしげているが、お前のようなホモがそんなことをしても何も萌えないので是非燃えて欲しい。燃えカスさえも残さないくらいに。
怯えるように俺の服の裾を掴んで離さないカリラを伴いながらマッカランのいる場所に戻れば、案の定彼女は優雅に紅茶を飲みながら、ひきつった表情のババアと談笑をしていた。
あいつは高圧的な話し方だし、超絶我儘だけど、話すのは好きなんだよね。
「マッカラン、テメエカリラに飲ませようとしやがったな?没収するぞ」
「なによ。せかっく新鮮な物が手に入ったんだからそれをおすそ分けしてあげようとしただけなのに随分な言い草じゃないの。それに私は全く、全然、これっぽっちも、一ミリたりとも悪くはないのよ。悪いのはこの紅茶の味を理解できない低俗な舌を持ってしまったそこの女よ」
「いや、普通人の腕をティーパックに入れて作った紅茶なんざ誰も飲まねえよ……」
そう。俺がマッカランは論外だと決めている理由がこれだ。
「そうかしら?だってこの紅茶を飲むことでユーリ、あなたが私の体の一部になるのよ。ドロドロと私を構成する全てとあなたが混ざり合い、私とあなたが混ざり合った全く新しい私に生まれ変わることができるのよ?それってとても素敵なことだと思わないのかしら」
脇役、紅茶を視界に入れてからその場で嘔吐である。
耐性がないとそうなりますわな。
「お前の価値観は俺には理解できないし、お前以外に理解できるとも思っちゃいねえよ。だからカリラにそんなもん飲ませようとするんじゃねえよ」
「心外ね。私の子孫だというのなら、当然これの味を理解してしかるべきだというのに。その子ったら目ざとく、耳ざとく、そして鼻ざとくこの紅茶の原材料に気が付いたみたいで一口も飲んでくれなかったのよ?」
「人に人食を勧めるんじゃねえよ……」
「あら。バカにしないでくれるかしら?さすがの私でもユーリの肉を直接食べるなんてことはしないしできないわよ」
マッカランは両の頬を膨らまし、わざとらしく自分が怒っていることを俺にアピールしてくる。
既にそこら中をげろまみれにしてる脇役はこの際どうでもいいので放置するとして、カリラが可愛すぎる。
俺の後ろから頭だけ出してマッカランを泣きそうな顔で見てるところとか。
「ユーリのことを直接食べるなんてそんな……私には刺激が強すぎてできるはずがないじゃない。そんなことをしようものなら私は歓喜のあまり全身の穴という穴から体液をまき散らした挙句、半径20キロくらいを巻き込んで大爆発するわよ?」
「自殺の仕方が迷惑過ぎるんだよ。一人で大人しく死にやがれ糞サイコ」
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